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透明になった番  作者: 桃緑茶


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第39話 君と共に生きる日常

プリムラの家周辺には他の人化可能な竜族の住まいも出来、根無し草だったルビア達も定住することになった。

「お姉ちゃんたちも、うちで暮らしたらええのに」


流石に平屋一軒に大人が大勢住めはしない。



キーゼルも別で暮らそうかと思案したが、プリムラに押し負けた。

「ゼーちゃんはうちの家族やん、一緒に暮らそ?」

いつの間にか、友達から家族に格上げされていた。


確かに運命の番として繋がっているので、家族ともいえるが……。


「良いではありませんか?ずっと離れ離れだったのですから」

「いや、姉ちゃんと住んだ方が良いんじゃないのか?」

「私は、移住する竜族を纏めないとならないから」

心なしか、カルミアやルビアに外堀を埋められている気がする。


あと、魂の中のミレットからの無言の圧がヤバい。

押せとか倒せとかうるさい。

何となく、そんな気がする。


キーゼルは家族との暮らしをよく知らない。

前世のプリムラにとってそれは悪夢であり、現世のキーゼルにとっても孤児故に馴染みの無いもの。


――もういいか。

キーゼルは観念した。



「じゃあ、お前と一緒に住まわせてくれや、プリムラ」

「ええよ!うちがゼーちゃんを養ってあげる!」


「俺は金策と、ラトビルの花の開花の研究に専念します」

取り敢えず、ヒュウガ国の移民が米や豆が取れる五穀豆を欲しがっている。

キーゼルの方でもどうやったら豆が味噌になったのか試行錯誤中ではあるが。


「じゃあ、そうしよ。ゼーちゃんは無理したらあかんで」

「女の子がむやみに異性に抱き着くなっ」

「家族とのスキンシップやよー」

プリムラがキーゼルを抱きしめ、自身の頬を寄せた。


だが、平和になったと言えど、問題は山積みであった。

特にキーゼルには。


リンドバルドとの死闘からしばらく。

竜たちの間にようやく安堵の空気が流れ始めていた。


リンドバルドの脅威が消えたことで竜族全体に安堵が広がった。しかし平穏とは程遠い騒動が起こっていた。


「ゴオオオオン!!」

「ガオォン!!」


夜明け前、バーンベルク侯爵領の結界の外。巨大な影が複数、低空飛行しながら轟く咆哮をあげている。その標的は……


「あああもう、うっせえぞ!!」


窓枠を叩き割る勢いで開け放ったキーゼルの怒声が朝の冷気に割り込む。

眼下には数十匹の竜たちが頭を寄せ合い、「我らが長よ!」とばかりに翼を大きく広げている。彼らの敬慕の眼差しが結界越しにも鋭く突き刺さる。


「貴様らァ!!何時だと思ってんだ!?夜明け前だぞ!!寝かせろ!!」


「グルウ……?(我々が長の勝利を祝いたいと思うのは当然であろう?)」

「グルル……?(偉大なる長の健在を日々確認せずにおられようか?)」

「がるっ(長、ラトゼルの花が私の元へ浮かんでおりました)」


「そもそも、竜をぶっ殺しまくった人間を長に祭り上げるとか、竜の誇りは‥‥‥またかよ!?」

「グルガル‥‥‥(そもそも、人里を襲った悪い竜なので問題無いです)」

「あっそう」

「えー?ゼーちゃん、お花脱走したん?うちが取りに行こか」

「‥‥‥あっコラ、プリムラ!!寝間着で外に出るんじゃない!!俺が見に行くから着替えて来なさい!!」


プリムラがラトビルの花ラトゼルが咲かないとしょぼくれていたが、理由は酷く単純なものだった。

この花の開花条件は竜の魔力が必要ではある。それ以上に花の特性として、花が咲くと周囲の土を根で覆い、空高く浮かんでしまうのだ。


(盲目のプリムラには分からないよな…)

その上、穴を補填するように、残った根の欠片が草を生い茂らせる。


恐らくだが、プリムラの竜の魔力で開花した事はあったのだろう。

ただ、竜王の巨体を浮かせるほどの速度で飛んでいっただけ。あるべき場所――ラトビルが浮かんでいた空の高さに向かって浮遊しただけ。


かつてのラトビルの王宮を支えた花々だ。

カルミアやルビアもあんなに勢いよく、一輪の花が静かに急浮上するのは初めて見たらしい。

原始の竜の中にも花を育てた者がおり、開花間近になると気付けば無くなっており、意気消沈したという。

その辺りは地上で栽培する弊害なのだろう。



女侯爵からの追加情報だが。

かつてのラトビルはリンドバルドの消失を経て、プリムラや他の竜が育てたラトゼルの花が集い始め、徐々に空の浮遊島の姿を取り戻しているという。

かつての故郷に飛べる竜はいないものの、その浮遊島を撮って来た記者から写真を譲り受けた。


‥‥‥写真とは、対象の写し絵ではなかっただろうか。


遺跡となった建物を覆わんばかりのラトゼルの花が咲き乱れ、浮遊するときに紛れたのか、ラトビルの木の実が生い茂っている様が映像の様に揺らいでいる。


「祖国は…まだ空の上にあるのね」

ルビアや他の竜たちはその写真を見て、皆涙していた。


+++


プリムラとキーゼル(レーヴェン)が運命の番として覚醒して以降は、プリムラの菜園を低空浮遊しているラトゼルの花の浮遊群。

……偶にとんでもない速度で空に向かうものや、集まった竜の元に飛んでいく花もあるが。


「……何かしらの魔力で固定させた方が良いんだろうけど」

土は落ちて来ないが、洗濯物を干すのに日陰になるのは勘弁だ。


集まった竜たちが協力して、低空浮遊するラトゼルの花を押さえている。


「今日は魔石で浮遊群を固定してみるか。プリムラ、お前も術式を覚えておいてくれ。

……プリムラ、何で俺を見ているのかな?」

キーゼルの琥珀色の瞳は自身を映していた。

プリムラが開眼した翡翠色の瞳でキーゼルをニコニコと見つめているから。

「ゼーちゃん、嬉しそうやなって」

「‥‥‥まあ、退屈はしねえよ」

「今、幸せ?」

「‥‥‥‥‥‥ん」

「顔真っ赤やん」


「うるせえよ」

「エヘヘ。良かった。幸せって思えるようになって」

「‥‥‥幸せだよ。悪かったな。素直じゃなくてよ」


おはよう、おやすみなさい。

そんな言葉を言える相手がいることが嬉しい。

ラトビルの不可思議な作物を収穫し、何を作れば彼女が喜ぶかと考える時間が尊い。


「うちにはちゃんと気持ち聞かせてや。うちはなあ、ゼーちゃんの全部が大好きやよ」

「あー、はいはい、わかりました」

「こん位、ゼーちゃんが好きやよ」

プリムラが全力で抱きしめて来た。

「え、無理矢理!?ちょっ!痛えって!!」

「エヘヘ、ゼーちゃん幸せで良かったぁ」

「やめろって!!折れる!!ギャアアアア‥‥‥」


騒々しいが、退屈しない日常。

この先障害にぶち当たろうとも。

脅威に出くわそうと。


君を守る。

君がずっとこの心を守ってきてくれたように。

君と一緒に、この平穏を守っていきたい。

此処まで読んで頂きありがとうございます。

一先ずここで区切りとさせて頂きます。


また後日談など思いつきましたら書こうと思います。

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