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夢は枯野をかけ廻る  作者: 由宇一
2/15

遅番から、その更にラスト特化のラスト番へとシフトの引継ぎ完了した二十一時過ぎ。待機所についた(さえ)は早速自身に指名が入っているのを確認した。冴は待機所を出て行った。

しばらく待機所は(まゆ)()(ほお)(づき)だけになった。ふと繭美が壁に掛かったシフト表を見てみると、左上の画鋲が外れ、左上端の裏面が見えるようにしてシフト表が垂れ下がっていた。

「シフト表が外れかけているね」

「そうだね」

頬月は繭美に目を合わせず相槌を打つ。

「私、直してくる」

「うん」

繭美が直そうと駈け寄る中、見守っていた頬月が繭美の足元に何か落ちているのを見つけた。

「危ない!」

「え?」

頬月が繭美を制するより早く、繭美がシフト表を凝視したまま驚いていた。

直後、既に繭美は誤って画鋲を踏んでしまっていたところだった。


すぐに繭美自身が抜こうとするも痛みに抜けず、頬月が駆け付け、第三者の強引さで何とか取り外せた。

すぐに頬月は救急箱を持って来て軽く治療した後、室内のインターフォンを取り、事務室の岩田に繭美の怪我の状況を報告する。

しばらくすると待機所に頬月からの報告を受けた岩田が駆け付けて来た。

岩田から詰問された繭美は、応急処置で止まる傷と、必死に引き下がるも、どの道、今日は無理と、傷の具合と繭美の表情から判断した。

岩田は待機所繭美のロッカーから繭美の私物を持ってくるように指示すると頬月に鍵を渡した。

「……」

「使い終わったら事務室に返しに来るように」

「はい!」

動揺する繭美の様子から、恐らくはスペアキーなのだろう。万全を期して来たようだ。

岩田は待機所を出た。

頬月がロッカーから繭美の荷物を持ってきたタイミングで、同じく岩田も帰って来た。岩田の手には茶色の封筒が握られている。

「……」

岩田の封筒を見た繭美は、事態を理解し、ブルブルと震えながら首を横に振る。使い物にならなければ即日切り捨ての業界だ。

「……」

岩田は無言で差し出した。繭美は受け取る。

そのまま繭美は封筒の中を覗いた。多少の増加はあるものの、量はいつもと余り変わらない。契約終了ではないようだ。

「……」

最悪の事態は免れたとはいえ、今日は無理だ、という判断をされたのは間違いなかった。

「……」

「本日の収入だ。ラストまで指名が入り続けたとしての見込み分になるが。他にタクシー代、治療費の見込み分も入っている、五、六万もあれば十分だろう」

「……」

「余りは後で返せ。治療費とタクシー代は経費で落とす」

「……」

それだけの決断を、あの一瞬で、と繭美は呆気にとられるばかりた。

「いいな。業務命令だ。『帰れ』」

「……はい」

「繭美! 予約しておいた! 運転手さんにこの病院へ送るように伝えて!」

頬月が繭美にメモ用紙を渡す。

「……はい」


半ば追われるように繭美は退勤となった。幸い繁華街近くの風俗街なので、タクシーの到着も早かった。怪我もさることながら、その対応に何もする事がなかった。

次の日、退勤となった繭美から、そのまま契約解除依頼の電話がかかってきた。

怪我の治療ついでと昼に性病検査も行った結果、性病の梅毒で陽性反応の診断結果が出た、店と客に迷惑をかけられないとの事。

店は、契約解除になるが、また来たらいい、と再契約を約束したが、本人の意志は固く、口頭そのままで契約解除となってしまった。

(これでは、あの時と同じだ……)

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