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十話  勇者ユタカは世界を守る

 


「ユタカ、私に剣を刺せ」

「え?」



 なんか勝手にレジィがどうにかしてくれるもんかと思ってたから、リズ様の言葉が理解できなかった。

 刺す? リズ様を倒すの?

 自己犠牲で死ぬパターンとか絶対やめて欲しいんですけど。



「馬鹿者、何を呆けている。刺せとは言ったが、私は死なない」

「本当ですか?」



 リズ様は俺の目をしっかり見て説明してくれる。



「その光の剣で、私の魔物の部分を一度剥がすだけだ」



 リズ様が神だった頃、大切に育てていた世界がこの地球だったそうだ。

 自分で見守るだけで品評会に出したりもせず、神々にもあまり存在を知られていなかった。

 だからリズ様の管理が無くなった後も、地球は平和に育っていった。

 正確にはレジィが一応監視はしていたらしいが。


 リズ様が今は神ではなくなったので、この世界を自由に操作できなくなっている。

 だが、光の剣で魔物化の呪いを一時的に解いて、神の力を引き出す事ができるらしい。

 レジィが色々と手を回して頑張っているみたいだな。

 誰にでもできる訳ではなく、地球の勇者である俺が所持者だからこそなので、俺にしかできない重要な役割なのだそうだ。

 本来ならばリズ様を神に戻す事も可能らしいが、それはリズ様自身が拒否したそうだ。



「死ぬ訳じゃないんですね?」

「私を信じろ」

「わかりました」



 俺は頷いた。



「いやぁ、恨みのない相手を刺すって嫌だよね」



 フランセーズが俺の肩を叩く。

 言葉の重みが違うな、先輩。


 あんまり悩んでも仕方ないので、直ぐにリズ様の正面に立つ。



「いきます」

「ああ」



 掌に力が篭る。変な汗も出てくる。

 でも、リズ様が信頼してくれるなら、もう迷わない。

 俺は勢いよくリズ様の脇腹辺りに光の剣を突き立てた。


 想像していたような肉を刺した感覚ではなく、鞘にでも納まるみたいに自然に吸い込まれていく。

 刀身が全てリズ様に沈み切ると、まるでガラスが割れるみたいにリズ様の表面にひびが入り、光り輝いて弾け飛ぶ。



「リズ様!」

「大丈夫だ」



 そう言ったリズ様は、金色の靄を纏っている点以外は普段と全く変わらない様子で安心する。

 別人にでもなったらどうしようかと思った。



「なるほど、確かにこれなら出来そうだ」



 そう言ってリズ様は校舎から飛び降り、校庭へ降り立った。

 そして無数の金色の光を空へ打ち上げる。

 しばらくすると、キラキラと金粉の雨みたいに光の粒が世界に降り注いだ。



「綺麗だ……」



 俺はずっとリズ様を見ていた。

 本当にこの世界が好きなのだとわかる、慈しみに満ちた表情から目が離せないでいた。

 リズ様が神だと誰も疑わないだろう。

 それほどまでにリズ様は神秘的で、この世の何よりも美しかった。



 気がつくと、ボロボロだった建物は全てが元通りになっていた。

 俺達のいる教室もさっきまでは風通しが良すぎてほぼ屋外だったが、今はしっかり室内と言える。弁当まで元通りだ。

 避難していた人達は光に包まれて幸せそうに眠っている。

 山里は普通に起きてるな。


 リズ様は校庭からこちらに戻り、窓から入ってくる。



「フランセーズ、礼を言う。お前が大量の命を守ってくれたお陰で時間を戻したりせずに済んだ。時間の関与は世界にも神にも負担が大きい。本当に助かった」

「やめてくれよ、僕は友人の危機を助けただけだ。神のためなんかじゃない」



 神アレルギーなフランセーズは、相手がリズ様でもちょっと嫌そうな顔をしていて面白い。



「デュラム、広範囲に渡って被害を抑えてくれて感謝している。お前がいなければ修復そのものが不可能だったかもしれない」

「いいってことよ。俺も泣きそうなユタカのためにやっただけだし」



 薄々気付いてたけど、俺ってこっちに戻って来てからの行動を三人に見られてたっぽい。

 別にいいけど。



「ヤマサト、お前はどうする。全てを忘れて日常へ戻るか」

「え、こんな面白い事忘れるなんてありえねー!」



 そう言うと思ったよ。

 俺がお前の立場でも同じことを言う気がする。

 死人も被害も出なかったっていう結果論ではあるけど。

 この結果をつくってくれた勇者と神の存在を忘れたくないと思う。



「それに春野って相談できる相手とかいなくて突っ走りそうだし、吐き出せる相手がいた方がいいっしょ」

「それはマジで助かる。恋愛相談させてくれ」

「勇者……の悩みとかじゃねーんだ」

「そこは大丈夫だと思う。勇者……仲間が二人いるしな」



 山里、勇者って単語で笑いそうになるなよ。かく言う俺もちょっと肩が震えたけど。

 真面目に勇者って口にするの、地球だとやっぱ恥ずかしい。



「って言っても、俺は勇者として全く役に立ってないんだよな」



 いやマジで、俺必要だったかな?

 戦闘力が高いらしいけど、メンタルでガタガタになるし。

 他のメンバーも強いし、特殊能力があるし。

 俺の存在意義ってなんだ。



「ユタカ、お前の仕事はここからだ」

「……え!?」



 何かあるんですか!?



「今回の騒動で、地球には使われていない魔力が大量に存在している事が広まるだろう。その魔力を狙う者が必ず現れる。他の侵入を許さないようにお前が地球を守るのだ」



 勇者っぽくなってきたぞ!



「やります!」

「即答するな、続きを聞け」

「はい」



 その場で正座して黙る。

 なんだろう、俺の生命エネルギーがどうとかで命が危ないとか?

 成功確率が低いけど奇跡が起きる勇者補正がないとか?

 リズ様が望むならなんなりと申し付けて欲しい。

 騎士らしい事もできてないし、どんな事でも成功させてみせます!

 もう死んでもいいとも思っていません!



「ユタカ、お前は地球のために神になれるか?」

「ふぁ?」



 俺は今、世界で一番間抜けな顔になっていると思った。



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