第1話 水滴の向こう側
初めてこの物語を始めます!
初めての文章なのなるので暖かく見守ってください。
# 第1話 水滴の向こう側
仕事が終わったのは、いつもより少し遅い時間だった。
「あ〜疲れた……」
小さく呟きながら、森川 紬は駅から少し離れたスーパーへ向かった。
家の近くにもスーパーはあるけれど、少し歩けば安い店がある。
今は夏休みの時期だ、いつもより人が多い……ファミリーがトランクケースを引いて歩いている
私は旅行なんて、ほとんどしたことがない。
遠くへ行くお金があるなら、その分を生活に回したい
旅行が嫌いな訳では無い、ただもう36歳恋愛のれの字もしたことが無い、この歳になるとお金の大事さはよく分かってる方だ
それでも、知らない道を歩くのは好きだ
初めて見る道があると、つい、
「この先、何があるんだろう」
と気になってしまう
そんな小さな好奇心だけは、昔から変わらなかった。
そのせいでよく迷子になった。
今は迷子にならないように歩いた道は忘れないようになった
スーパーに着いた自動ドアが開き中から冷気が肌に心地いい
スーパーの中をゆっくり歩きながら、値札を確認……
安いもの安い……
にんじんさんいっぽん65円
じゃがいもさん5こ200円
キャベツ半身90円
ネギ50円
安売りのクッキーを一袋80円
ソーダ飴1袋100円
最後に塩を一袋200円
合計785円!
「……こんなもんかな」
一人暮らしの買い物なんて、だいたいいつもこんなものだ肉が無いのはなまぁ……財布が寂しいからだ、聞かないで
会計を済ませ、買い物袋を片手に家へ帰る。
いつもの帰りの歩道橋
いつものボロボロアパート2階に上がる階段はサビだらけ
いつもの部屋1k畳の部屋
キィ〜と音をたてる玄関を開ける
「ただいま」
紬の声が部屋に響く
もちろん、返事はないでも子供の頃から扉を開けると言ってしまう癖
一人暮らしなのだから、返事がないのは当たり前だけど
靴を脱ぎ、買い物袋と仕事バッグを台所へ置く
買ったものを鼻歌を歌いながら一つずつしまって
最後に残ったのは、ネギだった。
少し眺める。ネギは好きだ、
「今日も安かったな」
台所の隅には、小さな容器が置いてある
数日前に買ったネギの根元が、水につけられて
小さな緑の葉が、少しだけ伸びている。
「お、また伸びてる」ふんふんと鼻歌が出るくらい嬉しくなる
スーパーで買ったネギの根っこを捨てるのがもったいなくて、試しに育て始めた。
たいした量ではないけれど
それでも薬味くらいには使える。
何より、少しずつ伸びていくのを見るのが、なんとなく好きなのだ
今日買ったネギも、根元を残しておこう。
そう思って袋から取り出した。
その時だった。
ぽたっ。
「……?」
水滴が一つ、床に落ちた。
シンクを見る
けれど、蛇口は閉まっている。
顔をあげる
天井から水が漏れているわけでもない。
不思議に思って頭を捻る。
何もない。
もう一度。
ぽたっ。
今度の水滴は、床に落ちなかった。
空中で止まっていた。
「え……?」
透明な雫。
その向こうに、何かが見える。
見えるはずないのに……おかしいのに
見慣れた部屋。
どうして
机。
見えるの?
カーテン。
何が
壁の時計。
起きてる?
さっきまで自分がいた場所。
「……なに、これ」
思わず手を伸ばした。
だめなのに
指先が水滴に触れる。
分かってたのに
その瞬間、視界が白く弾けた。
*
冷たい。
頬に何かが落ちた。
ぽたっ。
ゆっくり目を開ける。
空が見えた。
青い青い空
けれど、いつも見ていた空とは少し違う
あれ?今夕方のはず……
「……?」
身体を起こすが
背中に触れているのは、部屋の床じゃない
柔らかな草だ
膝くらいまである少し背の高い草が、風に揺れている
その間に、小さな青い花がいくつも咲いていた。
紬はゆっくり立ち上がった。
周囲には森。
大きな木々が、草原をぐるりと囲んでいる。
キョョュヨー
鳥のような声が聞こえた。
けれど、その鳴き声を紬は知らない
何も分からない
「……どこ、ここ」
返事はない
ぽたっ
空を見上げる
ぽたっ
雨は降っていない
ぽたっ
なのに、また水滴が落ちてきた
ぽたっ。
水滴が目の前を通り過ぎる
その向こうに、一瞬だけ景色が見えた
暑く熱された道路。
色とりどりの車。
様々な形の建物。
街のあちらこちらに張り巡らさた電線。
いつも見ていた夕暮れの街。
「……!」
思わず手を伸ばす
けれど、
ぽたっ。
水滴が青い花の上に落ち
景色は消えた。
残ったのは、静かな森だけ
「……今の……」
夢なのかもしれない
「……ッ」
そう思って、頬をつねる
「痛い」
痛みで、夢でないことを自覚する
しばらくその場に立ち尽くした、途方に暮れるってこう言う事か……このままじゃいけない
紬は自分の身体を確認した
怪我なし!
服も、仕事帰りのままだ。
靴も履いている。
そして――
「あ……」
右手には、まだネギを握っていた。
「……ネギ」
なぜか少し安心した。
足元には買い物袋と仕事のバッグも落ちている。
拾い上げて中を確認する。
買い物袋
にんじん
じゃがいも
キャベツ
クッキー
飴
塩
仕事バッグ
エプロン
白いポロシャツと黒のパンツ
夏だからと入れてた汗に濡れた時用の下着
タオル
500mlペットボトルの水
そして……
謎の白い本
「……こんな本知らない……一応、食べ物はあるし」
スマートフォンもある
圏外。ですよねはい
残りの充電は少ない。
時計は動いている。午後18時35分でもここは多分お昼くらい?
財布もある。
使えん……
家の鍵もある。
開けれない
どれも今の状況では役に立ちそうにない。
「スマホは……使わないほうがいいかな」
電源を落とす
しばらく考える。
サバイバルで常識なのって確か……
まず必要なのは水。
安全な寝床
火
食べ物
分からないことばかりだけれど、考えても仕方がない。
「……なるようにしかならん」
分かることから探すしかない。
「……水、探そう」
彼女は森を見た。
すると、かすかに音が聞こえる。
さらさら、と流れるような音。
「……水?」
耳を澄ます。
もう一度。
確かに聞こえる。
彼女は買い物袋を仕事バッグに入れて持ち直し、森へ入った。
できるだけ音を立てないように。
枝を踏まない。
草を大きく揺らさない。
何がいるのか分からない場所で、自分から存在を知らせる必要はない。
少し進んでは立ち止まり、耳を澄ます。
鳥の声。
葉の擦れる音。
遠くで何かが鳴く声。
人の声はない。
足跡のようなものも、今のところ見当たらない。
「……大丈夫かな」
慎重に進んでいく。
やがて木々の向こうに、小さな沢が見えた。
水は驚くほど透明だった。
けれど、すぐには飲まない。
しゃがんで水面を見る。
変な匂いはない。
水の周りには、小さな虫が飛んでいる。
動物が水を飲みに来ているような跡もある。
「……煮沸したほうがいいよね」
持ってきた水のペットボトルを見る。
残りは少ない。
「これは取っておこう」
沢の流れに沿って歩く。
少しでも安全な場所を探すためだった。
しばらく進んだところで、木々の隙間に何かが見えた。
石だった。
ただの石ではない。
人の手で積まれたような石。
近づいてみる。
そこには、石垣がある
もしかしたら人がいるかもと石垣に沿って森の中に入って行く、
しばらく歩くと前方に石壁が見えてきた足取りが早くなるが近づいてわかる
廃墟だ……
屋根はない。
扉もない。
窓らしきものも、崩れてしまっている。
壁には苔がびっしりと生え、蔦が絡んでいた。
床には落ち葉が何年分も積もっている。
長い間、誰も来ていない。
見ただけで、それが分かった。
「……誰か、住んでたんだ」
石壁にそっと手を触れる。
冷たい。
けれど、壁そのものは意外としっかりしている。
「屋根があれば……」
そこまで言って、彼女は考えるのをやめた
今すぐ屋根を作れるわけではない
まずは
周囲を確認する
沢は近いし
食べ物もまだあるからいいとして、
この場所が安全かどうかは、まだ分からない
それでも、何もない森の中よりはずっといいような気がする
「……今は、この辺を見てみよう何か見つかるかも……」
石壁の周囲を少し歩き回って確認する
近くに大きな動物の足跡はない、くまさんいたらヤバいからよく見る
沢から石垣を辿って家だった石壁までは少し離れている
雨が降ったら水が溜まりそうな場所でもないけど
今の現状ここがベストなのかもと
今の自分に言い聞かせるには十分だった
日が傾き始めた頃、彼女は石壁の内側に戻って
枯れ葉を集める
火がつけれればいいけど
今無理に火を起こすより、体力を温存にしよう
夕ご飯を食べよう……
持ってきたクッキーを一枚と
飴を一つ、口に入れる
「甘〜!美味し……」
多少お腹が落ち着いて
暗くなる前に、石壁の内側で休めそうな場所を作る
できるだけ地面が平らな場所を選んで落ち葉を大量に置く
某アニメみたいに藁のベッドではないけど直接石よりはマシだ
やがて、森が暗くなっていく
知らない夜だ
遠くから、聞いたことのない声がする
紬は少しだけ身を固くする
けれど、今のところこちらへ近づいてくる気配はない。
石壁に背を預け
空を見上げる
星が多かった
こんなにたくさんの星を見たのは、いつ以来だろう。
「……帰れるのかな」
呟いてみる。
返事はない。
しばらく黙って空を見る。
不安も
怖くないわけでもない
けれど、考えても今は何も分からない。
「……明日、もう少し調べよう」
そう言って、買い物袋を引き寄せた。
中身を確認する。
野菜。
クッキー。
飴。
塩。
そして、ネギ。
ふと、昼間拾ったものを思い出した。
「そういえば……」
買い物袋の底から、一冊の本を取り出す。
白い表紙。
何の名前も書かれていない。
拾ったのは多分ここに来た時
草原で目覚めた時だ
けれど、自分の持ち物ではない。
どうしてここにあるのかも分からない。
表紙を開く。
白紙。
次のページも白紙。
さらにめくる。
何もない。
「……日記くらい書けたらいいのに」
今日のことを忘れたくなかった。
元の世界に戻れた時、今日一日のことをちゃんと覚えていたかった。
けれど、ペンがない。
試しに指先で文字を書くようになぞってみる。
何も起こらない。
「やっぱり無理か」
本を閉じる。
その時、少しお腹が空いていることに気づいた。
「……クッキー、もう一枚食べよう」
袋を開ける。
ぱき。
クッキーを一枚取り出す。
口に入れる。
さくり。
「……おいしい」
知らない森で食べる、いつものクッキー
それだけなのに、少しだけ安心した
風が頬を撫でるふと、本が目に入る
なんとなく開いてみる
白いページだけ
何もない
クッキーを持ったまま、ページを眺める
すると――
白かったはずのページに、ゆっくりと文字が浮かんだ
紬は動きを止めた
「……え?」
文字は消えない
そこには、短くこう書かれていた
【名称】安売クッキー
彼女は手に持っているクッキーを見る
本を見る
もう一度、クッキーを見る
「…………」
じっと本を見て
そして、もう一口
さくり。
ページに新しい文字が浮かんだ。
【食用】可
彼女は眉を寄せる。
「……何これ」
少しだけ笑った。
もう一口食べる
今度は何も起きない
しばらく待つ
すると、ページの下に小さな文字が増えた
【味覚情報を取得しました】
「……味まで?」
思わずクッキーを見つめる
それから本を見る
しばらく考えたあと、彼女は小さく息を吐いた
「……変な本」
でも、何故か嫌いではなかった
本を閉じる
そして、石壁に背を預け
知らない空
知らない森
知らない世界
帰れるかどうかも分からない
それでも、今は生きている
水を見つけた
一応眠れる場所も見つけた
食べ物も、少し残っている
そして握りしめてたネギもある
「……まあ、なんとかなるか」
紬はそう呟いた
森の奥で、何かが鳴いた
風が石壁を抜けていく
青い花の草原では、もう水滴は落ちていなかった
紬は、何も分からない新しい世界で、
不思議な本と共に、一歩ずつ物語を紡いでゆく
暫くは更新はゆっくりですが紬の旅を楽しんでください




