1グラムの奇跡
カンカンカンカン
カンカンカンカン
踏み切りの音が聴こえる。
遠目に赤い電車が見えて来た。
プシュー
電車のドアが開く。
「ユウちゃん」
「ミサキ」
「私、泣かないよ。だって、約束したから」
「うん、約束な」
「ユウちゃん」
プルルルルルル
電車の発車を告げるベルが鳴った。
天井が見える。そうか。
私は夢を見ていたんだ。
幼き日の思い出の夢。過去の記憶。
「ユウちゃん…」
私の口から名前が出る。
あれから、一体何年経ったのだろう?
彼には、あの日以来一度も会っていない。
幼き頃の思い出。
「ミサキ、早く起きなさい!」
1階のキッチンから母の私を呼ぶ声が聞こえる。
私は急いで制服に着替え、1階へと降りて行く。
「お母さん、おはよう」
「遅刻しちゃうわよ。新学期から遅刻なんてダメだからね」
「わかってます」
高校3年生の冬。
そして、この町とのお別れの冬。
私は、春から東京の大学に通うことになっている。
「ミサキ、おはよう」
「おはよう、トモミ」
教室に入ると、親友のトモミが話しかけてきた。
彼女は地元の大学へ進学する。私たちは離れ離れになる。
「ミサキ、また、ラブレターをもらったんだって?」
「うん」
「忘れられないの?」
「そうじゃないけどね。心が動かないから」
「また、振ってしまうんだ?」
「うん、だってね」
トモミは大きな溜息を吐く。
「これで何人目かな?」
「う~ん、わかんない」
「私だったら、オッケーしちゃうのになぁ」
周りの風景が歪んでいく。
天井が見える。
私は夢を見ていた。
今日は、最終面接の日。面接の時間は、午前10時30分。
時計を見る。その針は、午前8時40分を指していた。
急がなくては。
朝食を済ませ、スーツに着替える。
大学からの紹介だった。
今は大学3年生。面接は本社ビル。
最近、急成長した出版社だった。出版不況の今では珍しい。
社長が小説家でもあり、私と同い年なのには驚いたけど。
社長室のドアを2回軽くノックする。
「どうぞ」
「失礼します。〇△ミサキと申します」
「どうぞ、そちらの椅子に座って下さい。これがボクの名刺です」
タカギユウイチ
名刺にはそう書いてあった。
「あ、失礼。それはボクの小説家としての名刺でした。こちらをどうぞ」
もう一枚の名刺を受け取る。
「え!? …ユウちゃん?」
「ミサキ」
私の両目から涙が溢れ、止まらなかった。
幼き思い出の彼の面影があった。
「ミサキ、泣くなよ」
「だって…」
「約束な」
「うん」
「この奇跡を願ってた」
「うん、ありがとう。私も」
1グラムの奇跡




