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最終話 重なる想い     (奈恵+ちょこっと康平)



「…っ痛い!痛いよ康平。」

「いいから、こっち来い!」


 なんだか怒っているらしい康平は、帰ってきた私の腕をつかむと、そのまま引っ張って階段を上がって行く。どうしたんだろ、康平。何があったの?


 康平は、温和な性格だから、けんかなんてほとんどしたことなかった。幼い頃、おもちゃの取り合いとかはあったけど。大きくなってからは、私が怒ることがたまにあっても、康平は優しく受け止め「ごめん。」と言ってくれていた。悪いのが私であっても。


 

 私の部屋に入ると、バタンと乱暴にドアを閉め、康平はまっすぐ私を見つめた。怒りに揺れる、きれいな瞳。初めて触れる、康平の激しい怒り。怖い。私は一体、何をしてしまったんだろう?


「奈恵。さっき、俺に話があるって言ってただろ。何?」


 変わらず、低い声で私に問う康平。どうしよう、こんな康平に「本命チョコを受け取って」なんて言えないよ…


「………。」

「チョコを渡したかったんだろ?」


 俯き、黙り込んでいる私の代わりに、康平が言う。え?知ってたの?


「…そ、そうだけど…」


 小さな声で返事をすると、やっぱりな…と呟くのが聞こえた。


「奈恵は、俺の気持ち考えたことあんの?」

「え?」


 …康平の気持ち?………本命チョコを受け取る側の気持ち?考えたことなかった………。

私は、自分の気持ちを伝えることしか考えてなかった…。自分だったらどうだろう(ありえないけど)?真剣な想いで告白をしてくれた子に「ごめん」と告げる…それって、けっこう嫌なものじゃないだろうか?

 まして、康平は幼馴染としての私を大切にしてくれている。大切な人を傷つけるって、かなり辛いことだと思う。


「こ、康平、ごめん。私、自分のことしか考えてなかった。康平に、好きって伝えることしか…」

「そうだよ、木下に……って、俺!?」


 あ、言っちゃった。ごめん、康平。…って、ん?何か、変な名前混ざってない?


「…今、木下、とか…言わなかった?」

 

 聞き間違い?


「え?? だ・だ・だ・だって! 奈恵、き、木下に、チョ・チョ・チョ…の…ピンクのくまさん!」


 ピンクのくまさん?なんのこと?? …って言うか……


「康平、まさか…私が木下にチョコあげた…とか思ってない?」


 恐ろしいことだ!なんでわたしがあの“おちゃらけ大王”(←木下かわいそう…)にチョコをやらにゃならんのだ!!


「…だって、俺、見たんだ…階段のとこで。奈恵が木下にチョコ渡してるとこ…」

「まっっっっっっったく心当たりが………あった!」

「ないんじゃないのかよ!」


 あ~、あったね。そんな感じのことが。正確には“渡した”のではなく“拾ってもらった”んだけど。

あった、あった と1人で納得していると「ほら、やっぱり」と、いじけて呟く康平が目に入った。おっといけない。断固、訂正しなければ。


「康平、違うよ。あれは、走ってたら木下とぶつかっちゃって。で、落としたチョコを木下が拾ってくれてたの。」


 真相を教えると、ガバっ!と音がする勢いで康平が顔をあげた。う!なんか、キラキラオーラが!?

まぶしっ!!


「じゃ、じゃあ、奈恵のクマちゃんはまだいるのか??」


 さっきから、クマちゃんクマちゃんってなんなの?チョコの話じゃないの?


「私のチョコ?それならカバンに…。だって、康平に告白するためのチョコだもん。」


 いまさら、隠し立てすることは何もない。康平には迷惑かもしれないけど、やっぱりきちんと伝えよう。




  ぱぁぁぁぁ~~~~!!!!




 何? 何の音??

 あ゛! バラーーーーー!! また咲いてるーーーーーーー!!!




「奈恵!!」


 急に目の前が真っ暗になった。…くっ苦しい! 何が起こったの? あれ?私、康平に抱きしめられてる!?


「奈恵、奈恵。好きだ。俺も奈恵が大好きだ!」


 頭の上から、囁くような康平の切ない声が振ってくる。


「俺が欲しいのは奈恵だけだ。奈恵の気持ちだけが欲しいんだ。」


 なおも続ける康平の言っている内容がすぐには理解できなくて。ぎゅうぎゅうに締め付けられて、ますます思考が鈍くなる。


 康平が?私を?好きって……言ってる?

 本当?私のチョコを待っていてくれたの? あれ?でも、康平たしか……


「おせんべい!!!」

「は?」


 そうだよ!おせんべい!! 私のチョコが欲しかったなら、なんであのかわい子ちゃん(名前は知らない)のおせんべい受け取ったの? ハッ!まさか康平…「おせんべいはノーカウントだ」なんて思ってんじゃないでしょうね!?


 突然、大きな声で言った私に驚いて、康平が少し腕を緩めてくれた。ぜー、はー、苦しかった。

この隙に、自分の腕をまっすぐ伸ばして康平との隙間を広げる。そして、いぶかしげな顔をする康平に、気になっていることを問いただした。


「康平、私も見たんだよ。康平が、かわい子ちゃんからのおせんべい受け取ってるとこ。好きな子じゃないなら、なんで、あの子のチョ…、おせんべい受け取ったの?」


「かわい子ちゃん?誰のこ………ああ!あれか!…なんだか嶋さん!!」


(任務終了後、彼女の名前は速やかに消去された模様)


 ナンダカシマさんって…変わった名前。どんな字だ?長いし。 フルネーム?どこが区切り?新しい疑問が続出だ。


「あれは違うよ。彼女に岡田へのチョ…、せんべいを渡してくれって頼まれたんだよ。」

「岡田君!?」


 「そう」と答えて、康平はまた私を抱き寄せた。今度は優しく。


「じゃ、じゃあ、康平は、ほんとに私のこと……?」

「うん。大好き。昔から。」


 「私も!」と答えようとしたとき、涙が一筋、頬を伝った。


 ああ…涙が温かい…  悲しい涙、悔しい涙、怒った涙。今まで、色んなときに涙を流してきたけれど、嬉しくて流す涙はこんなに温かいんだね……。 康平。私、初めて知ったよ。


 ふと、涙とは違う温もりを頬に感じた。康平の手だ。 康平は親指で私の涙をそっと拭う。


 …いつの間に、康平はこんなに大きくなったのだろう。手をつないで歩いたのは、もう遠い昔。康平の手は、節くれだって、もうすっかり男の人の手になっていた…。


「康平…、私も…康平が好き。…ずっと昔から…。」


 顔を上げて康平の目を見つめ、たどたどしく告げる。やっと、やっと自分の想いを口にすることができた。

 

 瞬間、康平が息を飲む音がしたかと思うと、頬にあった手をずらして後頭部にまわされた。


 一瞬、見つめあったあと、康平と私の唇は自然と引き寄せられ、……そして、重なった……。







 触れ合ったのは一瞬で、すぐに我に返った私たちは、なんとも言えない照れくささに見舞われた。


「あ!チョコ! 康平、結局まだチョコ渡してなかったね。」


 いつまでも、そうしているのが恥ずかしすぎて、康平からパッと離れた私は、慌てて自分のカバンを拾う。そして、袋を取り出して、もう1つの謎がとけた。ピンクのクマちゃん!これか!!


 康平ともう1度向かい合って、両手で持った袋を康平に差し出した。


「康平、このチョコ。本命だけど受け取ってくれる?」



  じーーーーーーん………。



 何?この音? 空耳? なんか、康平から聞こえたような……?


 康平…?どうかした…… え!? 泣いてる!?



 差し出した袋を私の両手ごと、大きい手で包み込み、康平は涙を流していた。…いや、これは、号泣と呼ぶに値するだろう。


「だ、大丈夫?こうへ……」


「じあわぜにずるがら!!!!」


 へ? 幸せに?? プロポーズ???


「絶対、絶対、じあわぜにずるがら~!!!」


 そう言って、康平はおいおいと泣いた。康平の涙を見るなんて、いつ以来だろ?…しかし、滝のように流れてくるなぁ… あ、鼻水発見。ふぅ~ん、イケメンでも、鼻水流すんだぁ…


 あまりの康平の号泣っぷりに若干(ウソです。かなり)引いた私は、すでに冷静だった。


「これからも、よろしくね。康平。」

 

 と、ニッコリ笑って、康平にティッシュを箱ごと差し出した。何故か感激したらしい康平は「あじがど~(訳:ありがとう)」と更に号泣し、私の部屋のティッシュを空にしたのだった。







~後日談:奈恵~


 次の日、私と美樹ちゃんは、また“例の階段”にいた。一応、昨日のうちにメールで「うまくいった」旨は伝えたけど、長くなりそうなので「詳しくは、明日」ということにしてもらったのだ。


「へぇ~、やっぱりね。」


 事の顛末を聞き終えた美樹ちゃんは、感慨深げに呟いた。


「へ?美樹ちゃん、やっぱりって?」

「うん、私と奈恵は1年生のときからの付き合いでしょ?」


 3年間、一緒にいる2人を見続けてたらいやでも分かった、と美樹ちゃんは微笑んだ。


「じゃなきゃ、あそこまで奈恵の背中を押さないわよ。」


 そうなんだ!すごい、美樹ちゃん、名仲人(めいなこうど)!!


「これで、奈恵と沢村の足も地に着いたでしょ?最近、色ボケして勉強をおろそかにした分、頑張って取り返して、同じ高校行くわよ!!」


 そう、康平と並ぶほど賢い美樹ちゃんは、志望校も私たちと一緒だ。


「うん!頑張るから!!」


 わぁ~、康平と美樹ちゃんがいる高校生活なんて、楽しいだろうな~。


 春はもう、すぐそこだ……。






~後日談:康平~


「いまさら、それはないだろー!」


 朝から木下がうるさい。せっかくの幸せ気分が台無しだ。




 昨日、夢にまで見た『奈恵の本命チョコ』を手に入れた俺は、幸せすぎて眠れなかった。


 夢じゃないよな? ほんとに、俺の腕の中に、奈恵がいたよな?? ほんとに、奈恵とファーストキ…ああ、もーーーー! 幸せすぎるーーーーーー!!


 何度もこれを繰り返し、ベッドの上でドスンドスン転がっていた俺は、終いに「うるさい!さっさと寝なさい!!」と母さんに怒鳴られた。


 朝になって、本格的に心配になった俺は、一緒に学校へ行こう、と奈恵を誘いに行った。


「おはよ。康平。」


 笑顔で出てきた奈恵を見て、少しホッとする。そんな俺の耳元で奈恵が「なんか、照れくさいね。」とおばさんに聞こえないように囁いた。よし、現実確定!! おめでとう、俺!!!


 学校へ向かう途中、俺はさらに確信を得たくて、思い切って、隣を歩く奈恵の手をつないでみた。

一瞬、かわいい目を見開いて、俺のほうを見たけど、顔を赤くしながら「へへ…あったかいね。」と微笑んでくれた。本当に産まれてきて良かった。 俺…幸せだ…。


 学校に近づくにつれ、同じ学校の生徒が多くなる。俺たちのつながれた手を見て「ねっ、あれって。」

「うそ!マジ!?」という声が耳に入る。すると、だんだん奈恵の笑顔が消え、俯きかげんになってきた。


「ね……、康平。きっと、私たち、似合ってないよね……」


 小さな声で呟く奈恵。 そんなことあるわけないだろう! 俺の隣に、奈恵以外の誰が似合うって言うんだ?


「俺は、奈恵以外と並んで歩く気はないぞ。」


 きっぱり言い切ってやった。 また、思いのほか声がでかかったらしく、周りにも聞こえていたようだ。ちょうどいい。この際、周知徹底しておこう。


「俺が好きなのは、奈恵だけだ!」


 よし!今度こそカッコいいだろ!! 自信満々に奈恵を見ると、耳まで真っ赤にして固まっていた。


「康平のバカ…」


 呟いた奈恵の顔は幸せそうだった。




 そして、つないだ手をそのままに、教室へ入っていくと、いち早く木下がその変化に気がついた。


「おっはよ………って、あれ?お前ら、何?何?その手ーーー!」


 「付き合うことになった」と答えた俺に、木下が浴びせてきたのが、先ほどの“いまさら”発言だ。


「いまさらってなんだよ?」


 意味が分からず、木下に尋ねる。奈恵は、照れて新井のところへ行ってしまった。


「いや、お前ら、幼馴染だろ? 仲は良いみたいだけど、今まで全然くっつかなかったから、俺らは、お前らにその気はないって踏んでたんだよ。 なんだよ、それなら“西崎枠”作っときゃ良かったよ~。」


 …やっぱり、賭けてやがったな…木下…


「俺、西崎枠に賭けたぞ。」


 そこへ、岡田が入ってきた。


「お前らが作った枠に、西崎の名前がなかったからさ。俺、勝手に足しといたんだけど。」


 木下が、机の中から表らしきものを取り出す。そこには、木下の汚い字で、いろんな女子名前が書かれていた。隣には、賭けているらしい複数名の男子の名がある。その、一番下に1つだけきれいな字で



  西崎 奈恵: 岡田



 と書かれていた。それを見て、木下は「岡田の1人勝ちだーーーー!?」と叫んで、他の奴らのところへ行った。


「…何賭けてたんだよ…」

「安心しろよ。お金じゃないから。掃除当番代わるだけ。」


 それぐらいで良かった。ホッとしたら、昨日のおせんべいのことを思い出した。


「岡田、お前、なんとか嶋さんに連絡したか?」


 結果を聞きだそうとは思わないけど、連絡を入れたかだけは確認しておこう。落ち着かない。


「…川嶋さんな。電話したよ。すげぇ感じのいい子だった。受験が終わったら遊びに行く約束したよ。ホワイトデーのお返し、あげたいしな。」


 いいこと聞いた。そうか、来月はホワイトデーだ! よし、俺らもデートするぞ。 祝・初デート!

 さすがに今は受験に集中しなくちゃな。終わったらバッチリな計画をたててやる!!




 新しい目標を見つけた俺は、ものすごい集中モードを発揮し、受験直前、さらに成績を上げることができた。



 奈恵とのラブラブ高校生活も、もう、すぐそこだ……。








 < 終わり >


 

 



 

  


 




 

 





 








いかがでしたでしょう?皆様にご納得いただける結末だったでしょうか?

初めて小説を書いた今の私には、これが精一杯です。ご期待に添えなかった方がいらっしゃいましたら申し訳ございません。


急に、書いてみたい欲求にかられたのが先週の水曜日。そこから、主人公とともに右往左往しながら書き進めてまいりました。とても良い経験になりました。


連載中、たくさんの方にいただけた、アクセス・お気に入り登録・感想・評価は、本当に糧となりました。心より御礼と感謝を申し上げます。


もし、また書きたい欲求が沸いてきたら、フラっと現れるかもしれません。

そのときは、ぜひ、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。



      2012.2.14 山千

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