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十六話 ユタカは神を拾う

 


「ファムエール、とりあえず私の庭で茶会ということになった」

「有難き幸せに存じます」



 戻って来たリズ様はそう告げ、ファムエールは膝をついて感謝を述べる。


 イーグルもさすがにこれだけの大人数の中で何かされるとは考えていないようで、話し合いには応じる意思があるらしい。

 それにしてもイーグルはチョロ過ぎないか。ファムエールとの行為が実はそんなに悪くなかったのか……いや、その両方かもしれない。



 結界に入ると、大きなテーブルと椅子が人数分配置されていた。

 朝からイーグルが仕込んでいたというタルトとフルーツティーがフリアンとイーグルの手で並べられていく。



「イーグル様!」

「お前は一番端のここだ! 近寄るんじゃねぇ!」



 ファムエールの声に間髪入れずイーグルが吠えた。

 そんな警戒の様子を気にする事なく、はい、と嬉しそうに微笑んで指定の席に着くファムエール。

 それを見届け満足げなイーグルも着席する。

 確かにファムエールの席とイーグルの席は一番遠くはあるけど、そんな些細な距離で抵抗したつもりなのが面白い。



「うま、ヤバ、スゲーなこれ! 初めて食った、うめ、すげぇ!」



 フリアンはすぐにイーグルお手製タルトにかぶり付き、その味に大喜びで完全に語彙力が消え去ってしまう。



「最近菓子を食う機会が増えたな……ふふ、もっと率先して甘味を取り入れておくべきだった」



 リズ様は引きこもってあんまり食にこだわってこなかったのを悔いているレベルで最近食べるのが楽しそうだ。



 俺もフォークとナイフで一口ずつ食べていく。


 今朝食べた果実が、クリームたっぷりのタルトの上に綺麗に並べられている。

 乾燥しないように、シロップが塗られ、キラキラ輝いていて綺麗だ。

 クリームに粗めに砕いた塩気のある木の実が入っていて飽きが来ない。

 果実と木の実を活かすために、クリームは甘さ控え目で、誰もが好みそうな味に仕上げられている。

 タルト生地には果実の皮で爽やかさもプラスされていて、重さを感じないのがありがたい。



「ったく、しゃーねーなぁ!」



 心の中で食レポをしている間に、イーグルとファムエールは話し合いが終わっていた。

 イーグルの許しを得るまでは指一本触れないが、こうして顔を見に来る事は許して欲しい。というファムエールの願いは届いたようだ。

 イーグルは認めたくはないものの、負けた事を気にしていたらしいのだが、ファムエールがずっとそれを否定してヨイショしていた。



「私がイーグル様より強者となるなんて有り得ません。私はイーグル様の慈悲にてお恵みを頂いただけなのです。それこそ強者の余裕、威厳をお持ちだからこそ出来る事。私に到底真似できるものではありません。イーグル様への忠誠心が増えこそすれど、蔑む気持ちは欠片もございません」



 こんな感じでずっとイーグルを持ち上げ続け、イーグルはどんどん気分を良くしていく。



「おう、まあ、俺サマだからこそだよなぁ! 弱いからじゃねーんだよ、よくわかってんじゃねーか! そこんとこ理解してたんなら別に会いに来るくらい好きにすりゃあいい!」



 イーグルは掌で転がされまくっているようだ。

 ファムエールの顔を見るとニコニコ人の良い笑顔を浮かべているが、獲物を捕らえた獣の余裕を奥底に感じる。

 まあ、なんだかんだ相性が良さそうだし、これ以上は俺が心配する事じゃない。



「リスドォルってシンプルな方が好きじゃん」

「その場合の素材の扱いをどうするかを決めかねているのだ」

「内側に掘りを入れて溝に素材を流すんは?」

「素材は融合と接着どちらも試して効果を見たいな」



 タルトを食べ終わったリズ様とフリアンは何やら相談している。恐らく指輪の事だろう。何を言っているのかサッパリわからない。

 俺は指輪の製作には魔力供給するだけで、デザインとか合成にはノータッチなのでリズ様に全てお任せしている。



 俺だけすることがないからグリと遊ぼうかと思った瞬間。



『たすけて……』



 そう、微かに聞こえた。

 他の誰も気付いていないようだ。

 俺だけにしか聞こえない声。



「レジィ」



 レジィの神の力を保有している俺にしか聞こえないという事は、かなり良くない状況な気がした。



「ユタカ、どうした」



 リズ様が俺の様子に気付いた。

 だが、どんどんレジィの声も、気配も小さくなっていく。

 説明より先に体が動いていた。

 リズ様の親友であるレジィを守るの事は、リズ様の心を守る事でもある。



「レジィ!!」



 瞬間、俺は魔界の上空に移動し、レジィを抱き留めていた。

 空はキラキラと金色の光が舞い散っている。

 レジィの神の力が分散して、消えかけていた。



「……ユタカ……」

「レジィ、生きてるか!?」

「ふふ、多分……まだ起きてるよ」



 そんな話をしている間に、ボロボロとレジィの足元から肉体が崩れていく。

 このままではいけない。

 俺はレジィの額に自分の額を付け、まだ崩れていない手を掴んで自分の腹に触れさせた。



「レジィのもん、全部返すからな」



 もう返事のないレジィへ、勇者の力を全て注ぎ込む。

 本来なら、魔王討伐が終われば返すものだ。

 だけどレジィはそのまま残していてくれた。

 俺は沢山この力に救われたんだ。レジィを絶対に助けたい。


 レジィの体に金色の光が纏いつき、少しずつ体の形が再生していく。

 しかし、下半身が出来上がっても、大量のひびが入っていて今にも壊れてしまいそうだ。

 せっかく注いだ力も流れ出ようとしている。

 どうすればいいのか途方に暮れたその時。



「ユタカ! レジャンデール!」



 俺に追い付き、珍しく声を荒げるリズ様が目の前にいた。



「リスドォル……」



 意識が戻り、弱々しく微笑むレジィ。



「馬鹿者、なんでここまで神の力を消費したのだ!?」



 そう言ってリズ様はレジィの手を握り、魔力を注ぎ込む。

 ひびが淡い紫色になった。透明感があって時折発光していてとても綺麗だ。

 接着剤のようにリズ様の魔力がレジィの隙間を埋めたようで、以降、レジィの崩壊も魔力の流出もしなくなった。



「ユタカ……リスドォル、ありがとう」



 少し落ち着いた様子のレジィを見て俺は安心から大きな溜め息が出る。

 しかし、次の言葉で俺は固まってしまった。



「あのね、レジィの世界が……フランセーズとデュラムが危ないの……助けて」



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