044
次ネタの導入のようなもの?なので、さらりと進行?
「えーーっ」
「ダメ」
「どうしても?」
「絶対にダメ」
「なんでそんなに駄目なのさ?」
「じゃあ、どうしてそんなに諦めないわけ?」
「………」
先程から堂々巡りの論戦を眺め、ミアはふ、とため息を吐く。
アイル、メリア、ミアが書斎に揃うことはよくあることだし、メリアとアイルがこうして終わらない議論を続けるのも珍しくない。
が、一つだけいつもと違うものがあった。
ディドの親族ですかと問いたくなるようなしわ《・・》が、全員の眉間に刻み込まれていることだ。無論、不満、苛立ち、困惑、とそれが意味する感情は三者三様ではあったが。
「だから、冬の裏山にミアを連れて行くなんて、あなた頭がおかしくない?」
「そこまで言う?」
「言うわよ、当り前でしょう?! ミアの身体のこと、本当にわかってるんでしようね?!」
「俺の時はそんなの別に」
「あなたとミアを一緒にしないでちょうだい!」
アイルをキリリと睨みつけるメリアに抱き込まれながら、ミアはふと遠い目になった。
ああ、兄様は母様に連れて行かれてたんだ……。
おそらく、兄は兄なりに加減も色々考えてくれているのだろうが、それでもこの状況じゃ結構厳しいよねぇとミアはぼんやり窓の外へ視線を投げる。
一面の白。
雲間から除いた陽の光が反射して、窓際に立つミアの眼を強く射る。それでも、真っ白な雪に覆われた光景は美しい。
積雪の少ない地域で育った記憶のミアにとって、見渡す限りの銀世界というのはどこか心が浮き立つものを感じる。
だが、ミアの腰近くまで積もった雪の中へ連れ出されようとしているなら話は別だ。
ただの遊びではない。
なにしろ、首謀者はあのアイルだ。あの裏山を六歳児に踏破させようとする兄だ。
「俺はただ、ミアと遊びたいだけなのに……」
「「それ、もう遊びじゃないでしょ」」
これみよがしに、やるせなくため息をついて肩を落として見せたアイルへ、メリアとミアの声が見事なユニゾンを奏じたのは言うまでもない。
「――兄様、未練がましいという言葉を知ってる?」
「あーしってるしってるぅ」
「父様にも笑顔でトドメ刺されてたのに、まだ諦めてないの?」
「……なんでそんなに駄目なんだろうねぇ」
「私に雪中行軍でもさせる気?」
読んでいた教本を閉じ、目の前で机の上にだらける兄をミアは呆れの視線で眺めやる。
積雪がミアの足首程度までなら、もしかしたら少し外に出るくらいは許されていたかもしれない。実際、このあたりの気候として通年なら積もったとしてもその程度留まりのはずなのだ。
改めて、書斎の窓から外を眺める。
昨夜遅くから静かに降り始めた雪は、夜の冷え込みも手伝い、通常の数倍に至る積雪となってしまっている。
景色としては確かに美しい。だが、イレギュラーとはいつの時も少なからず深刻な問題と二人三脚で登場する。
この積雪量も十数年に一度の珍しい天候とのことで、結界で緩和されるヘイアース家はともかく街は大変なことになりかねないと、天候予測したトールがカレントの『知り合い』へ警告したくらいだ。
二日前ではさすがに時間面で厳しいものはあったようだが、それでも対策のあるなしは大きかったらしく、魔道具経由で丁寧な礼状が届いていたとのこと。警告がなければ、人的・物的、そして食料面でかなりの被害が出ていたに違いない。
それほどには、この地域では異常事態と言っても良いくらいなのだが。
「街も規制がかかってるっていうし、さすがに出歩いてる人はいつもより少ないんじゃない?」
「こんなのフロスティじゃ珍しくもないってー」
「北大陸と、西大陸を比較してどうするの」
どうしてそんなに自分を外に連れ出したいのか、半ばうんざりした視線でねめつけてやると、アイルは大きく息を吐きぐしゃぐしゃと自分の髪をかき回した。
「いや、だって、ミアならこういう雪の中でも遊ぶ方法を色々知ってるんじゃあないかと思って」
動機はそこか!!
ある意味腑に落ちたとも言える。が、その理由でここまで粘るか普通。
呆れるやら納得するやらで、もうため息しか出ない。
「……そりゃまあ知ってるけど」
「やっぱり!」
「でも知ってるだけよ?」
「え、なんで?」
なんでそんなに驚いた顔をしているんだこの人は。
知ってるからって、すべて体験したものとは限らないなんてちょっと考えればわかるはずだけど。
ミアは訝しげに眉を寄せつつも、あっさりと答えを返す。
「だって、私そんなに雪の降る地域の生まれじゃないから。だから、知識としてしか知らないの」
「……」
「なんでそんな、あからさまにガッカリしてるの?!」
「いやあ、言われてみれば盲点だったなあと」
納得の面持ちながらも、アイルは妙に気落ちした気配を隠そうとしない。
むしろ、ガッカリをアピールしてないかこの兄は。なんだろうこの「どうしようもない」感。
「じゃあ、ミアを外に連れ出すのは諦めるから、その『知識』っての教えてくれないかなぁ」
「私の利点はどこにあるの」
「教えてくれるまでゴネていい?」
「……どうやって?」
「肉体言語で」
「むしろそれどうやって?!」
妙に清々しげな笑顔の兄が怖い。
なにより、なんなんだその両腕の準備運動は?!
あれっ、これ脅迫っていわないかな……?
結局、スキー、スケートに始まる古今東西のウィンタースポーツにまつわる資料を、記憶の限りに端から魔法紙へ呼び出すことになってしまう。
更には、スノーモトの解説まで来たところで笑顔のトールが颯爽と姿を見せ――。
(……雪中行軍と、どっちの疲れがマシなんだろうね)
スノーバイクについての各種資料をトールに提供し終わったミアは、睡魔への抵抗を完全放棄して書斎の長椅子へと沈み込むのだった。
兄様がとてもウザ(ry
沈没したミアを発見したメリアに二人揃って怒られてます。




