リーファ・コリンウッド ①
お腹が減った……。
今日は受付嬢のメアリーが余ったパンを少し分けてくれたのを食べただけで、後はひたすら水だけしか飲んでいない。
“アイドリー”。
誰が言い始めたのか知らないが、いつの間にかあたしはそう呼ばれるようになった。
それからあたしをパーティに誘うと人などいなくなった。
それもそのはずだ。
魔法使いはコストがかかる。
魔法を乱発すればその分マナポーションも必要になる。
私の場合、たった一発の魔法でマナが底を尽く事もあるのだ。
マナポーションばかり消費し、その割に威力もてんでバラバラ。
魔法が不発の時すらある。
最後に組んだパーティの前衛の戦士からは殴られて罵られた。
お前なんか誘うんじゃなかった、と。
きっと、あたしは冒険者には向いてない。
でも、他に何ができるわけでも無い。
こんな幼い容姿では娼館ですら働けない。
奴隷に落とされたくないから、せめて冒険者としてこのギルドに居座っている。
もはや寝泊まりするお金もない。
今日もまた、この硬いテーブルで夜を過ごそうかと思っていた。
そんなあたしの肩を叩く人がいた。
「あのー、ちょっといいかな?」
誰だろう。
誰かが他の人と勘違いしてる可能性もある。
とりあえず寝たふりだ。
「あれ、寝てんのか?
おーい。朝だぞ」
コンコンとテーブルを叩き始めた。
あれ、もう朝なの?
あたしはムクリと頭を起こす。
ふと窓を見てみると真っ暗だった。
「嘘つきですっ!」
あたしは思わず声を上げる。
目の前には驚いた顔をしているハーフエルフの少年がいた。
「メッチャ元気だな、おい」
そう言って一歩後ずさるハーフエルフ君。
「あ、すみません。大声上げちゃいました……」
あたしは恥ずかしそうに顔を伏せる。
「いや、別に気にしてはいないから。
それより、君一人?
良かったら俺達と飯でも食って話さないか?」
ハーフエルフ君はそう言って親指を後ろに向ける。
そこにはとても美しいエルフの女性が二人いた。
「え、えぇ!?あ、あの……あたしを誘っているんですか?」
信じられなくて思わず自分を指差したが、頷く目の前の三人。
それはもう天使に見えた。
いや、むしろ神様だ。
急激にお腹が鳴り出す。
「ん?アー……シーか?」
「違うわよっ!私のお腹じゃないから!」
しかし、すぐにそのエルフのお腹も鳴る。
そのエルフさんの顔が真っ赤に染まる。
「あ、あはは……あたしのお腹が鳴ったんです。
最近、ロクなもの食べてなくて」
あたしがそう言うと、アーシーと呼ばわれたエルフさんはあたしの手を握って、それは大変だわ!すぐに何か食べなきゃ!と言い出した。
困惑するあたしだったが、とうやらこの人達は悪い人達ではなさそうだった。
その三人はあたしのいたテーブルに座ると注文を始める。
一応このギルドでもご飯は出る。
出てきたのはパンと野菜のスープ、鳥の丸焼きに、蒸した芋を潰したサラダが出てきた。
まさしくご馳走である。
それが四人分出てきたのだ。
「遠慮なく食べてくれ。
アーシーの奢りだ」
「結局私なのよね。
まぁ別に良いんだけど」
すると、三人が手を合わせた。
うん?何だろう?
「いただきます」
ハーフエルフ君とエルフさん二人は声を揃えてそう言った。
私も何故か真似して、イタダキマフ、と言った。
三人が食べ始めたのを見て、ゆっくり手を食事に伸ばす。
た、食べて良いんだよね?
そして一口鶏肉を食べる。
滅茶苦茶美味いっ!
美味いぃ!
私はもうガツガツ食べた。
それはもう貪るように食べた。
巨乳のエルフさんが若干引いていたが、構わず食べた。
だってもう一人のエルフさんもガツガツ食べてたもん。
ハーフエルフ君は「アーシーが増えた……」と何か言っていた。
気にしない。
食べれる時に食べなければっ!
「げふ……ご馳走になりました。
ホント、死ぬかと思いました。
ここ数日パンの耳と水しか口にしてなかったもので」
あたしがそう言うとアーシーさんが目を潤ませていた。
「可哀相に……。
お腹が空くのはつらいよねっ!」
そう言って手を握ってくれた。
「とりあえず、食うだけ食ったからな。
少し話をしようか?」
ハーフエルフ君が若干悪どい顔になる。
あ、これ食べた事の代償に何か要求されるパターン?
「あ、あたしみたいな貧相な身体を求められても、こ、困ります……」
あたしはそう言って目を伏せる。
「ちげーよっ!何盛大な勘違いかましてんだっ!
誤解が生まれるだろうがっ!」
声を荒げるハーフエルフ君。
あれ、違ったのかな。
「なるほど、実は幼女に興味あり、と」
「え、流石に私、ちょっと引いちゃうな」
「ほら見ろっ!俺が何をしたっ!変態扱いされてんじゃねぇか!俺は至って普通だよっ」
どうやらあたしの早とちりで皆さんに迷惑をかけたようだ。
「あ、あの、すみません。
てっきり身体を要求されるかと勘違いしました」
「どんな思考回路してんだよ……」
ハーフエルフ君が一気に疲れた顔をする。
「実はね、私達迷宮に挑みたいの。
でも、迷宮には四人いないと入れないでしょう?
だからあなたに協力して欲しいの」
アーシーさんがあたしにそう言った。
それって……。
それってつまり……。
「パーティを……組んでくれるんですか?」
あたしは涙目になりながら確認する。
すると、三人は頷いた。
「ただ、ちっと条件があるんだ。
俺達の戦闘スタイルはかなり独特だから、迷宮で見たものは他言無用で頼みたい」
戦闘スタイル?
そんなのは全然気にしない。
むしろ、あたしは確認しなければいけない事があるのだ。
「あ、あの……あたし、魔法使いなんですけど、あまり魔法が上手く扱えなくて……。
で、でも、精一杯頑張りますっ!
必ずお役に立ちますから!」
あたしは何とか自己アピールをする。
ここまできてお誘いを無しにしたくなんかない。
「あなたの気持ちは伝わりました。
けれど、私達の提示した条件がとても大事なのです。
絶対に守ってもらえますか?
迷宮で見たものを、誰にも言わないと」
若干気迫を込めて巨乳エルフさんが私に言う。
その気迫に押されるが、そんな条件なら何も問題ない。
「あたし、自分で言うのも何ですけど、ボッチなんです。
だから誰にも話しませんよ。
聞いてくれる人もいませんし」
あたしは苦笑いしながらそう言った。
「それじゃ、その条件を守ってくれるのね?」
アーシーさんが再度確認してくる。
どれだけ秘密にしたいんだろうか?
逆にあたしが一緒でいいのかな?
「はい、約束します。
それより、あたしはとてま足手まといになるかもしれませんが、大丈夫でしょうか?
その、非常に申し上げにくいのですが、マナポーションを買うお金も無くて」
情けない話だが、事実なので先に宣告しておく。
すると、ハーフエルフ君が満面の笑みで答える。
「問題無い。戦闘は任せておけ」
あたしは、その時はその言葉の意味を理解していなかった。
後にあたしは知ることになる。
この三人、アキトさんと、アリシエさん、シェリーさんの本当の姿を。
そしてその驚異的な力を、目の当たりにする事になる。




