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十七話 魔王リスドォルは再び降臨する

 


「ユタカ、すまないがレジャンデールをそのまま持っていてくれ。しばらくは歩く事もままならないはずだ」

「はい!」



 ユタカが神の力を返した事で、レジャンデール消滅の危機はなくなったが、今は見た目通りの少年として扱った方がよい程に弱体化している。



「フランセーズとデュラムが危ないとはどういうことだ」



 私はレジャンデールに問い掛けた。



「レジィにもよくわからないけど、天界でレジィの……メルベイユを眺めてたんだ」



 メルベイユはフランセーズとデュラムのいる世界のことだ。

 私の『地球』のようにちゃんと名前がある。



「時間の経過は地球よりメルベイユの方が早いから、フランセーズがどんどん国を発展させていってね、見てて面白いんだよ。でも突然、外からの攻撃があった」

「外から、世界そのものへの攻撃だと?」

「隕石みたいなものが落とされそうだったの。レジィは慌ててそれを破壊するために、力を解放しようとしたら、突然その攻撃は消えた」



 どうやら陽動で、世界を壊すつもりの攻撃ではなかったらしい。

 幻術だった可能性もある。



「ビックリしてたら、解放していた力が抜き取られる感覚があって、背後からそのまま誰かに攻撃されて……」



 レジャンデールが三人の勇者に力を分けていたのは逆に良かったといえる。

 誰にも力を分け与えていない状態で、本当に全て抜き取られたなら、レジャンデールの存在はその場で消えていただろう。



「攻撃の衝撃でそのまま神界から投げ出されて、レジィはどうにか空間をつなげて魔界へ飛び込んだんだ……」

「敵は見たか?」



 レジャンデールは首を横に振った。



「見てはいないけど、声は聞こえた。二人の男だった」



 神界にいるなら敵はほぼ神か魔神で決まりだ。

 レジャンデールを消すというより、力を奪う事を目的としているようだが、一体何のために。


 正直、神同士で争う事はほとんどない。

 私がグリストミルにされたような逆恨みがないとも限らないが、今は品評会最中で皆忙しい。

 レジャンデールは品評会を棄権しているし、なおのこと考えにくかった。


 となると魔神の方が可能性は高くなる。

 しかし争いを純粋に好む魔神が、力を奪うという手段を使うとも考えにくい。

 背後からの攻撃もらしくない。良くも悪くも魔神は小細工を好まない性質なのだ。


 今の少ない情報で考えても仕方ないと判断した私は話を続ける。



「声ということは、言葉を聞き、フランセーズとデュラムが危ないと判断したのだな?」

「うん、レジィが落ちる直前、敵はレジィの力が想定より少ない事に驚いてて、勇者に分けている力も集めようって話していたんだ」



 勇者は基本的には自分の世界にいるので、敵がレジャンデールの力を奪うのであれば、メルベイユに向かうのは確定だろう。



「事情はわかった、一先ず私の家へ行こう。メルベイユの事は私とユタカに任せろ。レジャンデールは安静にしていてくれ」

「うん……ゴメンね、新婚さんのお家にお邪魔しちゃって」

「今は客だらけで一人増えたくらいでは変わらん」



 苦笑した私とユタカはレジャンデールを連れ、自宅へ戻った。



 ◇◇◇



「わぁ、本当にいっぱいいる!」



 多少の元気を取り戻したレジャンデールがそう言った。

 フリアン、ファムエール、イーグルに簡単に事情を説明し、敵意がないかを確認したが、皆問題なく保護に協力してくれるようだ。


 ユタカはファムエールにすぐ声をかけた。



「なあファムエール、ファリーヌ呼んでくれないか?」

「ファリーヌを?」



 怪訝そうなファムエールをよそに、レジャンデールは反応した。



「ファリーヌって、レジィがボコボコにした天使?」

「そうそう、レジィに会いたがってたから、あいつなら世話を焼いてくれるんじゃないかなって」

「わ~会いたい会いた~い!」



 ユタカが頷き、ファムエールが興味深そうに笑ってから、何やら交信を始めた。

 確かに熱狂的な信者と言えそうなファリーヌを守りにつけるのは悪くない案だ。



「私はユタカと共に直ぐメルベイユへ行くつもりだ。レジャンデールの世話をできそうな者はしばらくこの家で滞在してもらいたいのだが」

「神と魔神と天使がいる状況ってめっちゃ面白いじゃん! 俺残る!」



 フリアンは人見知りもせず、何でもこなせるから上手くやれるであろう。

 早速、私は大木を探し、新しい客間にしてフリアンに与えた。

 ご近所さんとは言ったが、それでも森一つ分の距離なのだ。流石に通えというのは難しい。



「俺サマも別にイイぜ」

「イーグル様ある所こそ、私の居場所です」



 料理係がいるのはレジャンデールも喜んでくれるはずだ。

 ファムエールもイーグルの助手として働いてくれるはずだ……恐らく、きっと。

 イーグルの客間を広げれば十分二人で寝泊まりできるだろう。

 同室にすんなというイーグルの文句が聞こえるが知らぬ。

 私はサクサクと拡張作業を終えた。


 その時。ふと上空からバサバサと翼の音が聞こえたと思ったら、結界の外に天使が見えた。

 直ぐにファムエールに迎えを頼み、ファリーヌがやって来た。



「レジャンデール様! 千年以上振りですね、お久し振りでございます」

「ファリーヌだ~今日は目が開いてないんだね」

「うふふ、私の目を見られるのは特別なのですよ」

「なんだか殺気がないとつまんないや」

「それはレジャンデール様も同じですよ。こんなにおいたわしい姿になられて……」



 仲が良さそうで何よりだ。

 私も知らない交友関係なので不思議な気持ちになる。

 ファリーヌにレジャンデールを任せられそうなので、私は指示を出した。



「ファリーヌ、そなたはレジャンデールに魔力を定期的に与えてやってくれ。神の力をある程度戻すまでは、魔力で補強しなければすぐに崩れてしまう」

「魔王に言われなくとも」



 ファリーヌはユタカからレジャンデールを奪い取り、膝に乗せて椅子に座った。



「レジャンデール、ファリーヌと同室でいいか」

「うん、ファリーヌはいい?」

「ええ、ええ、喜んでお世話致しますよ」



 拳を交えた末の友情というやつか。信頼関係があるようにも見える。

 私は安心してメルベイユへ向かうことができそうだ。



「キュイ」

「ん……グリ?」



 グリが足元に纏わり付いている。

 前足で私の足首辺りを挟んで離れないと言わんばかりだ。



「お前もメルベイユへ行きたいのか」

「キュゥイィ」



 グリはずっとレジャンデールに近付こうともしないし、不自然なくらい視線を向けずにいる。

 明確な意思で、グリはここに残りたくないようだ。



「ユタカ、すまないがグリを頼む」

「はい」



 いつの間に取ってきたのか、ユタカは既にリュックサックを担いで出発準備万端だ。

 グリを抱き上げ、結界の外に出た。



「リスドォル、フランセーズとデュラムをよろしくね」

「ああ」



 レジャンデールの呼び掛けに、ヒラヒラと右手を振ってから結界を抜け、ユタカと共に魔界を後にした。



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