八話 黒騎士ユタカは魔剣を封じる
「魔剣が持ち主を破滅に導くなら、ちゃんと勇者が封印してやんねーとな」
「ユタカ君、黒騎士じゃなかった?」
グラハムの冷静なツッコミが入る。
「黒騎士は封印しなさそうだったから」
「確かに」
そこで納得しちゃうのか。
グラハムと俺は絶対気が合うと思うんだけどなぁ。
「まあ、私はこうして肉体を手に入れる事ができたから、ユタカ君を殺して、次の持ち主でも見つけようと思うんだ」
髪をかき上げながらグラハムはこちらを見る。
俺と敵対する意思はやっぱ変わらないようだ。
「あてがあんのか?」
「魔王、とかね」
その言葉に、俺のこめかみがひくついた。
伊達に側にいた訳じゃない、俺を一番揺さぶれるものをわかっている。
「待って待って、別に君の伴侶だからじゃないよ!? 元から私は歴代の魔王の持ち物だったんだからね!」
俺の殺気を感じ、グラハムは慌てて手を振って言葉を続ける。
「リスドォルが降ってきた影響で前魔王の魔剣の影響が解けちゃって、争いがなくなったから魔剣も処分されて、私はお腹を満たせなくなったんだよ」
そういや昔の魔界は荒廃した殺戮の世界だったらしいが、魔剣もその環境に関係してたのか。
「私は魔力を貰いながら、所持者の能力を何倍にも引き出す。でも欲望も何倍にもしちゃうんだよね。魔王に代々引き継がれてる時はそれなりに良い関係だったのに……」
「魔王城の近くにお前があったのって……また魔王の持ち物になりたくて?」
コクリと頷いたグラハムは腰に手を当て、顎髭を撫でながらブルガーとの出会いを話した。
「処分のために私は異空間に放り出されたんだけど、何百年かして、行き着いた天界で出会ったのがブルガー君。クラウンって子に殺されかけた事で、自分が弱いせいでクラウンを悲しませたから強くなりたい、って願っていたから協力したんだよ」
クラウンとの魔力差で干渉の影響が変わる。
死にかけたのに、ブルガーは自分の弱さを責めたのか。
優しい奴なんだな。
「私は長年持ち主を得られていなかった影響で、弱体化が酷くてねぇ。ブルガー君には私を回復できるまでの魔力もなかったから、核をブルガー君に残して魔剣を魔王城の付近に配置したわけさ。魔王に近付ける機会を伺ってね」
ウインクを俺に投げ飛ばすグラハム。
まさに俺は都合の良い相手だったのか。
毎度リズ様狙われ過ぎです。
「ユタカ君、魔王大好きな割にあんまり暴走しないしさぁ。普通に魔王とくっついちゃうし。途中からユタカ君の魔力でお腹いっぱいになるし」
「じゃあ、このまま俺と一緒にいろよ。腹が満たせるなら俺で十分だろ」
魔力が欲しいだけなら、わざわざ魔王である必要はないはずだ。
なんでそんなに魔王に固執するのか。
「イヤだよ。私は人間は嫌いなんだ」
「種族差別よくないぞ」
「だって、すぐ死ぬだろう? 寂しいじゃないか」
そう言ったグラハムに茶化した様子はなかった。
本当に寂しそうに笑っていた。
「でも、俺は半分神みたいなもんだし、すぐ死なない」
「本当にそうかい? 君はまだ若い。人でなくなる事の意味をいつか知って、後悔して、人に戻りたいと願うだろう」
グラハムはもしかして心配しているのか。俺の事を。
「私は人間も沢山見てきたよ。欲に飲み込まれ、人とは言えないような悪逆非道の末にむごたらしく死ぬんだ。ユタカ君はそうならなかったけど、いずれは半人半神の重圧に耐え兼ねて狂う事になる」
まるで見てきたように語る。
過去にも俺みたいに種族を越えて結婚した人間がいたんだろう。
でもそれは俺じゃない。
「ユタカ君が持ち主である事に不満はないよ。私も実は居心地が良いと感じている。でも、だからこそ人であるうちに殺してあげるのも優しさだと思うんだよねぇ」
「なんでそこで飛躍するの!?」
種族の価値観の違いには毎回驚かされるけど、一応、グラハムも俺を気に入ってるって事でいいんだよな。
どうにかして認めてもらえないだろうか。
「いやいや、お前の言うことが正しくても、今はまだ違うだろ。俺が人でなくなりそうになってからで良くないか? その時はグラハムに任せるから今は俺といてくれよ」
「クックック……とっても熱烈な告白だねぇ」
楽しそうに笑うグラハム。
これは期待できるんじゃ。
「じゃあ」
「いいや、駄目だよ」
しょうがないか。
俺は持っていたブルガーを投げ捨てる。ちゃんと魔力で保護したので大丈夫だ。
「なら、また俺が欲しいって言わせてやる」
「ヤダー、ユタカ君のエッチぐふっ!?」
一瞬で拳をグラハムの腹に叩き込んだ。
連続して顔にもお見舞いする。
「痛い! 痛いよ! ユタカ君!」
「素手だぞ」
魔力なんか纏ってない、ただの拳だ。
逆に小さいながらもダメージが通っていて面白いが、生身の拳で殴った経験がほとんどないから俺も痛い。
「ユタカ君……本気でやらないと死ぬよ?」
「やってみろよ、人間の姿でどうやって俺を殺す? 魔剣のままのが強かったんじゃないか?」
「こうやるのさ」
ズンッと、重い衝撃が腹部に走る。
見ると、グラハムの腕が刃になっていて、俺の腹を貫いている。
「ガハッ……!」
「次は楽に死ねるよう、首を撥ねてあげよう」
「はは……俺の勝ちだ」
グラハムの刃を抜けないようにしっかり手で掴んだ。
血が口やら手やら腹から出てるけど、構いはしない。
「俺の魔力、返してもらうぜ」
「な、そこは……!」
グラハムは気付いたがもう遅い。
俺は腹部の“穴”を開いた。
直接俺の魔力に触れられる場所だ。
ここからなら、グラハムがどれだけ魔力を留めようとしても、魔力は本来あるべき俺の方に流れていく。
「しばらく反省してな」
あっという間に、グラハムの姿が俺の腹に吸い込まれていった。
腹が空いたらいつか声でもかけてくるだろう。




