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異世界転移者はお尋ね者  作者: ひとつめ帽子
第三章 迷宮を超えて
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骨の群れ

 俺達が中層に降りると、景色が変わる。

今までは薄暗い洞窟だったのに、床は石畳、壁は石壁、天井も石造りである。

今までの洞窟に比べて随分人工的な造りである。

おまけに今度は松明まで其処彼処の壁に取り付けてある。

しかし、明るさはそれほどある訳ではなく、相変わらずの薄暗さだ。


 中層に降りて少し進んで最初に出た部屋は多くの松明が灯され、中央に台座が設置してあった。


「これは?」


 俺はコハクから飛び降り、その台座に近付く。

古そうな台座で至る所に苔が付いる。

その高さは俺の腰ほど。

その台座の上には紫色の水晶玉が乗っていた。


「何かのトラップの可能性もありますが?」


 シェリーが警戒しながら言うが、コハクに乗っているリーファが首を振る。


「それはポータルです。

上層から中層、中層から下層と層が変わる度にポータルが設置してあると言われています。

少なくともこの中層に着いて間もない場所にあるポータルは確認されていて、これに触れると入り口まで戻れるそうです」


 へぇ、帰還用って訳か。

層の変わり目の前にはさっきのミノタウロスのようなボスがいるだろう。

その後も続けての攻略が困難になる場合を考えての救済措置か?

この迷宮ってのは、微妙な所で親切心があるな。


「それに触れておけば、地上に帰還した後、再び入り口のポータルからこの場所まで飛ぶ事が出来るそうです」


「冒険者をしばらくやっていただけあって流石に詳しいな、リーファ」


 俺はそう言って微笑んだが、リーファの顔色は暗い。


「無駄に長く冒険者をやっていたので、知識だけ多く蓄えたんです。

その知識がお役に立つのなら何よりです」


 言葉とは裏腹に元気なく言うリーファ。

やっぱ、さっきのやり取りが大分効いてるようだ。

当のシェリーは澄まし顔である。

アーシェは心配そうな顔でリーファを見ている。

とは言え、今それを蒸し返す訳にもいかない。


「俺達は冒険者になって間もないからりリーファの知識はありがたいさ。

とりあえず触れてみるか」


 俺が水晶玉に触れると水晶玉が淡い光を放つ。

そしてその光は俺の身体に移り出した。

身体に光が纏わりつくとすぐに消える。

これで、次からはこの場所から出発出来るのか?

なら、それだけで随分と時間短縮になる。

更に下層まで降りればもっと短縮出来る訳か。


「先を急ごう。

下層まで降りれば、明日からは随分楽になる」


 俺がそう言うと皆は頷き、ガロウとコハクが駆け出した。





 中層ではじめに出会った魔物は骸骨だった。

バラバラに散らされていた骨が集まり出し、一体の人骨が形成されるとその手に直剣を握りしめていた。

その人骨、即ちスケルトンは次々に起き上がり、俺達を囲んでいく。


「怯む必要もない。突破するぞ」


 スケルトン等はその手に直剣や曲剣、槍や斧、弓矢を扱うものもいた。

しかし、その技量はまるでど素人。

数だけいるので一見脅威に感じるが、やはりこんな奴らではガロウとコハクを止める事などとても出来ない。

二匹の突進に骨をばら撒きながらスケルトン達はその身を散らし、俺達は突き進む。

俺はカラドリウスを構え、念の為遠距離攻撃が出来る弓兵のスケルトンだけは撃ち抜いていく。

そして今いる大部屋から次の部屋へと向かう通路へと駆けると、その通路の前に立ち塞がるローブを纏った骸骨の姿があった。

他のスケルトンより身長がかなりデカイ。

黒に近い紺色の破れかけたローブを纏い、手にはボロボロの長い木の杖を持っている。


「ワイトキングですっ!気を付けてっ!」


 後ろからリーファが声を上げるが、さして大した気配も感じなかった。

俺はカラドリウスを構えて、そのワイトキングとやらを撃ち抜く。

すると、その姿は搔き消え、ソイツのすぐ後ろにあった通路も消えてしまう。

そして壁だけが残る。

慌てて急停止するガロウとコハク。

何が起きた?

確かにそこに通路はあったのに。

アーシェもシェリーも不思議そうな顔をしている。


「リーファ、ワイトキングってのは何なーッ!」


 俺が振り返ってリーファを尋ねようとしたが、目の前に広がる光景に絶句する。

それは複数のスケルトンが纏まって形を成しているムカデのようなモノがいて、思わず絶句する。

その胴体はどこまでも長い。

何故だ?この至近距離になるまでこんなデカ物の気配は感知出来なかった。


 ムカデの手足の一つ一つもスケルトン一体が組み合わさって出来ており、カタカタ、カチャカチャと骨が打ち合う音を響かせながらムカデのスケルトン、ボーン・スコロペンドラは動き出す。


「潰れろ、骨の塊が」


 シェリーの瞳の色が変わり、ボーン・スコロペンドラの胴体が次々と押し潰されていく。

潰された骨は粉々になっていく。

しかし、その粉々になった骨すら集まりだし、また形を成していく。

ほんの数秒で元の巨大ムカデに戻る。

形が戻ると即座に突進してくる。


 これは炎龍のような加護の力か?

それを無効化しないと復活してしまう?


 その疑問の答えはメーティスから出てきた。


『加護の力ではありません。

ワイトキングの力です。

あの骸骨のムカデ、ボーン・スコロペンドラも、周りのスケルトンも倒されてもすぐ全てワイトキングが復活させています。

ますはワイトキングを討つべきです』


 巨大ムカデの突進は跳ね上がったガロウとコハクが華麗に回避するが、眼下には巨大ムカデだけじゃなく、スケルトンが次々に立ち上がっている。

数が多すぎる。

そして、こいつらは生体感知に引っかからない。

アンデットだからか?

目視でワイトキングを探すが、骸骨の多さがそれを邪魔する。


「アーシェっ!シェリーっ!

ワイトキングを優先して倒してくれ!

雑魚は俺がやる!」


 声を張り上げると、遠くにいるアーシェとシェリーが頷くのが見えた。

俺はガロウにアーシェ達の指示で動くよう念じておく。

そして後ろを振り返ると、震えているリーファがそこにいた。

あまりの敵の数に圧倒されているようだ。


「リーファ、一度俺はここから離れる。

コハクが守ってくれるから心配すんな。

俺もこっちにゃ常に気を配ってるが、危なかったらすぐ呼べよ」


「え?え?

アキトさん、離れるって……」


 俺はリーファの頭にポン、と手を置き微笑む。


「無限湧きの骸骨みたいだが、骨すら残さず消し飛ばせば復活しないかもしれない。

こんな中層で足踏みしてられない。

とっとと片をつけてくる。

これ、しっかり握っておけよ」


 そう言い残し、手綱をリーファに渡す。そして俺は高く舞い上がっているコハクから飛び降りる。


「こんな中に飛び込む気ですか!?無茶ですよ!?」


 リーファが驚愕の表情で叫ぶが、俺は片手の親指だけ立てて、サムズアップしてみせる。

そして眼下の有象無象へと目を向ける。


 メーティス、鍛えた魔法の実践だ。

いけるな?


『いつでも、マスター。

魔法の構築処理と、座標演算、術式展開の補助はこちらでも行います。

ぶっ放してもらって結構です』


 やる気満々だな。

そんじゃ行くぞ。


 宙を舞ったまま、片手を地面へと向ける。

その手の平の前に巨大な魔法陣が展開する。



「極大魔法、“黒炎雷・メルト”」


 展開した魔法陣から巨大な火球が飛び出す。

それは中心が白く、外側へと向かう程に漆黒に染まっていく禍々しい火球。

揺らめく炎も黒い炎だ。

そして、白い部分では眩い白雷が外に飛び出さんと暴れまわっている。

その漆黒の火球は地面に落ちると、白雷と黒炎が地面を覆い尽くす。

白雷に触れた骸骨は融解し、黒炎に触れた骸骨は消炭に変わる。

その範囲は巨大な部屋の半分ほどにまで及んでいた。

当然巨大ムカデも巻き込まれ、その身体の七割が消し飛んでいる。


 空いた空間に降り立った俺はすぐ様両手を左右に突き出し、魔法陣を展開する。


「極大魔法、“氷嵐烈風・グラキエーステンペスト”!」


 左右の魔法陣から渦を巻いた暴風が放たれる。

それはキラキラ輝く氷の結晶と共に吹き荒れており、暴風に触れた物を瞬時に凍らせ、そのまま砕いて吹き飛ばしていく。

まるでゴミ掃除のように部屋の隅へと粉々になった骸骨達は吹き飛ばされ、壁にぶつかるとクリスタルのような氷に包まれていく。

そのままアキトは一回転。

魔法陣の展開を閉じ、部屋の周りを見れば、ひしめく骸骨の姿は見られない。

そして、部屋の壁には一面巨大な氷が出来ており、その中に骸骨達がバラバラになって閉じ込められていた。


「ワイトキングとやらもやっちまったか?」


 そう思ったが、どうやらそのワイトキングは宙を舞っていたようだった。

計六体のワイトキングをアーシェも達が追っている。

ワイトキングは繰り返し空間移動を行なっているようだが、魔力感知が扱えるシェリーが場所を捕捉し、アーシェが光の槍を放って消し飛ばしていた。


 ものの数分で戦闘は終わる。

しかし、この中層の攻略が進まないのはこのアンデット達が阻んでいるのだろう、と俺は推測する。

あの数を普通には相手してはきりがない。

最初はウガルルムで吹き飛ばそうかとおもったが、いくら巨大な部屋でも屋内ではある。

外ならまだしも、中であれが爆発すればこっちまで巻き込まれる。

よって、広範囲魔を使えつつ、その威力や範囲をある程度操作できるほどの実力が必要なのだから、少々骨が折れるはずだ。

おまけに復活させるワイトキングは空間移動まで出来ていた。

捕捉も普通は難しいだろう。


 俺は指を鳴らすと壁一面の氷が砕け散る。

そしてようやく通路を発見する。

ワイトキングの何かの魔法か、それともこの部屋の仕様か、通路を隠したり場所を変えるようだった。

もう通路が消えることも無い。


 俺は近づいて来たコハクに飛び乗る。

すると、リーファが口を開いた。


「あの……アキトさん」


 俺はリーファを見る。

その顔は失意に満ちていた。

しかし、その眼は覚悟も決めているようでもあった。


「あたしは皆さんのように戦えません。

完全に足手まといのお荷物です。

迷宮攻略に参加できた事も、中層まで潜れた事も、感謝してます。

でも、私は……これより下の層にまで同行すれば私のせいで皆さんにまで迷惑かけてしまいそうです」


 だから……、と続けるリーファ。


「申し訳ありませんが、次のポータルであたしは降ります」


 真っ直ぐ俺を見て、リーファは告げた。



 


 

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