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一話  王子テリアは英雄の伴侶【前編】

 


 僕はオーベルジュ第三王子テリア。新婚です。

 勇者として魔王を討伐し、世界の英雄となった人が僕の伴侶。フランセーズという、ふわふわした輝く金の髪を持った美しい青年です。

 お伽話の王子様を思い浮かべるなら、僕よりフランになるでしょう。

 甘いマスクが多くの女性を魅了して止みません。



 フランは正義感が強く、民を守るという意志が誰よりも強い、王となるために生まれてきたかのような存在です。

 自己犠牲の精神が強すぎるのは問題ですが、それを支えるのがパートナーである僕の使命だと思っています。

 第三王子なので、オーベルジュは兄と姉に任せ、僕はフランの国であるラトラに尽くすつもりです。



 崩壊したラトラを整地するために、フランは人を集めました。

 炎の勇者である事を隠しているデュラムさんと共に、家の無い者に、部屋と食事と仕事を与え、犯罪者であっても、どんな生い立ちでも受け入れました。

 過去を詮索せずに、働きに応じてラトラの市民権を与えていきました。

 まだ働けない幼い孤児は、街から少し離れた敷地でデュラムさんが全て引き受け、育てています。



 英雄の抑止力は凄いもので、いさかいが起きることはほとんどありませんでした。

 新しい人生を歩みたい人が、過去を捨ててラトラへ集った結果でもあります。

 皆、善い人であろうとしているように思えました。

 衣食住が最初に一定期間保証されている余裕のお陰でもあるでしょう。



 フランはこの余裕をとても大切にしています。

 全てを失った経験があるからこその考えだと思います。

 僕はこの最初の資金を全て提供しました。

 魔術師としての研究で稼いだ私財を全てフランに渡しました。

 愛する人のためにできることがあって嬉しいです。



 こんな僕にも悩みはあります。

 フランは僕の事を好きなのか、ずっとそればかりが気になっているのです。



 元より僕達は幼少からの婚約者でした。

 そこに恋愛感情が含まれないのはむしろ普通の事だと思います。

 それでも僕はフランが好きです。

 愛しています。



 会った事もない時の手紙のやり取りから、僕はずっとフランに恋していました。

 いつも花の香りがする封筒。整った文字。

 日常を慈しむ内容。僕への質問。全てが愛しいのです。



 ラトラの国が滅んだと聞いた時は、絶望したものです。

 しかしフランは生きているとだけ手紙をくれました。

 すぐにでも駆けつけたかったのですが、居場所もわからず、僕から何か行動する事はできませんでした。



 当時の僕にできる事は、己の力を磨くことだけです。

 いつか再会した時に恥ずかしくないようにと、勉学も魔術も国一番になりました。

 これでフランに会っても胸を張れる、大丈夫だと安心していましたが、現実はそう上手くいきません。



 フランは勇者となっていました。

 勇者とは神に力を与えられし者。魔力も身体能力も特別になり、人間を超越した存在になるのです。

 その時点で僕が力で助けられるような事はなくなりました。

 とても無力です。



 フランから婚約解消を提案された時は全身が冷えていく感覚でした。

 やはり彼は僕の事をなんとも思っていないのだと突き付けられ、大きなショックを受けました。



 ですが、それで諦めるつもりは微塵もありません。

 僕はとにかく王子である特権をフル活用して、フランに協力し、信頼を得られるように努めました。

 邪魔をせず、見守り、都合の良い存在に徹しました。



 成果はあったようで、思ったよりも早く僕を頼ってくれるようになったのはとても嬉しかったのです。

 フランの気持ちにも何か大きな変化が現れたのか、僕との結婚を決めてくれました。



 ですが、まだ僕達は接吻すらしていません。

 いえ、正しくは一度だけ、挙式でしました。誓いの口付けです。

 でもそれは儀式でしかなく、フランの意志が介在していないのです。

 フランから求められたい。

 体を繋げる事は叶わなくても、せめてそれくらいは望んでもいいはずです。

 僕達は夫婦なのですから。



 挙式後は、同じベッドで眠っています。

 しかし、英雄であるフランは外交交渉をしたり、ラトラの復興作業だけでなく、人助けをしたりとても忙しいのです。

 僕はいつも先に眠ってしまい、いつの間にかフランが隣に眠っている日々です。

 同じベッドにいてくれるだけでも今は感謝すべきかもしれませんが。



 そんな今も、僕は一人でベッドに横になっています。

 なんだか眠れないのです。

 メルベイユを取り巻く魔力の流れが普段と違うからでしょうか。

 少し胸騒ぎがします。

 十数年前の魔王降臨の夜のようです。



 カチャ、と扉の音がしました。

 考え事をし過ぎて、かなりの時間が経過していたようです。

 ベッドが軋み、誰かがシーツに体を滑り込ませてきました。

 誰かって、愛しいフラン以外ありえませんが。



 目を閉じていたので、そのままつい寝たふりをしてしまいました。

 急に何を話していいのかもわかりませんし、心の準備もできていません。

 僕は普段、フランの前ではできる限り平静を保っているように見せていますが、内心では好きな子を前にして心臓が飛び出そうです。

 いつも目が覚めて隣にフランの綺麗な顔があると、それだけで顔から火が出る程照れてしまいます。



「テリア、今日もお疲れ様。おやすみ」



 え?

 フランが寝ている僕に声をかけている?

 それとも起きているとバレているのだろうか?



 そんな事を考えていると、唇に何かが触れました。

 チュ、という音がして離れていく何か。

 フランの呼吸が近く、僕の横に手をついたであろうベッドの沈み具合で、じわじわと現状を理解していきました。



 まさかこれって、フランからキスされている!?



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