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051 エデウス②

「エデウス! この大バカ者が! よくおめおめと私の前に姿を現せたな!」


 歴代のバラモス伯爵の肖像画が飾られた豪華な執務室。その執務机の向こうには、怒り心頭の当代のバラモス伯爵がおられた。


 おそらく、もう伝令の報告を聞いて、私が敗軍の将であることも知っているのだろう。


 だが、私はより詳しい報告をあげるために、叱責を、切り捨てられることを覚悟でこの執務室にやってきたのだ。


「面目次第もございません。ですがこのエデウス、伯爵様により詳しい報告をするために、生き恥をさらしております」


 それが、私を逃がすために散っていった参謀たちとの約束だからな。


「貴様はバカか? より詳しいだと? 生き残った兵士はたった千人ちょっと。教会に派遣させた治癒魔法使いまで人質に取られ、教会に借りができる。治安維持も難しいほどだぞ? これ以上何があるというのだ? 貴様の言い訳なんぞ聞きたくもない!」

「いいえ、聞いていただきます!」

「はあ?」


 まさか私が口答えするとは思わなかったのだろう。伯爵は驚いたように固まった。


 その隙を突いて、私は報告をする。


「今回の敗因ですが、偏に聖女と呼ばれる未知の人物が係わっていると思われます。考えてもみてください。腐蝕銀鎖の千を超える兵隊は、いったいどこから現れたのか。それを挟み撃ちをし、兵数もこちらが三倍あります。それに、教会から派遣された治癒魔法使いもいる。どこからどう見ても勝てる布陣です。むしろ負ける方が難しい。それなのに、なぜ負けたのか。すべては聖女と呼ばれる存在で説明が付くのです!」

「ふむ……」


 伯爵が一瞬考える素振りを見せる。この機を逃してはいけない!


「聖女とは、その昔魔王を討伐した聖女様にあやかっているのでしょう。単純に治癒魔法に長けた女性を指す言葉でもあります。そう。治癒魔法です。今まで、腐蝕銀鎖に足りなかったピースです。千を超える兵隊がどこから湧いてきたのか。その聖女とやらが腐蝕銀鎖の怪我人たちを治したのでしょう。事実、私が腐蝕銀鎖と対峙している時、確かに致命傷を与えたはずなのに、無傷で戦線に復帰してきた腐蝕銀鎖の者たちが複数報告されています。敵の怪我が時間と共に勝手に治っていたとも報告がありました。教会の者たちに確認を取りましたが、そういった高度な治癒魔法が存在するとのことです。あ奴らのバックには、絶対に治癒魔法使いがいるはずです。それも、凄腕というのも烏滸がましいほどの、まさしく奴らにとっての聖女が!」


 一気に捲し立てるように言うと、伯爵は一瞬だけ納得したような顔を浮かべたが、すぐにその顔に怒りを浮かべた。


「そんな存在がいるわけないだろ! 十七人だぞ? 十七人もの教会の治癒魔法使いが魔力切れになったと聞いている。何だ、エデウス? お前はその聖女とやらが、十七人分の治癒魔法使い以上の働きをしたとでもいうのか?」

「はい! そうなります。事実、その聖女は、教会の治癒魔法使いの誰も使えない高度な治癒魔法を使えました。それだけの高みにいる可能性はあります! 伯爵様も知っての通り、魔法を使えば使うほど成長するもの。理論上はありえます!」


 私の言葉を聞いて、伯爵は思案するような様子を見せた。


「エデウス。私は、周囲の反対を押し切り、お前を将軍に据えたのには訳がある。お前は確かに能力は低いかもしれんが、決して嘘を吐かない男だと思ったからだ。だというのに、私はお前の言葉を全面的に信じることができない。魔法で操られているのではないかと疑っているほどだ。だが、実際に我が軍は大敗し、その被害は甚大だ。半ば強制的に動員した教会にも面目が立たない……」

「申し訳、ございません……」


 私の能力が低いのは事実だ。軍には、私よりも将軍に相応しい者がたくさんいる。確かに、私の家柄がいいのも事実だが、伯爵が私を将軍に選んだ理由がそれだったとは……。


「烏滸がましいのは百も承知の上で申し上げます。もう一度、もう一度だけ私を信じていただけませんか?」


 深く、深く頭を下げる。


 もう己に矜持などない。ただあるのは、私を逃がすために犠牲になった部下たちに報いたいという心だけだった。


 そして、この情報を持ち帰って、もう二度と同じ轍を踏まないようにしなければならない。


 そうでなければ、部下たちも浮かばれない!


「はぁ……。わかった。どうせ現状では、こちらから打てる手も残されていないからな。ここはお前の言葉を信じてみよう」

「ありがとうございます!」

「しかし、聖女か……」


 思案するような顔を見せる伯爵。先ほど、打つ手がないと言っていたが、何か思いついたのだろうか?


「伯爵様?」

「いや。そういえば、国が治癒魔法に長けた人材を募集していたなと思い出してな。どうせできることなどないし、我らはもう敵対してしまった。ならば、国に献上するのもいいかと思ってな。そしたら、国が排除してくれるだろう」

「はあ」


 そう上手くいくものだろうか?

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