008 ジャックの作戦
冗談は許さない。そう全身で体現するフェイディ。
そんなフェイディの神経を逆撫でするように、ジャックが軽い調子で尋ねてくる。
「だってよ、ジゼル。どうする? ここが最後の分岐点だぜえ。俺はジゼルの答えが知りてえ」
ここで僕に振るんだ。
でも、僕に実際の腐蝕銀鎖の人々を見せてから選択肢をくれるんだから、ジャックは意外といい人なのかもしれない。
でもなぁ。できれば――――。
「一番偉い人に会ってから決めたいな」
「だははははははははははははははっ!」
何が面白かったのか、ジャックが大爆笑していた。そんなジャックを見て、バーグがやれやれと言わんばかりに首を横に振っていた。
「よりにもよって、オーレリア様にお会いしたいだと?」
向かいに座るフェイディはもうこちらの正気を疑うような顔をしていた。
「フェイディがおいらたちを警戒するのもわかるけど、できればこの子だけでも会わせてあげることはできないかな?」
「先ほどから気になっていたが、この少女は?」
「僕? 僕はジゼルだよ」
答えると、フェイディは解説を求めるようにバーグの方を見た。
「おいらたちも今日会ったばっかりなんだけど、すごい子だよ。正直に言うと、腐蝕銀鎖の後ろ盾を欲しているのはジゼルで、おいらたちはオマケなんだ」
「地擦りと破砕がオマケ……? この子は何者なんだ?」
「そいつあジゼルの加入を決めたら教えてやるよお。どうする? 閃光のお?」
「ふむ……」
フェイディは少しでも情報を得ようと僕とジャック、バーグの顔を観察していく。
「はぁ……」
しかし、やがて諦めたように深い溜息を吐くと、頷いた。
「わかった。だが、オーレリア様はまだお眠りになっているだろう。しばし時間を要するぞ?」
「かまわねえよ。その間の暇潰しじゃねえが、最近の南スラムの状況を教えてくれよお」
「……答えられる範囲ならな」
フェイディは後ろに控えていたニンゲンの一人に指示を出すと、そのニンゲンは礼をして部屋の外に歩いていく。
たぶん、オーレリアを呼んでくれるのだろう。
◇
「なるほどなあ。するってえと、やっぱり腐蝕銀鎖のシノギは――――」
「まあ、削られているな。まるで、真綿で首を締められているようだ。現状を打開しようにも、小競り合い程度ならできるが、兵力が違いすぎて戦争などできん」
「やっぱり難しいね……」
僕はジャック、フェイディ、バーグの話を聞きながら、この南スラムの状態というのを勉強していた。
もしかしたら、ジャックはこのためにフェイディに話を振ってくれたのかもしれない。
それによると、この南スラムには全部で四つのマフィアがあるようだ。
一番景気がいいのが、獅子心臓というマフィアらしい。南スラムの半分弱を手中に収める大マフィア組織だ。街へと入るための門の付近や、門へと続く大通りを支配下に置いていて、かなり荒稼ぎしているらしい。
その次に勢力を伸ばしているのが、紅の雫というマフィアだ。ここは南スラムにある花街という場所を取り仕切っているらしい。女を見つければ即攫う。僕が一番警戒しなくてはいけないマフィアだとか。
そして三番目。値千金。これはマフィアと呼ぶべきか判断に迷うところらしい。その名の通りお金にがめついマフィアだ。その正体は、私兵を持った商人連合らしい。一部では獅子心臓と協力しており、一部では反目しているようだ。
そして最後。一番力を持っていない最弱のマフィア。それが腐蝕銀鎖だ。構成員の数も、兵力も、財力すら最弱のまさに弱小マフィアである。
最初は、なんでジャックたちがこの腐蝕銀鎖をお勧めしてきたのかわからなかった。
しかし、話を聞いているうちにだんだんと理解できてきた。
この腐蝕銀鎖。現在の構成員、つまり動ける人数は少ないけど、その後ろには大量の傷病人がいる。
なんでも、数年前の抗争で負けた時に、かなりの数の構成員が怪我をして、そのまま復帰できずにいるらしい。
しかも、この傷病人たちは、腐蝕銀鎖を守るために怪我をしたニンゲンだ。腐蝕銀鎖は彼らの面倒を見ており、そのために金銭的にも人手的にも消耗している部分もある。
傷病人といえば、僕の出番だろう。
つまり、僕ならばこの腐蝕銀鎖を大改善できる可能性がある。
それだけの大きな働きをすれば、腐蝕銀鎖は僕を無視することはできないし、恩も感じてくれるかもしれない。
だんだんジャックの考えがわかってきた気がするよ。
なるほどなぁ。これがおそらく作戦、もっというなら戦略というやつなのだろう。
魔族にも戦術や作戦、戦略という言葉はある。
でも、わりと力押しが正義みたいな風潮があったから、ジャックのような考え方は、僕には新鮮に映った。
「オーレリア様のご準備が整いました」
そんなことを考えていたら、どうやらこの腐蝕銀鎖のボスの準備ができたらしい。
「わかっているとは思うが、面会が許されているのは、そこの少女だけだぞ?」
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