009(研修)
講堂の正面には壇上があり、人が既に話し始めていた。壇上の近くに9人ほどが座っている。知った顔は弥生さん、下平、ドム。
「主役は遅れて登場かい? 君」
「すみません!」
壇上のお偉いさんに見付かってしまった。
「早く座りなさい」
弥生さんが俺に気付いたようだ。手招きをする。
俺は弥生さんの隣にすわり、ひそひそ話をする。
「圭市君、何やってるのよ」
「予定通りに来たつもりなんだけどな」
お偉いさんは壇上から俺に話し掛ける。
「遅れてきた、君。松本圭市君だね?」
「あっ、はい!」
「シティのゲームが得意なんだってね」
「ゲームだけじゃないですよ。リアルでは柔道初段、サッカー部でセンターフォワード、モータースポーツ、セルフカットと、ストロングポイントはたくさんありますよ」
「ほ〜、ただ者じゃないな。私は工場長の今井だ、宜しくね」
「はい!」
――流石は財閥企業の現場を統括する人の朝礼。校長と違い、無駄がなく簡素だ。すぐに終わった。
次に俺達10人の新入社員は会社見学の案内に移る。案内人はさっき声を掛けてきた、小宮山ってオッサンだ。
食堂から廊下を渡った所に事務室、シティにログインできるオフィス。広さはテニスコート5面分はあるな。
小宮山さんは色々説明しながら、歩いて回る。俺達はそれをウェアラブル端末にメモしていく。
次に屋外に出て、緩やかな坂道を上り、A棟に入る。プラントはA棟からD棟まであり1つの棟がサッカーコート半分ほどの広さだ。A棟B棟は自動車、ロボット部品を造る。C棟はA棟B棟にパーツ供給をする。D棟は検査室と倉庫、緊急時に遠隔操作するロボットのハンガー。ロボットはシティから操れる。
一通り見終わって講堂に戻ってきた。俺はどこの部署へ配属されるんだろう?
「それでは、皆さん、それぞれの部署へ行って下さい」
俺以外の新入社員は講堂から出ていく。俺はどうしたらいいんだ!? ドギマギするよ〜。我慢出来ん。
「あの〜、小宮山さん、俺はどうしたら」
「ああ、松本君はB棟の多軸NC旋盤だよ。着いてきて」
「はい」
良かった〜、ちゃんと決まってた。
俺は小宮山さんに連れられて、B棟に入る。なんか緊張してきた。
多軸NC旋盤ラインは、さっきの会社案内で見た、駐車場側の端にあり、7台の機械が2列に並んでる。