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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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地図の果てと即席の城

メイヤは執務室の机いっぱいに広げた最新版の地図と、にらめっこをしていた。


「…………」


無言で指を滑らせる。


「………………」


もう一度、端から端まで確認する。


「……ねえミュネ」


「はい?」


「……うちの領地、どんだけ広いの?」


「今さらですか」


冷静に返されて、メイヤはぐぬぬと唸った。


版画による地図整備はかなり進んだ。

森、平野、川、村、畑、鉱脈候補地。

だが――


「まだ“端”が出てこないんだけど?」


「元々かなり広いと聞いております」


「“かなり”で済ませていい規模じゃないわよこれ……」


領主家に伝わる古い地図は、正直あてにならなかった。縮尺も曖昧、方角も怪しい。


だが学術員たちが測量を進め、版画で整えていくにつれ、ようやく“実像”が見え始めてきた。


「……あ」


ふと、メイヤは地図の一角で手を止めた。


「湖……?」


今までぼんやりとした水場として記されていた場所。

だが今回の地図では、はっきりとした輪郭を持つ“湖”として描かれている。


「湖があるとは聞いてたけど……やっと場所が確定したのね」


湖は資源だ。

水、魚、輸送、観光(?)。


メイヤは満足そうに頷き――

そのすぐ横の、小さな奇妙なマークに目を留めた。


「……この記号、何?」


ミュネが地図を覗き込む。


「ええと……学術用の注釈ですね。“高温水域”……」


「……高温?」


メイヤの脳内で、点と点が一気に繋がった。


「熱い池……?」


「はい。そう記されていますが……」


メイヤの口角が、にやりと吊り上がる。


「……まさか」


「……」


「……温泉!?」


バンッ!


机を叩く音が響いた。


「ある!ここに温泉がある可能性が高い!!」


「メイヤ様、声が……」


「温泉よ!?この世界で温泉よ!?見に行かないとダメでしょこれは!!」


ククク、と怪しい笑みを浮かべながら地図を抱きしめた、その瞬間――


「メイヤ、来なさい」


扉の向こうから、父――の声がした。


「……何かしら」


嫌な予感を覚えつつ、メイヤは地図を丸めて立ち上がった。



■ 重たい話


執務室には、父の他に二人の男がいた。


近衛隊長。機構隊長。


「……あ」


温泉の話どころではない、と一瞬で察した。


「座れ」


父の声は静かだが、重い。


「領境の警備強化について、具申があってな」


メイヤは椅子に腰を下ろし、機構隊長を見る。


「説明します」


隊長は簡潔に、だが丁寧に話し始めた。


王都での不穏な動き。

度量衡統一に反発する商人たち。

反王族派との接触。

物流ルートの変化。


「……この領地を経由しない流れが、既に出来始めています」


「エドラン領が、こちらと本格的に組んだ結果です」


メイヤは腕を組み、黙って聞いていた。


「となると、不満を持つのは?」


「……ガリオン領」


メイヤも即答した。


通行税で成り立つ領地。

その収入源が、静かに削られている。


「彼らが、何もしないとは考えにくい」


「最初は偵察でしょう」


近衛隊長が補足する。


「商人を装っての情報収集。あるいは――不法侵入」


メイヤは、少しだけ目を細めた。


「……なるほど」


確かに、警備を厚くするのは正解だ。


だが――


「大規模な防衛施設を今すぐ建てると、“警戒してます”って宣言するようなものよね」


二人の隊長が、同時に頷いた。


「ええ」


「だからこそ、様子見を――」


「ううん」


メイヤは、軽く手を挙げた。


「接触してからでいいわ」


二人が、同時に目を向ける。


「接触して、“敵意が明確になった瞬間”に、一気に固める」


「……一気に?」


「そう」


メイヤは、くるりと椅子を回し、地図を広げた。


領境付近を指で叩く。


「出城的なものを、即席で建てる」


「出城……?」


「事前に全部作る必要はないわ」


メイヤの目が、仕事モードに切り替わる。


「柵、櫓、簡易壁――パーツを規格化して、あらかじめ作っておくの」


「それを……?」


「荷馬車の強化型に載せておく」


機構隊長の目が、わずかに見開かれた。


「つまり……」


「“動く建築資材庫”よ」


メイヤは、にっと笑った。


「接触確認→輸送→即建築開始」


「数日で、簡易防衛拠点を完成させる」


「……なるほど」


近衛隊長が唸る。


「敵に悟られず、必要になった瞬間だけ、牙を剥く」


「建築は、うちの得意分野だもの」


メイヤは肩をすくめた。


「今さら柵や櫓なんて、慣れたものよ」


父は、しばらく黙っていたが――


「……実行可能だな」


そう言って、頷いた。


「準備だけは進めておこう」


「はい」


メイヤは元気よく返事をした。


(温泉は……その後ね)


地図の端に、こっそりと印を付けながら。


領地は広い。

資源も多い。

狙われる理由は、もう十分すぎるほどある。


だからこそ――

守る準備を、静かに整える。


嵐が来るなら、迎え撃つだけだ。


その頃、メイヤの頭の片隅では――

温泉と、露天風呂と、休日計画が、しっかりと温められていた。

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