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九話  黒騎士ユタカは気まずい

 


 俺は痛みに顔をしかめながら、放り出したブルガーを拾い上げる。

 まだ双子の戦闘が終わってないのを見て、俺は眠っているブルガーに声をかけた。



「グラハム。核を出せ」



 反応らしい反応はなかったけど、小さな魔力をブルガーの口から感じた。

 口を指で開けると、ビー玉くらいの大きさの紫色をした球があった。

 これが無くなれば、ブルガーの力だけでは大量の魔獣に干渉するなんて出来なくなるはずだ。



「ブルガーの力奪っちゃうけど、ごめんな」



 謝りながら核を取り出し、勝手に俺の魔力を吸わないようにガードをかけて手甲に入れた。

 反省して謝ってきたらいっぱい魔力を食わせてやる。



「ユタカ!?」

「凄い怪我じゃないか!」



 思った通り、魔獣は退いたみたいだ。

 双子が慌てて俺の元へ飛んで来る。

 怪我を心配してくれる声がありがたい。

 血が足りないのか頭がクラクラしてきている。

 肩やら腹やら鎧が壊れていて外も中もボロボロだ。



「ブルガーのせいじゃないから責めないでやってくれよ」

「どういうことだ」

「グーデ、その前に回復だ」



 リエールが自らの手を傷付け、流れ出た血を俺の傷にかけている。

 めちゃくちゃ痛そうで申し訳ない。

 魔神の血が輸血されるって尚更俺は人間離れしそうだな。



「ただの人間だったら死んでいたぞ」

「うん、そんな気はしてた」



 リエールはもっと慎重に戦えと、お小言をくれる。

 グラハムが言っていた事に、俺は心当たりがあった。

 このくらいなら死なない、と思える範囲がどんどん広くなっている。

 痛みを感じる度合いも減ってきているし、怪我を恐れなくなった。

 俺は自分が人間ではなくなっていると少しずつ理解していた。

 きっとその変化を、リズ様よりも身近にいたグラハムは誰よりも理解していたんだと思う。



「傷を塞ぐ」



 グーデが肩と腹の傷に直接触れ、魔力で傷を覆った。

 手の傷も同様に塞いでくれた。

 もう全く痛くない。



「ありがとな」

「ユタカに傷など残せば、魔王に怒られそうだ」

「完全回復まで少し時間はかかるが、その代わり確実に綺麗になる」



 完全に人間じゃなくなったと自覚したら、自分の回復くらい出来るようになりそうだな。もう医学とか関係なくなるし。



「君たち……」

「お、ブルガー。起きたか」



 目を覚ましたブルガーは気まずそうに俺の腕から抜け出す。

 グーデがブルガーに問い掛けた。



「お前の考えを聞かせて貰おうか。まだクラウンの自由を奪いたいのか」



 ブルガーはハッとしてから目を伏せ、温和な顔で首を横に振った。



「あれも本心ではあったけど、俺がクラウンをどうこうする気はなかったんだ。ただ見守りたかった。それなのに、守るどころかクラウンに酷い事をしてしまった」



 寂しそうな、それでもスッキリしたような表情になるブルガー。



「俺がいなくても、こんなにもクラウンを守ってくれる存在がいるんだね。俺はもう必要ない。だから、今後クラウンにも近付かない……それでいいかい?」

「よくない!!」



 双子が叫んだ。俺がビクっとしてしまう勢いだった。

 同様にブルガーも目を丸くしている。



「ブルガーもクラウンもなんで話し合わないんだ!」

「僕達はクラウンからどれだけお前の話を聞かされたと思っている!」



 凄い剣幕にブルガーも困惑顔だ。

 双子はイライラしたようなモヤモヤしているような、行き場のない感情で手が変な動きをしている。



「いいからもう、クラウンの所に案内しろ!」

「お前達はちゃんと向き合え!」

「は、はい」



 ブルガーはたじたじだ。

 俺も全く話に入れず大人しくするしかなかった。



 ◇◇◇



「ブルガー!」



 監禁した犯人だというのに、クラウンはブルガーの顔を見て、全身で喜びが溢れているのがわかる。

 部屋を見渡すと、これでもかという程、広くて豪華な部屋。

 暇つぶしという暇つぶしは全てあると言ってもいいし、事実クラウンはベッドでゲーム機を使って遊んでいた。明らかに満喫している。


 手枷と首輪と薄着な事以外、誰もが羨みそうな引きこもり部屋だ。


 唖然としている双子と俺に気付かず、クラウンはじっとブルガーを見ている。

 頬が色付いて、他には何も見えていない様子は、どれ程ブルガーの事が好きなのかが一目瞭然だった。



「クラウン……お迎えが来たから行っておいで」

「ハッ! 騎士達!」



 ようやく俺達に気付いたクラウンだが、嬉しそうにしてくれたのでホッとした。

 俺達とブルガーが一緒にいる事で、クラウンも現状を察したようだ。



「ブルガー、我の仕事……認めてくれるのか?」

「認めるも何も、俺にそんな権限ないのに……本当にごめん。クラウンは一人前になったし……もう、俺はいい加減クラウン離れをしないといけないね」



 悲しげなブルガーがそう言うと、カシャンという音と共にクラウンの拘束は外れ、消滅した。



「離れる……? 我はブルガーの所有物となったのに」

「クラウンは物じゃないよ」



 その言葉に何故かクラウンはショックを受けた顔をした。



「い、嫌だ、物がいい」

「クラウン?」

「我を嫌いでもいいから、側にいる理由を奪わないでくれ、ブルガー!」



 ボロボロと大粒の涙がクラウンの目からこぼれ落ちる。

 ブルガーのクラウン好きも相当なのに、クラウンのブルガー好きもかなりのものだ。

 なのにお互いが好かれていないと思い込んでいる。

 俺も双子も混乱で固まってしまう。



「嫌いな訳ない! でも、俺はクラウンに取り返しのつかない酷い事をした。これ以上クラウンを傷付けるのはもう嫌なんだ」

「酷い事!? 我はブルガーに酷い事をされたことなんてない!」

「自由を奪って、身体まで奪ったんだよ?」



 あ、監禁中にそういう関係になってたんですね。

 この場にいてもいいのかソワソワしてしまう。



「我は嬉しかった! 例え性欲処理道具でも我を必要としてくれて!」

「せ、せいよくしょり……どうぐ……」



 ブルガーが物凄いショックを受けている。

 こじれてんなぁ。



「違う、クラウン……す、好きだから……だよ」

「え?」

「お、俺が、クラウンの事を、愛してるから……無理矢理にでも、手に入れたくて」

「すっ、あ……い!?」



 二人とも顔を真っ赤にして手を握り、見つめ合っている。

 うん、帰るか。

 双子も同じ事を考えたらしく、俺達はまるで三つ子のように同じ動きで数歩下がって部屋を出た。



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