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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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進む先

修行開始から、十日が経った。


第四部隊の研究所。

その一角、普段は使われていない静かな角部屋には、今日も淡い青の魔力が漂っていた。


「……よし、休憩しよっか」


ファルメルの声に、フィーラは息を吐く。

空気に溶けるように、青い光が消えていく。


「すごいよフィーラちゃん、もう青は完璧じゃない?」


ファルメルが感嘆したように声をあげ、微笑む。


「……この短期間でここまで魔力を制御できるなんて、凄い才能だよ。そろそろ次……“白”に移ってもいいかもしれないね」


「はい……!」


フィーラは汗を拭いながら、明るく答えた。

その瞳には、揺るぎない意志の光が宿っていた。





その夜。

街の明かりが静かに灯り、〈蛙のみぎあし亭〉の小部屋には、ふたりきりの時間が流れていた。


ルカは窓辺に腰をかけ、外の景色をぼんやりと見ていた。

フィーラはベッドの縁に座り、少しの沈黙のあと、口を開いた。


「ねぇ……わたし、ちゃんとやれてるかな」


「……ああ。十分すごいよ」


「でも、まだ魔法としては形にならないし……五属性なんて、やっぱり無理なんじゃないかって、ちょっとだけ不安になって……」


その言葉に、ルカはふっと息をついた。

そして、振り返る。


「フィーラは、オレが見てきた誰よりも強い」


「え……?」


「今まで色々あった、それでも誰かのために立ち上がろうとしてる。……だから、信じてる。フィーラならできるって」


「ルカ……」


ルカは、そっとフィーラの頭に手を置いた。


「……フィーラがいなきゃ……きっとオレは、今も、ずっと闇の中だったと思う。 フィーラが助けてくれたんだ……ありがとう」


「そんなの、当たり前だよ。だって……わたし……」


言いかけた言葉は、胸の奥で止まった。


ルカはそのまま微笑む。


ふたりの距離が、ほんの少しだけ近づいた。



その時だった。


「──ッ……!」


ルカの頭に、激しい痛みが走る。


視界がぐらつき、立っていたはずの身体が崩れ落ちそうになる。


「ルカ!? ルカ、大丈夫!?」


フィーラの声が遠くなっていく――



──精神世界



真っ黒の水面に浮かぶ、小さな木の舟。

その中央に置かれたランプが、淡い橙色に灯る。


ルカは舟に座り、小波に揺られていた。

肩で息をしながら、額から冷や汗が伝う。


目の前には──


「……よぉ、ブラザー」


白く靄のかかった、人のようで人でない“何か”。


ナカト。


「いっちょ前に恋愛ごっこかぁ?」


「……黙れ。」


ルカは睨みつけながら問う。


「俺と話したかったんだろぉ?」


ナカトはニヤリと笑みを浮かべ、ランプの灯りをゆらりと揺らした。


「安心しな。お前はちゃんと近づいてるぜ、オレの復讐に」


「……近づいてる……?」


「ああ。……お前らが進む先に、オレの敵もいる」


「……なら……問題ないな。フィーラには、手を出すな」


「……ああ、出さねぇよ」


ナカトは薄笑いを浮かべた。


「──オレはな」


一瞬、空気が張り詰める。


ルカが何かを言いかけたその瞬間、風が吹いたように世界が歪み始める。



──現実へ。

 


「ルカっ! しっかりして!」


目を覚ますと、フィーラが心配そうに顔を覗き込んでいた。


「……ああ、ちょっとだけ……眩暈がした」


「顔、真っ青だったよ……」


「大丈夫だよ、フィーラ。」


その言葉に、フィーラは小さく微笑んだ。





その頃。


王国南部の外れ、深い森の奥にある“廃棄の迷宮”――


自然に覆い隠された入り口。

見つけるのに、時間を要した。


隙間から奥へ入ると、いくつかの魔法陣が床に描かれていた。


転移用の陣だ。


「こいつは……」


リュミアは魔法陣の一つに "影のような何か" を仕込んだ。


そして、さらに奥へ進む。

暗い螺旋階段が、底の見えぬ闇へと続いていた。


壁に手をつきながら、慎重に下る。

崩れかけた足場は、誰かが落ちれば生還は難しい。



数十分後──



階段を降った先。

目の前に広がったのは、異様な光景だった。


数え切れない屍の山。

濃密な死臭。


魔力は既に抜けきっている。


「……これが、全部……犠牲者だっていうのか……」


リュミアは震える手で魔道具を発動した。

影が形を成し、黒い烏となる。


黒羽こくう

 ――情報伝達用の魔道具である。


「頼むぞ」


メッセージを託したその瞬間だった。



──ザンッ!



飛び立とうとした烏が、鋭い刃に斬り裂かれ、霧散する。


「ッ!?」


リュミアが跳ね退き、即座に構えを取る。


そこに、黒装束と髑髏の仮面を身につけた男が現れた。


「騎士団か 『騎士団だ』」


重低音と甲高い声──一つの身体から、異なる声が響く。


「……なんだ、てめぇは……」


リュミアは額に汗を滲ませ、眼前の“敵”を見据えた。


 

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