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第二話 デスメタルエア

木製格子の付いた部屋で朝をむかえる。

半袖からでている肘や手首が冷えて痛い。

検非違使が麦を炊いただけの朝飯を渡してくれた。

食べる気にはなれなかった。

10代の頃なら何でも口に入れる気になったのに。


ざわついていた検非違使達が整列する。

静まり返った廊下の奥から、人が現れた。

明らかに格の違う男が現れた。


年の頃は二十歳ほど、落ち着いた細身の男だ。

「昨日、変わった男が連れてこられたと聞きました。

あなたですか?」

と俺を見て言う。

「私ははるあきら。じょうです。」

「じょう……?」

聞き慣れない言葉に聞き返す。

「検非違使の長ですよ。」

あきれたように短く答える。

検非違使達の態度に合点がゆく。


「貴方のことを教えてください」

このタイプは苦手だ。

いや、若いイケメンは全員苦手なのだが。

しかし、苦手意識に偏らぬ方法をもう知っている。

年の功があるのだ、若者(イケメン)よ。

―――ビジネスモードだ、乗り切ってみせる

「私、株式会社エンジョイハレハレサービスのネットワーク事業を担当しております。

サブリーダー山田よしおと申します!」

―――全て話してしまった。

……隠すことでも、ないのだが。


静かにはるあきらが続ける。

ほんの少し眉をひそめる。

「聞いていた話と違いますね。

 それで、何を目的にしていたのです?」

「現在プロジェクトへのアサイン待ち状態です!」

―――またしても言わされてしまった。

プログラマにとってアサイン待ちは少々心苦しいものなのに。


「昨日は何をしていたのですか?」

「ライブです!」

はるあきらを名乗る男は口元に手を当てて考え込む

「それは、なんですか?

 説明だけでは判断できませんので、やって見せてください」

「こ、ここ、ここでですか?!」

「はい。ここで。」

ドラムどころか。

ドラムスティックすらない。

「不本意ですが………できないなら反意有りとみなします」

「お任せください!」

立場のあるイケメンの怖さは、若い時とは比にならない。


室内にあった小さな椅子に座る。

フレディ………俺を、俺を見ててくれ。

フレディは今はまだ生まれてないだろうが、今は見ててくれ。

そう思い天を見上げる。

深呼吸をしながら、手首のストレッチを行う。

ドラムセットをイメージする。

心を静かにさせ、自分の世界の頂点を引き出す。


「デス!!!!」

地に響くデスボイスで叫ぶ

エアドラムを叩きながら声を張り上げる

声は年々か細くなっている。

少し低くなったのはありがたいが。

「デス!!!メタル!!!!ヲヲヲォォォオオ!!!!!」

―――見てるかフレディ。

―――俺は今ディオ・ロニー・ジェイムスに手を届かせようとしている。

「ディオーーーー!!!ッア"ーファイヤー!!!!」

エアドラムの無音が続く。


スネアを叩く素振りの度に上腕の肉が引き上げられる。

足の動きに合わせ腹の肉が、ぶるんぶるん、と震える。

ヘドバンの度に、毛根を思う。

ヘルニアのことも。

首の動きに顔の肉がついていかない。

自己紹介に嘘はない。


しかし、今だけ。

―――俺は、デスメタラーだった。

……手足をばたつかせて腹肉を躍らせているだけの、

デスメタラーだった。


麦飯を食べなかったことを後悔しながら、一通りのエア演奏を終える。

はるあきらが口を開く。

「………なるほど」


何に納得したのか全くわからない。

俺を上から下まで見直して続ける。

汗が額を伝う。

昔は髪を伝わったのに。

激しい動きに合わせ腹の肉にそってシャツが捲れてる。

そっと裾を引っ張る。

背中側がしっとりと汗ばんで引ききれない。


「君を私の客人として迎えます。

まずは荷物を取り、南の門に来て下さい。」

と言った。


「よろしいのですか?」

検非違使の一人がはるあきらに言う。

「よいも何も。お前はあれをどう見てますか?」

「きのふれた者かと……」

「そう見えましたか」

はるか前を歩くよしおを指さす。

「………よく見てください、あの左右対称の服。

 あんなに精巧なものは見たことがありません。」

検非違使はつぶさに見直す。

「縫い目も、人の仕業とは思えぬ」

別の者が口を開く。

「確かに……しかし、それが何か」

「持ち物すべて、この国や唐のどの高位の者よりも精巧です。

 しかも隠しもしない」

検非違使に向き直し耳元で囁く。

「あのような物を作る世界の者が、我が国に攻めてきたら。

 ……我らは敗北を免れません。」

場に緊張がはしる。

「そしてあの儀式。

めたると言いましたか。

あの気配……あれはもののけを呼ぶ類かもしれません。」

よしおの後姿を見つめながら続ける。

「だからこそ、私のところで預かりましょう。

私のところならば、反意ももののけも対処できます。」

こわばりのとれない部下たちに向けて続ける。

「ああ、国賓級の扱いで、申請してください。

 高貴な方とお見受けしていますから」

検非違使が恭しく頭を下げる。

「……仰せのままに、晴明様……」

毎週木曜・土曜 21時頃更新

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