六話 英雄フランセーズは援軍と合流する
デュラムのお陰で頭が冷えました。
個人の感情に振り回されるようではまだまだですね。
「リエールの痛みを分けて」
「グーデの痛みも頂戴」
グーデがリエールの手に口付けると、リエールの手は綺麗になりました。
代わりにグーデの手が赤くなっていますが、それも直ぐに引いていき、二人の手は元通りです。
同じようにリエールがグーデの腕に口付け、あっさり治療してしまいました。
怪我を共有する事で治癒力も共有しているのでしょうか。共有どころか倍増しているように見えます。
二人でないと出来ない制限があるからこそ効果が強力なのだと思います。
引き離したい所ですがそう簡単にはいかないんでしょうね。
「何故お前達は神の力を求める!」
僕は問い掛けました。
「人間ごときが知る必要は無い」
魔神は話す気はさらさらないようで、直ぐに攻撃に転じました。
手のレンズらしき魔道具からレーザーが放たれます。発動速度が魔法の比ではありません。
避けたつもりでも僕の髪に掠りました。焼けたというより消滅した感覚があります。
絶対に触れてはいけないと本能で理解し、肉体に受けた時を想像すると背筋が凍るようです。
レーザーは砲撃にも切断にも使えるので厄介です。
折角吸収した力を使ってでも僕達を倒すという強い意思を感じます。
攻め続けらたら、いずれこちらも本気を出して神の力で対処しなければいけなくなりますからね。
「デュラムは回避に専念して」
「オッケー、俺達は相手を倒す事が勝利条件じゃねーからな」
僕は聖剣を取り出しました。
「あの勇者、まだ剣を持っている」
「馬鹿なのか、隠しておけばいいものを」
双子は僕を嘲り笑っていますが、聖剣は正確には武器ではなく心の象徴です。
攻撃が主体ではないのでそう簡単には奪われません。
「火の玉、遊んで来い!」
デュラムが叫ぶと、ウィルオウィスプでしょうか、顔のある火の玉がフヨフヨと大量に双子の元に向かって行きます。
双子は警戒して魔弾を撃ち込みますが、飛散しても直ぐに集まり形が戻ります。
デュラムが遊べと言ったように、火の玉はワラワラと双子に纏わり付こうとしていますが、振り払っても攻撃しても、再生してなかなか数が減りません。
殺傷力は皆無なのに、熱さは感じるようです。完全に嫌がらせの時間稼ぎですね。さすがデュラムです。
双子の気が散っている隙に僕はリエールに飛び掛かります。
聖剣を正面に突き出し、横に避けたリエールを追う様になぎ払いました。
少しだけ頬を掠めただけですが、リエールはカッとなったのかレンズを構えようとしたので、腕を手で払い、軌道を反らしました。
「貴様ッ」
「すぐそれに頼ると思ったよ」
グーデよりもリエールの方が気が短そうという予測は正解でしたが、即座に体を捻り、レンズをこちらに向けてきました。
咄嗟に空を蹴り、軌道から逃れたつもりでしたが、間に合わず左腕が飛んでしまいました。
しかし関係ありません、聖剣の力で瞬時に僕の腕は再生します。
「な!?」
僕は再生ついでに左腕でリエールの頬に拳を叩き込みました。
デュラムが火の玉を作りながら声をかけてきます。
「フランセーズ、いつの間に体術メインになったんだ」
「ユタカに負けた時から剣以外も鍛えていたのさ」
剣だけに頼っていてはここまで魔神と戦えていなかったでしょうね。
ユタカのお陰で戦闘の幅が広がったので感謝しています。
「リエール離れろ」
グーデが突如前に出て、魔方陣とレンズを同時に構えました。
超火力で押すつもりでしょう。
「デュラム、僕の後ろへ! 離れたリエールを近付けないように援護して!」
「マジかよ!」
流石に守護を展開せざるを得ません。しかし、デュラム一人分だけです。
広範囲に張るとどこから吸収されるかわかりません。
僕は聖剣の修復で耐える事にします。
デュラムは大きな火の鳥をつくり、リエールにけしかけて距離を保っています。
「消滅してくれるなよ」
「最善を尽くすつもりさ」
グーデの最大火力と思われるレーザー砲が僕を襲う、筈でした。
「なんだ!?」
突如攻撃を解除したグーデが、自らに多重の魔法壁を張りました。
ズガガガッという凄まじい音がして、無数の何かがグーデに降り注ぎます。
「な、重いッ!?」
「黒い刃……?」
直撃した、たった三発ほどの刃だけで複数張ったグーデの魔法壁が砕け、直接体に刃が突き刺さり爆発を起こしました。
「ぐぁあ!!」
「グーデ!」
リエールがグーデを魔法で瞬時に離れた場所に移動させますが、対象が範囲から消えると、今度は刃はリエールに方向を定めます。
「くっ、鬱陶しい!」
「追尾すんのか!?」
デュラムが驚きに叫んでいますが、僕も驚愕に目を見張りました。
リエールは凄まじい速度と数で迫る刃から逃れるのに精一杯になっています。
どんどん双子はこちらから距離が離れ、僕達にも余裕が生まれました。
「テリアの魔法……」
テリアは広範囲の魔法が得意でしたが、その分威力は減っていました。
良くて弓矢程度の火力でしたが、この黒い刃はその比ではありません。
降り注ぐ刃の数は減るどころか増えています。
「いったい……テリアに何があったんだ」
「テリアは勇者になった」
背後から聞き覚えのある声がして振り返りました。
「魔王」
「大丈夫だったか?」
魔王は僕に近付いて、怪我がない事を確認しています。
無茶していないか心配してくれているのでしょう。
「光の剣と炎の剣が奪われた」
「問題ない」
魔王は相変わらずあまり動かない表情でキッパリとそう告げました。
少しだけ心が軽くなります。
「おいおい、一体あの魔神は何なんだ?」
デュラムが疑問を投げかけました。僕もそれが知りたい。
「さあな。私も目的はよくわかっていないが、奴らはレジャンデールを消滅まで追い込み、ユタカがギリギリの所でレジャンデールに力を返して辛うじて生かしている状況だ」
「まあ見た目は元気だけどな」
魔王の後ろについていたユタカが情報を付け加えてくれました。
心配させないようにとの気遣いなのでしょうが、何の気休めにもなっていませんよ。
この力はとても便利で助かりましたが、あるべき所へ戻る時が来たようです。
「そうか、では僕も返さないといけないな」
「そんな簡単に決めてしまっていいのか? 強制ではないぞ」
魔王まで何故か僕の力の心配をしているみたいです。
そんなに力に執着していると思われているのでしょうか。心外です。
「本来は無いはずのものに縋るつもりはないよ。神の力に頼っていては、いつまで経っても僕は本当の王にはなれないだろうしね」
何故でしょう。
そう言った途端に魔王とユタカが顔を見合わせて笑ったのです。
なんなんでしょう。
僕はデュラムと顔を見合わせて首を傾げたのでした。




