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異世界転移者はお尋ね者  作者: ひとつめ帽子
第二章 聖都の闇
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シェリー・メイ ①

 目が覚めると、そこは見知らぬ街の中だった。

私は一人で本を読んでいたはずなのに、眠って夢みているのだろうか?と思った。

そんな私に複数の男達が群がって来た。

その手には剣や杖を持ち、私に向けてくる。


「転移者を発見。捕縛します」


 一人の男が私に近付いて、光る縄を取り出した。

怖い…。

私は恐怖に声も出なかった。

震えながらその場に座り込む。

そんな私の手を無理やり引っ張り、その男は両腕を縛り上げた。


「聖教会へ連れて行く。さっさと立てっ!」


 私は怒鳴り声をあげられて泣きそうになりながら「はぃ…」と返事をして立ち上がる。

そして引きずられるようにその男達に連れられ、宮殿の中へと入れられた。


 そこで、あの大司教と出会う。

彼は私を見て邪悪な笑みを浮かべていた。


「ふむ、転移者なのだな?まだ幼いな」


 全身を舐め回すように見てくるその高齢の男に私は嫌悪感しか抱かなかった。

どうして私は縛られているの?

ここはどこなの?

この人達は誰?

疑問は尽きない。

だが、周りの人達の私を見る目はとても恐ろしく、私は目を伏せた。


「君の名前は?」


 高齢の男が話しかけてくる。

私は答えない。


「年齢は?」


「………」


「どんな世界から来た?」


「………」


「なにか自分で特別な力を持っていると実感していないか?」


「………」


 私は答えなかった。

ただ、怖くて…恐くて…。

そんな私を見て、高齢の男は溜息をつくと、私の髪を引っ張り上げ、無理やり目を合わせた。


「だんまりを決め込むのは結構だ。

ならば、喉が枯れるほど声を出させてやろう。

思う存分、叫ぶがいい」





 それは私、シェリー・メイがまだ歳が14の頃だ。

あの頃の私は何も知らなかった。

何一つ、知らなかった。




 それから十年経った。

私は痛みと恐怖に支配され、大司教に従う事にした。

転移者は一、二年に一度くらいの頻度で出現し、その度に私は駆り出された。

聖騎士達が先陣をきって転移者へ対応をし、捕まった幾人かは私と同じように拷問を受け、従う者もいた。

拷問の最中、命を落とす人もいた。

私達転移者が、別の転移者を殺す事もあった。

その逆もあった。

聖騎士によって殺される転移者もいた。

そして、自分が転移者である事を呪うようになった。

同じ転移者である者も、哀れみしか抱かず、大司教に言われるがままに行動した。


 そして、ある少年と出会う。


 驚く事に、その少年は名家オルレアン侯爵家の次期当主と言われていたアリシエ様と一緒にこのクリステリアを訪れたのだ。

その事を耳にした時、私は聞き間違えたかと思った。

聖騎士が、転移者と共にいる。

それは連行してきた、という訳でもなかったそうだ。

ただ、共にこのクリステリアを訪れた。

それがどれほどの異常事態か、私はこれまでの事を考えるとそう思わずにいられなかった。


 実際に会ってみれば、何とも不思議な少年であった。

拷問部屋に入っても、動じる事もなく、生意気な態度を大司教にとっている。

私はこの後の運命を考えると目を閉じずにはいられなかった。

魔甲虫の拷問は私も受けた事がある。

あの痛みは想像を絶する。

今でも私はあの手枷を見ると震えてしまう程だ。


 翌日、逃げ出そうとした少年を私は潰眼オリアスの力によって文字通り圧し潰す。

そして牢獄に放り込む。

この少年が逃げるようなら捕えろ、との命令がある為、この部屋彼が出ようとするならば引き戻さねばならなかった。

昨夜、あれほどの拷問を受けたのにも関わらず、脱走を試みようとするほどまでに意思を取り戻すとは…。

昔の私を考えれば、これだけで異常と思える。

だから、だろうか。

他の転移者に比べ、彼には少し情が移った。

拷問を持ってしても折れない心。

それは、私には無かったものだ。

でもきっと、いつか折れてしまうのだろう、とも思う。

そして、使い捨ての道具のように扱われ、他の者達のように命を散らしてしまう。

私はそれを受け容れたが、彼は…きっと受け容れたりはしないだろう。

そんな気がした。




 だからこそ、私は一つ、賭けに出た。

見ず知らずの彼の為に何かを、だなんて馬鹿げている、と自分でも思った。

しかし、もしも転移者である彼が、この世界の住人との懸け橋になるのなら。

それは、この場所で朽ち果てるには惜しすぎる命。

それだけの価値があるのか、どうか。

それを知りたい。


 その日の朝、大司教の部屋へと向かう。


「シェリーか。

あの男、様子はどうだった?」


「脱走を図ろうとしていまいた。

一晩で随分と体力を戻したようです」


 私は淡々と答える。

もう、昔のようにだんまりは出来ない。


「くくく、面白い男だ。

彼等は連れてきたのか?」


「はい。

リッパーやクリムゾンの被害者遺族を集めました」


「よしよし。それで良い。

おい、水をくれないか」


 私は水の入った瓶からグラスに水を入れる。

そして、その水に魔法をかける。

簡単な魔法であれば、無詠唱でも行使出来る。


 その水を大司教は飲み、私に言う。


「それでは行くとしよう。

今日の愉快な宴だ。

あやつはどう壊れていくのだろうなぁ」


 法衣を纏い、大司教は邪悪な笑みで歩き出す。

私はその後に付き、考える。

この賭けが、どう転んでも、私はきっと…。





 そして、賭けの結果を知る事になる。

彼をアリシエ様は迎えにきたのだ。

それは、転移者とこの世界の住人を繋ぐ証として確かなモノを示してくれた。

ならば、彼等を止める事はない。

出来る事なら、叶う事なら、そのような人達が一人でも増えて欲しい、とそう願わずにはいられない。

何もかも諦めて、世界を冷たい目でしか見れなかった私に、この二人は眩しすぎた。

二人が出行くのを見送ると、周りの人々に「もう帰ってもらって結構です」と伝え、大司教の部屋へと向かう。


 そこにはベッドで居眠りしている大司教の姿があった。

こんな無防備な姿をしているが、殺す事は出来ない。

そう考えた事は何度もあるが、この首輪がそれを許さない。

そして、こうして報告する事も、また仕方ない事なのだ。


「ご主人様。

サエキ・アキトがアリシエ様に連れられて牢獄を出ました」


 大司教は起きない。

これでは報告にならない、と首輪に判断され、痛みが走る。

仕方なく、大司教の首元に手をやり、魔法をかける。

睡眠の魔法から、覚醒の魔法を今度はかけた。

大司教が目を覚ます。


「ご主人様。

サエキ・アキトがアリシエ様に連れられて牢獄を…っ」


 そこまで言うと大司教は私の襟首を掴み、鬼の形相で私を見てくる。


「貴様…っ、私に何かしたな?

しかもあの転移者を逃がしただと!?」


 床に叩きつけられる。

大司教は脇にあった茨の鞭を握り、私の背中を打つ。


「お前はっ!お前にはっ!あいつを逃がすなっ、と命令しておいただろうがっ!」


「…ぐっ…逃がそうとする者を止めろとは…言われていません…っ」


「詭弁だっ!それはっ!」


 私の顔は蹴り飛ばされる。

この程度の痛みなど、もはや大した事ではない。

大司教は馬乗りになって私の首を絞めてくる。


「また地獄を味わいたいようだな、お前は…。

もう残っている転移者はお前だけだからと、甘やかしすぎたか?

もう一度教育してやろう。

その身体にっ!心にっ!」


 息が出来ない…。

私は目を見開いて天井を見る。

これで、死ぬのなら…それでも…。


 しかし、大司教はそのまま首を持ち上げ、強く頭を床に叩きつけると私の首を放した。


「ごほっ…ゲホッ…」


 肺に再び空気が入ってくる。

咽る私に大司教が声をかける。


「来い。そして奴らを逃がさず、捕えるぞ」


 そう言って私の髪を鷲掴みにして引きずっていく。

また…私は…やらなければいけないのか。

それも自分が選んだ道なのだ…。

まだ小さく…弱かった私は…そんな道しか選べなかった…。






「これが私が選択した証です。

自分で選んでしまった…。もう後には戻れないんです!」


 私はそう叫ぶ。

今さら、何もかも遅いのだ、と。

全て、自分で選び、ここまで歩いてきたのだから。

しかし、目の前の彼は…少年は…サエキ・アキトは言う。


「知らねぇよ、お前が何を選んだかなんて。

お前はそれが良い訳ないって思ってんだろう?」


「良いも悪いも無い。そんな事を言ってどうなると…」


 サエキ・アキトはその言葉を遮って怒鳴る。


「どうにもならないなら、助けを求めればいいだろうがっ!俺はついさっきそれを教えられたばっかだぞ!」


「助けなど…どこにもないっ!誰も私の事など助けてくれなかった!昔も!今も!」


 私は涙を流しながら叫ぶ。誰も、助けてなんて…。


「お前がそれを言わなかったからだ。

だからどこにも届かなかった。

だから、どうして欲しいか、言ってみろ」


 そう、静かにサエキ・アキトは言った。

真っ直ぐ、私を見て。

その眼差しはとても強く、とても熱く、とても優しかった…。

冷たく、冷え切った私の瞳とは大違いだ。

だから、私は…。

私は…。


「助けて…。

私を…助けて…。

助けて下さい…」


 呪われた首輪を掴み、その場に崩れてそう言った。


その言葉に、サエキ・アキトは一言、答えた。




「任せとけ」


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