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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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闘志と追及

研究棟の訓練室に、鈍い衝撃音が響く。


 ルカの体が床を滑り、壁に叩きつけられるように止まった。


「くっ……!」


 苦悶を吐きながら、立ち上がるルカの視線の先には――三メートルの巨体となったぬいぐるみ、〈ポコさん〉。

 その横に、静かに佇むエリアの姿。


「……まだ、やる?」


 エリアが小首をかしげる。

 対照的に、ルカは膝をつきながら手を掲げる。


「……くそっ……本気でいかせてもらうぞ」


《Crush Vein―クラッシュ・ヴェイン―》


 黒い波動が放たれ、ポコさんの全身を包み込む。

 筋肉の鎧が鈍く振動し、拳の振りがわずかに遅れた。


 今だ――!


 ルカは駆け出し、闇をまとった右腕を伸ばす。


《Hex Blade―ヘックス・ブレード―》


 闇が刃となり、ポコさんの腹部へと横一閃。


 ズバンッ、と鈍い斬撃音が響く。


「よし……!」


 だが――。


「な……っ!」


 ポコさんを包む薄い魔力の膜、〈絶対障壁〉に遮られ、刃は届かなかった。


 ポコさんが吠えるように腕を振り上げる。


 ルカはバク宙するように距離を取ると、左手を床に向ける。


燃え尽きろ……

《Abyss Flare―アビス・フレア―》


 闇色の炎が、床一面に広がる。


 漆黒の炎がポコさんの足元を包むように燃え上がる。

 ポコさんの動きが一瞬止まり、ルカは勝機を見た。


「――終わらせる!」


 しかし、次の瞬間。


「ポコさん、ドーンッてやって」


 エリアの声と同時に、ポコさんが突如猛スピードで飛び込んできた。


 黒炎を意に介さない異常な突破力。


「っ……!」


 その巨体が放った拳が、ルカの胴を捉える。


 ゴガッッ!!


 世界がひっくり返った。


 視界が回転し、床と天井が入れ替わる――そして、静寂。


「……そこまでだね」


 ファルメルが、場を制した。


 ルカの身体は床に横たわったまま。

 荒い息をつきながら、空を見上げていた。


 歩み寄ったファルメルが、優しく声をかける。


「初めてでここまで戦えたのは本当にすごいよ。ポコさんは僕の最高傑作のひとつだからね。しかも、エリアと組ませたら最強さ」


 ルカは薄く笑う。


「完敗だな……」


 ファルメルは微笑んで肩をすくめた。


「さて、今日はこのくらいにしとく?」


 そう言われたルカは、ふらつく足でゆっくりと立ち上がる。


 そして、一言。


「……いや。もう一回頼む」


──戦意は、折れていなかった。





王都中央大聖堂。


 白亜の尖塔が空を突くようにそびえ立ち、厳かな鐘の音が王都中に響いていた。


 その長い階段を、セレーヌ・エルステリアは王族としての装いで静かに上っていた。

 今回は“第一王女”として、教会との正面からの接触。


 視察という名目で、内部へと踏み込む。


 重厚な扉が開かれると、荘厳な祈祷の間の奥――その玉座のような椅子に座っていたのは、教会の重鎮にして枢機卿、〈イオルド〉


 その鋭い眼差しは、セレーヌを見据えたまま微笑を浮かべた。


「これはこれは、第一王女殿下……ようこそお越しくださいました。教会を代表し、歓迎の意を」


 口調は丁寧。だがその奥には、冷たさが漂う。


「こちらこそ、お招きに感謝いたします、枢機卿イオルド」


 丁重な挨拶が交わされるが、互いの内心にある探りは隠せない。

 セレーヌは椅子に腰を下ろすと、静かに口を開いた。


「今回は視察の名目で伺わせていただきました。特に神託院に関する慈善事業に関心がありまして」


「神託院……ですか。ええ、あそこは孤児たちに神の教えと魔力の恩恵を与える、我らが誇る施設のひとつです」


 柔らかな語り口。だが、セレーヌは淡く笑いながら、核心へと切り込む。


「その神託院に関して、少々気がかりな話を耳にしましたの。……在籍していた孤児が、突然姿を消したというものです」


「……噂、というやつでしょうな。無知なる民が時に好む、尾ひれのついた戯言です」


 イオルドの表情が、わずかに曇る。

 その瞬間を、セレーヌは見逃さなかった。


「枢機卿――私はただ、真実を知りたいだけです。この国に、そして教会に、隠されていることがないのならば」


「殿下の探求心は立派です。……だが、教会にも“神のみぞ知る領域”があるということを、どうかご理解いただきたい」


「ええ。ですが、私は王家の者として、国民を守る義務があるのです。どんな“領域”であっても、必要であれば覗き込まねばなりません」


 静かな声。

 だが確かに響いた威圧に、イオルドは目を細めた。


「……小娘が」


 人の耳には届かぬその呟きに、セレーヌは眉を寄せた。


「何か、おっしゃいましたか?」


「いえ――なんでもありません。殿下が望まれるのであれば、神託院への視察、正式にお受けいたしましょう」


 イオルドは、ゆっくりと立ち上がる。


「教会は常に、神と王家の導きのもとにあります。どうか……良き理解者でいてください、王女殿下」


 その一礼に、セレーヌもまた、頭を下げた。


 だが去り際――イオルドの背後、付き従う者達の中、赤い髪の少女が何故か目に止まった。

 セレーヌは何も言わず、その者に視線を残したまま、大聖堂を後にする。





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