出城拡張と温泉から始まる危険な連想
両隊長は、工房にてロットとタルトから最近の領地状況の説明を受けていた。
鉛筆事業。
版画工場の拡張。
遊技具の量産。
学校兼託児所。
そして、シフト制という前代未聞の制度。
「……まあ」
機構隊長が腕を組む。
「確かに、ここまでやれば目を付けられる」
「むしろ、よく今まで何も起きなかったな」
近衛隊長も頷く。
ロットは、いつものように空を見上げ、フォフォフォと笑った。
「いずれ、こうなるとは思っておったよ」
「だからこそ、備えは早い方がええ」
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■ 荷馬車と出城、そして火力
早速、話は具体に移る。
「まずは、荷馬車強化型の増産じゃな」
「それと」
近衛隊長が、巻物を広げる。
「メイヤ様が描いた出城案を元に、改修した設計図です」
簡易ながら、要点を押さえた構造。
射線、柵、櫓、資材運搬の流れ。
「これに合わせた建築パーツの作成」
「それと――」
「バリスタじゃな」
ロットが、にやりと笑う。
「話は聞いとる。ロマン兵器じゃろ?」
「ロマンで済めばいいんですが……」
タルトが遠い目をする。
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■ 規模変更の提案
ひと通り話が終わったところで、ロットが一言付け加えた。
「ただの」
「この出城の規模じゃがな」
「50名想定では、小さい」
両隊長が、同時に顔を上げた。
「……何?」
「50名程度の駐屯では、抑止力が足りん」
「100名規模に変更した方がええ」
「大きすぎませんか?」
近衛隊長が首を傾げる。
「各隊の部下は20名ほどですし……」
ロットは、フォフォフォと笑った。
「何を言っとる」
「この領地を守ろう、という志願者も出るじゃろ」
「それに」
設計図を指で叩く。
「この構造なら、倍以上にしても工期はそう変わらん」
「部材を規格化しとるからな」
しばし沈黙。
やがて、機構隊長が息を吐いた。
「……了解しました」
「100名想定で進めましょう」
こうして、出城は“即席”の域を超え始めていた。
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■ その頃のメイヤ
一方、その頃。
「――――――――――――――――――――――――っ!!」
メイヤは、全力で馬を走らせていた。
「地図だと……この辺!」
鼻をくすぐる、独特の臭い。
「……来た」
硫黄の臭い。
「温泉確定!!」
地面から立ち上る水蒸気。地図通りの場所に、池。
「……あ、でも」
水面が、ぼこぼこと不穏に揺れている。
「……これ、無理」
直接入ったら、間違いなく大火傷。
「ひとっ風呂、とはいかないわね……」
近くに水源もない。薄めることも出来ない。
「がっくし……」
肩を落とした、その時。
「……ん?」
メイヤの脳内で、別の回路が繋がった。
「温泉」
「硫黄」
「……炭、あるわよね」
「硝石があれば――」
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■ 黒色火薬という誘惑
「……黒色火薬、作れる?」
自分で言って、自分で首を振る。
「いや、銃は無理よ。流石に」
でも。
「竹筒なら?」
「火縄銃じゃなくても」
「導火線つけて、投げるだけなら……」
敵が、爆音と火花で驚く。
「びっくりはするわよね」
「……蹴散らせる」
メイヤは、はっと我に返った。
「……いやいやいや」
「落ち着け私」
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■ 硝石の取り方(思い出しメモ)
「硝石……どうやって取るんだっけ……」
頭の中を探る。
「確か……」
・家畜の糞尿
・藁
・土
・灰
「これを、湿った場所に積んで」
「しばらく放置」
「硝酸菌が働いて……」
「できた土を水で溶かして」
「灰を入れて、煮詰める」
「結晶が出る……」
「……だった、はず」
一気に思い出して、頭を抱える。
「やばい」
「知識が、やばい方向に使えそう」
「しかも家畜を1ヶ所に集めて、糞尿は肥料を作ってる。。準備は出来てしまってる」
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■ 自制(少し遅い)
「流石に」
「これ、私一人で決めちゃダメなやつよね……」
軍事。
火薬。
一線を越える話。
「……でも」
温泉を見つめる。
「備えとして、可能性を知っておくのは……」
メイヤは、深く息を吸った。
「まずは」
「温泉の利用方法を考える」
「硫黄は、副産物」
「うん、そういうことにしよう」
自分に言い聞かせる。
「黒色火薬は……」
「……最終手段」
メイヤは、踵を返した。
温泉は逃げない。
だが、領地の安全は待ってくれない。
こうして、温泉視察は
思わぬ方向への“引き金”を、静かに準備していた。




