23話 どうやら過大評価だったようだ
「これからはレイヌ神様と呼んだほうがいいですか?」
「俺は正体隠して下界に降りてるんだぞ。そんな呼ばれ片したらバレるだろうが、今まで通りで言い」
正体を明かしてからヴィクシムはすっごいヘコヘコと頭を下げてくる。
まぁ仕方ないんだが、今後の生活を考えるとやめてほしい。
時間をかけて今まで通りの接し方に戻った時には、すでに太陽が沈み始めている時間になっていた。
普通なら最高指揮官である俺がこんな長時間留守にしていると問題になるんだが、今のところセーラが状況を把握するまで暇だからいいだろう。
「遅いですわレイヌ!いったいどこにいっていたのですか!」
なんてことはなかったな。
テントに着いた瞬間、仁王立ちしたセーラに叱られた。
「ちょっと知り合いに久々に会ってな。ところでもう資料を読み終わったのか?」
「今は時間が惜しい状況なので当然ですわ!」
セーラの目の前には今までの戦闘記録がずらりと並んでいる。
その中でも一番前にあるのが、この間の魔忠との戦いについての資料だ。
「レイヌ、貴方の考察のほうも読ませていただきましたわ。確かに相手は突撃ばかりの無策と言ってもいい戦い方ですわね」
「毎回偵察をしてはいるが、それらしき影もない。最初は警戒していたんだが魔忠戦でようやく理解したよ」
「魔忠なんて切り札があれば策など必要ないと思ったのでしょうね。確かに普通であれば魔忠が一体でも出ただけでも混乱は必須、あながち間違いではないですが・・・」
そう、向こうの考えは理解はできる。
あれだけの戦力があれば、小細工するより突撃のみのほうがこっちの被害は大きいだろう。
下手に策なんか練ると、兵が拡散して全てを仕留めきれなくなるからな。
だがこっちには凄腕の冒険者たちがいた。
それが向こうの誤算だっただろう。
用意していた最高戦力があっという間に倒されたんだからな。
その証拠に、ここに拠点を構えてから一度も襲撃がない。
あちらもどうすればいいか悩んでいるんだろうか。
「今後の作戦は決まったか?俺が前に出るなら総司令官代理であるお前の命令に従うんだが」
「えぇ。ですがその前に人払いしてくださる?中途半端な情報を広められても迷惑ですので」
セーラの一声で、テント内にいた他の指揮官や兵士たちを外へと出す。
どうやら聞かれたくない話があるようだな。
ついでに俺のほうでも防音の魔力壁を展開しておく。
これで外に声が漏れることはないだろう。
「さて、人もいなくなったことですし。レイヌ、まず初めに謝罪をしておきますわ」
「謝罪?こっちは何もされていないが」
「いいえ、すでにしていますわ。今回イビルアル王国から派遣されたコアーク侯爵なのですが、実はシュウイチ事件を裏で操った人物として危険視されていますの。ですがコアーク侯爵は王国内でも無視できない権力を掲げていますわ。もしかしたら今後何かしら足を引っ張る可能性も」
「・・・・・コアークってだれだ?」
セーラは深々と謝罪をしているが、いかんせん俺のほうにはそんな奴の記憶はない。
侯爵?そんな奴身近にいたかな?
「何をおっしゃってますの!我が国イビルアル王国の指揮官ですわ!」
・・・・・あぁ~、あいつか。
今までイビルアルの指揮官としか呼んでなかったから名前知らなかったよ。
「今初めて名前知ったよ。何せ名乗ってもらわなかったからな」
「なっ!?あのギョロメ、一体なにを考えているのですか!」
そうだよな。
実質国の代表として俺の下に来たんだから名乗るのが当たり前なんだよ。
つまりそのコアーク侯爵は簡単に言えば俺を見下しているってわけだ。
お前なんか認めない!ってな。
それ以前に他の国の指揮官も誰一人俺に名乗ってないけどな。
だから俺もあいつらのことは名前で呼ばない。
呼ぶにしてもどこどこの指揮官ぐらいだ。
「国の名誉をかけてとか言って無理やり指揮官に就いたというのに、やっていることは国の品位を落としていることばかりですわ!」
「落ち着けって。どこの国の指揮官も似たような態度だったし、こっちもそれなりに仕返しはしている」
「仕返し?」
「こっちも名前を呼んでない。見下した相手に名前すら呼ばれないなんて、あいつら結構頭にきてるだろうよ」
実際周りから苦情が入ってるんだよ。
それぞれのテントで大声で罵声を上げたり、物を壊す騒音が響いたり。
各国の兵士だとそいつの目もあって黙ってるんだが、傭兵たちや冒険者たちはそうはいかない。
戦いに備えて寝ているときに騒音なんて上げられたら、次の戦いに影響するだろうが!なんて訴えが多いんだよな。
そのせいでテント設営位置なんて考えなきゃならなくなったし、そのことを注意したその夜にはさらに騒音が激しくなった。
まったく子供かよ!
「貴方もなかなか陰険な手を使うのですね。それはさておき、とにかくコアーク侯爵には注意しておいてください。功を焦ったコアーク侯爵が邪魔をしに来るとも限りません」
「わかった。で、肝心の作戦は?」
セーラは一枚の地図を引っ張り出してテーブルに広げる。
ついでに必要のなくなった書類を下へ払い落して。
片づけるの俺なんだが・・・。
「まず前提として、本命はレイヌですわ。もちろん補助として貴方の仲間であるディラン、リングラット、ダリエラ、オンブルを付けますが、それ以外は囮として考えてくださいまし」
広げた地図には一つの都市が描かれている。
端のほうにフムアンドと書いてあるから、きっとフムアンド王国の王都の地図なんだろう。
あの都市は朽ちたものを再利用してあるそうだから記録としてイビルアルに地図があってもおかしくないか。
「フムアンドの王都は東西南北にそれぞれ門がありますわ。そして都市の中央に城が建っているのですわ」
「つまり、どこの門を襲撃したとしてもすぐに城から兵が来るてことか」
「えぇ、ですから四つの門を同時襲撃しても混乱はさせられませんわ」
そして東門に大きく丸を書き込み、北と南には人名を書き込んでいく。
「まず北門にはキューテ、南門にはリーシアを配置。そして残りの全勢力で東門を襲撃ですわ」
「戦力的には均等になっているが、結局同時襲撃か?」
「いいえ、私の考えでは北と南はあっという間に突破できると思いますわ」
いやいや、キューテもリーシアも水晶ランク冒険者として有名なんだぞ?
だとしたら一人でも警戒して兵士をたくさん送るはずだろう。
「そうなのですが、どうやらフムアンド王国では冒険者や傭兵といったギルドの強さを正しく認知していないようなのですわ」
「は?ありえないだろう。だとしたら今までどうやって魔物と盗賊たちを退いてきたんだ」
「もちろん現場の兵士は魔物の強さも、冒険者たちや傭兵たちの強さも知っていますわ。ですが国の上層部、つまりは貴族や王族たちは現場のことを一切知らないらしいですの」
守られてぬくぬくと過ごしてきたってわけか。
しかし普通自国の軍部が警告なり忠告なりしないか?
「この情報はイビルアルの王都に住んでいるとある傭兵から聞いた話ですの。その傭兵の肩書はフムアンド王国の元将軍らしいですわ」
「つまり、反対意見を言ってきたやつは国から追放していたってわけだな。そりゃ貴族たちが世間知らずになるわけだ」
なんともお粗末な国だ。
今まで存続していたのが不思議なくらいだよ。
しかしそうか、だから明らかに魔物の専門家たる冒険者がいる状況で、わざわざ不利になる魔物たちをぶつけてきたのか。
こっちの消耗を狙ってきていると思ったけど、ただ単にこちらの戦力を正しく理解してなかっただけか。
「話は理解したよ。それで、北と南を突破したらどうするんだ?」
「適当に暴れてもらいますわ。そうすれば城内はパニックになるはず。その状況で戦いに不慣れなフムアンドがとる判断はきっと全兵力の投下ですわ」
「普通ならありえないと言い切るんだが・・・今までの戦いを見てるとなぁ」
悲しいかな、向こうの指揮官は平凡以下の才覚しか感じられない。
だからこそこっちも困るんだよな。
下手に頭のいい奴より、バカのほうが考えが読めないから苦労する。
どう考えても自殺行為な判断も平気で指示したりするからな。
「城内の兵力がなくなった頃を見計らってレイヌたちが残った西門からこっそり侵入。そこで国王の捕縛か、もしくは魔王がいたとしたら討伐。どうかしら」
魔王との戦いはおそらく苛烈を極めるだろう。
そうなった場合周囲に人がいないほうが被害も小さくて済む。
この提案に乗るか。
「わかった。追加の提案としてキューテとリーシアは制圧後にこっちと合流する手筈にしてくれ。それから東門に配置された兵士も制圧後即撤退、残りは上級実力者の傭兵たちに任せる」
「それくらいなら十分対応可能ですわ!」
自分の提案が受け入れられたのがうれしかったのか、セーラはすぐに作戦内容を羊皮紙に書き写す。
あとは明日司令官たちを集めて作戦内容の共有と、残った兵士、冒険者、傭兵たちに伝達か。
そして作戦実行は二日後。
慌ただしくなるがモタモタしてると向こうが何かしら対策を練ってくるかもしれない。
こっちの手を見せすぎたからな。
忙しくなるぞ。
◇ ◇ ◇
翌日、セーラの作戦は全員に伝えられた。
とはいえ指揮官たちは最初は納得いかないようだったがな。
急にやってきたセーラに指示されるのが嫌なのだろう。
そんな状況じゃないってのに、貴族のプライドってそんなに大事かね。
一方兵士たちの反応は上々だ。
囮扱いなのにどういうことだとは思ったが、どうやら魔王がいるかもしれないというフムアンドにあまり行きたくないらしい。
死にたくないんだと。
兵士としては失格な発言だが、俺としては好感がもてる。
命を大事にだ。
そして決戦となる翌日に向けて各々が準備を始める。
一致団結しての戦いだ。
誰しもが協力し合い、打倒フムアンド王国を胸に掲げていると誰も疑いもしなかった。
しかし決戦の当日、考えなしバカは向こうだけではない事を、嫌というほど俺は思い知るのだった。
ヴィクシム 「我は戦いに参加できないのか?」
レイヌ 「セーラの中では、お前はただの新人って扱いなんだよ」
ヴィクシム 「なぜだ!?木箱をたくさん担いでいただろう!」
レイヌ 「それでどうやって強さをアピールするんだよ・・・」




