悪役なアイツを幸せにしたいッ!! 2-3
◇ ◇ ◇ ◇
アルフォード学園 中庭。
朝10時頃には、貴族生徒も含め、アルフォート学園に訪れ、例によって貴族生徒達の茶会が開かれていた。
広い敷地の中、各々のグループで集まり、大きな権力を持った貴族に、爵位の低い貴族が群がる形で、いくつものグループが出来てた。
「ベルモット様~~。
こちら、フェリス特性ティーになります!」
賑やかな中庭の僻地。
ベルモットは、他生徒に気づかれないよう、日陰でひっそりと時間を潰していた。
「ありがとうフェリス」
ベルモットは礼を告げると、フェリスの注いだ紅茶を嗜み、読書を楽しんでいた。
かれこれ十数分。
ベルモットは他の貴族と交流を深めようとする事はせず、読書に耽る事で、他の貴族はベルモットに話しかける事を躊躇していた。
(――他の貴族はビビッてまるで話しかけて来ないな……。
距離を取っておどおどとしている人が集団になってる……)
ベルモットの護衛であるエドガーも必然的に、読書をするベルモットの傍に立っていたが、その場の空気を異様に感じていた。
(フェリスはどう思って……。いや、なんか笑顔でお嬢様を見つめてる…………。
アイツもお嬢様と同じでこの状況を何とも思ってないな)
フェリスに助けを求める様に視線を送るが、まるで気づく事なく、本を読むベルモットを微笑みながら鑑賞していた。
エドガーは再び、遠くからベルモットを見つめる集団へ、視線を向けると、いくつかの人と目が合った。
エドガーはすぐさまマズイと感じ取ったが、視線が合った時点で、それは遅く、ベルモットと交流を持ちたい貴族、そして今、この状況での雇い主となっている貴族が、不穏な空気の為か、いくつか見知った顔がある平民護衛騎士も、エドガーに何とかするよう、支援を求める表情を送っていた。
(俺に何とかしろっていうのか!? まだ、まともな会話もさせてもらってない俺に……。
――とゆうか、貴族連中に限っては、ほぼ脅しをかける様に睨んできてるし…………)
エドガーは大きなため息をついた後、ここで行動しなければ、後が怖いと思い、意を決してベルモットに声をかける。
「――読書中に大変申し訳ございません、ベルモット様。
ひとつお話をよろしいでしょうか?」
エドガーが進言すると、遠くから状況を見る貴族たちは、驚いた表情や、関心するような素振りを見せ、エドガーが進言したことで、エドガーを睨んでいた者が、別の人へと移り変わった。
「こっんのぉッ! ヘッポコ庶民ッ!!
ベルモット様は読書中よ!? 護衛程度……、しかも平民風情が、ベルモット様の読書を煩わせるなんてッ!」
エドガーが進言したはずの相手、当の本人であるベルモットは視線すら、エドガーにくれる事は無かったが、何も言わない主に代わってと言わんばかりに、既にエドガーの事が気に入らなくなっていたフェリスが、エドガーに嚙みついた。
「ベルモットお嬢様の、楽しみである読書の時間をぉ~~……。
――こうなったら、仕方ありません。 臨時メイド長である私が命じます、貴方は今、この瞬間、お嬢様の護衛騎士をクビにしますッ!!」
「ま、待てッ! そ、そんな急に……、困るッ!!
大体、フェリスにそんな権限あるのか!? 俺と同じで、一応ここに通う生徒だろ??」
「はいぃ~~~~?? 私、先輩ですよ!? ベルモットお嬢様と何年一緒にいると思ってるんですか?
それに今、ここにベルモット様のメイドはただ一人、現場責任者として、ベルモット様の気分を害した不届き者は、私が罰しなければッ!」
エドガーは、握手だと思いながらも行動してしまった自分に、後悔しながらも、何とかクビを免除される方法を考えた。
そして、ベルモットの隣で、そんなやり取りをする中、当然、二人の会話が読書の邪魔になったのか、ベルモットはそっと本を閉じ、エドガー達に声をかける。
「貴方達、二人共うるさいわよ」
呆れた表情で言い放つベルモットに、エドガーはもちろん、フェリスも一気に表情が青くなり、言い合いをすぐにやめ、勢いよく二人同時に謝罪した。
「はぁ~~、貴方達、いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「なッ!? お、お嬢様~~、違います~~~。
こんな教養の無い、平民と一緒にしないでください~~」
ベルモットがそこまで怒っていないと分かると、フェリスはベルモットの言葉を全力で否定した後、泣きつくように、ベルモットにそう告げた。
「はぁ~~、わかった、わかったわよ……。
みっともないからお止めなさい、泣きつくのは」
明らかにウソ泣きだったが、ベルモットに跪いて、弁明するフェリスに、ベルモットは頭をなでながらそう告げ、そして、本題に遥かのように、エドガーに視線を飛ばす。
「――それで? 護衛の貴方は、私に何の要件があったのかしら?」
温情をかけるフェリスに対して、まるで温度を感じない、表情すら読み取れない様子で、ベルモットはエドガーに問いかけた。
ベルモットの圧に、エドガーは一瞬昼見ながらも、一度、発言をしてしまった以上、引くことは出来ず、ベルモットに尋ねたかった話題を切り出す。
「非礼を承知でお伺い致します。
ベルモット様は、他の貴族様と同じように、この時間を交流に当てるおつもりは、無いのでしょうか?」
貴族の社交に、平民であり、まだ護衛に付いて一日目の立場であるエドガーが、尋ねるべき質問ではなかったが、エドガーの興味と、周りの環境から、聞かずにはいられなかった。




