表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/120

終わりの時

「……ルカ?」



その声は、懐かしいはずだった。

温かいはずだった。

でも――今、ルカの中に流れ込んできたのは、

ドロドロに濁った、怒りと、悲しみと、混乱だった。


ゆっくりと振り返る。

ミリアが立っていた。


死んだはずのルカ。

その足元には、血の池とブラハムの死体。


「う……そ……いや………どう…して……? 」


ミリアは小さく声を上げ、

ふらつくように後退し、そのまま尻もちをついた。


ルカの肩が震える。

呼吸がうまくできない。

胸が熱いのか冷たいのかもわからない。

喉の奥から、なにか……声じゃない“音”が漏れ出す。


「っ……ミリ、ア……」


目に涙が溜まり、視界が歪む。

地面が揺れてる。いや違う、自分の足が揺れてるんだ。

体が勝手に震えて、歯が噛み合わない。


「なんでだよ……」


その一言で、堰が切れた。


「なんで、なんで、なんでなんでなんでっ……!!」


「俺が、俺が……どんな気持ちで……お前を……!」


「信じてたのに……信じてたのにっ……!」


喉が焼けるほど叫んでいるのに、

言いたいことが何一つ、言葉にならない。


「お前は……違うって……違うって思ってたのに……!」


「笑ってくれたじゃん……っ! 話してくれたじゃん……!」


「一緒に……いてくれたじゃん……!」


髪をぐしゃぐしゃに掻きむしる。

目をつぶっても、涙が止まらない。

止めようとしても、次の瞬間にまた違う言葉が飛び出してくる。


「守りたかったんだよ……!

 お前と一緒にって……思ってたんだよ……!」


「なのに……お前は……!」


膝から崩れ落ちる。


「殺したんだろ……俺を……!

 全部、知ってたんだろ……っ! 俺が“捧げられる”って、わかってて……!」


「笑って……たんだろ……? “立派に役目を果たした”って……っ!」


「俺のこと……モノだって……最初から……っ」


嗚咽。嘔吐しそうな息。


「……し、死んだんだぞ……俺……お前らのせいで……っ」


ミリアは、その場から動けなかった。

震える手。言葉を出せない口元。

目を見開いたまま、ルカを見つめていた。


ルカは、涙と呼吸と混乱にまみれながら、

ゆっくりと立ち上がる。

 

「わかんない……もう、何もわかんないよ……」


「……もういい」


その目が、またいつもの“ルカ”のそれに戻っていた。

冷たい。深い。底の見えない影。


「――終わらせる。」


影が足元から滲み上がる。

中庭の石畳に、ゆっくりと黒が広がっていく。


「殺してやる」



ルカを見て、ミリアは震えていた。

その唇が、ようやく何かを紡ごうと動く。


「ちが……うの……私は……私は、あのとき……っ」


声が震え、涙が浮かぶ。

必死に言い訳を探すように、過去を捏ね回すように、ミリアは言葉を重ねようとする。


「怖かったの……私は、知らなかったのよ……っ、そんな、本当に……!みんなに言われた通りに、してただけで……!」


その瞬間。

ルカの目が、ピクリと動いた。


「――やめろ」


ミリアの言葉が止まる。


「祈るな」


空気が、冷えた。


ミリアの体が、小さく震えながら、手を胸元に当てる。

そこに宿るのは――かつてルカから奪われた、“純粋な光”の魔力。


 「だから……お願い……ルカ」


その刹那。


《逆祈願―アンブレス―》


ルカの声が響いた。

低く、静かに――もうひとつの声と重なるように。


影が蠢き、空気が反転する。

純粋だったはずの魔力が、穢れへと転じた。


ミリアが体内に抱えていた“白い光”――

誰よりも清く、眩しく、美しかった“あの魔力”が、


腐る。


「っ、あっ……ああああああッッ!!」


ミリアの喉から、裂けるような叫びが迸る。


魔力が逆流する。

血管の中で暴れ、細胞を焼き、臓腑を裏返すような痛みが全身を走る。


「いたい……やだ……いだイッ……ッ!」


肌が赤黒く爛れ、血と膿が浮き出る。

髪は煙を上げ、まつげが焼け落ち、歯茎から血が噴き出す。


その魔力の奔流は、彼女の内側から外側へと逆噴射し、

骨の隙間を割り、眼窩を焼き、鼓膜を破った。


「ごめなさい……っ、ごめ……やだ……し…じぬ…やめ……ッ!!」


もはや言葉にならない。


白かった服は、血と臓液で染まり、

少女の姿は、人の形を留める限界に近づいていた。


失禁。嘔吐。痙攣。


あらゆる生理現象が一斉に発動する。


瞳孔は開いたまま閉じず、

口元から泡と嘔吐物が垂れ流れ、

脚が勝手に痙攣し、石畳をバタバタと叩く。


かつて美しいとされていた"それ"は、

今、最も醜く、最も哀れな生き物に成り下がっていた。


"救い"を求めた少女に今、"裁き"が下った。

 

ルカは、それを無言で見ていた。

顔に感情はない。あるのは、ただ静かな――終わりを見届ける者の目。


「……さよなら、ミリア」


その声は、慈悲でも怒りでもなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ほぼダイジェストってくらいバンバン4ぬなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ