動かぬ領地、動き出す周囲
「……王都で不穏な動き、か」
機構隊長は、ババア――
世界商品登録機構・総責任者アグライア=ホルンベルグから届いた指示書を読み終え、小さく息を吐いた。
王都では、確かに水面下で何かが蠢いているらしい。
だが――
「こっちは、まだ静かすぎる」
この領地では、目立った動きは何もない。
商人の往来も普段通り。
領民の生活も、むしろ安定し始めている。
「……嵐の前の静けさ、ってやつか?」
そう呟きながら、隊長は地図に視線を落とした。
■ エドラン領の本気
地図の東側。
エドラン領。
「向こうが、本気で取引に動き出したか」
この話は、まだこの領地の領主も、例のちびっ子――メイヤも知らない。
完全に、水面下の話だ。
エドラン領は、早々に動いた。
鉛筆の製造技術を取り入れ、独自生産を開始。
しかも、かなりの利益を出しているという。
「判断が早い……」
王都へのルートは遠回りになる。
だが――
「変な通行税を取らん」
これが大きい。
結果、商隊はこぞってエドラン領経由を選び、現在の主流ルートは、完全にこの領地→エドラン領→王都、だ。
「……強化型荷馬車が効いてるな」
距離は長い。だが、速度と積載量が違う。
旧型荷馬車を短距離で何度も往復するより、
強化型で一気に走った方が、結果として日数が変わらない。
「物流が……変わり始めてる」
しかも――
「エドラン領主は、王族派」
この一点が、何よりも重要だった。
■ 北の問題児・ガリオン領
「……となると」
機構隊長は、北側の領地に指を置いた。
ガリオン領。
「そろそろ、動く頃だろうな」
この領地は、通行税で食っている。
それも、かなり強気の設定だ。
内政?
産業?
改善?
「……ほぼ、してねぇ」
楽して、あぐらをかいて、“通るだけの連中から金を取る”ことで成り立ってきた領地。
だが、今――
人も物も、そこを通らなくなり始めている。
「そりゃ焦るわな」
しかも、ガリオン領主は――
「反王族派」
王都で動き始めた連中と、思想的にも相性がいい。
「……茶々、入れてくるだろ」
通行税の引き上げ。
難癖。
検問強化。
最悪、嫌がらせレベルの小競り合い。
「少しは内政に力を入れろってーの……」
隊長は、苦々しく吐き捨てた。
■ ダメ元の一手
「……さて」
機構隊長は、地図の“ここ”を指で叩いた。
この領地と、ガリオン領が接する領境。
「まだ何も起きてない今なら……」
ダメ元、ではある。
だが――
強化しておいて、損はない。
「領境の警備、少し厚くするか」
あくまで、“警戒訓練”の名目で。
あくまで、“偶発的事態への備え”。
「問題が起きてからじゃ、遅いからな」
ババアの言葉が、脳裏をよぎる。
――不穏分子は、必ず自滅する。
その前段階を、見逃すな。
「……ちびっ子は」
隊長はふっと笑った。
「今頃、休みだの学校だの、遊び道具だの考えてる頃だろ」
本人は気づいていない。
だが――
この領地は、もう“注目される側”になっている。
「守る価値があるってことだ」
機構隊長は指示書を畳み、立ち上がった。
静かな今だからこそ、準備を進める。
嵐は、必ず来る。
ダメ元で近衛隊長連れて、領主とちびっ子に話に行くか。
そしてその時――
どの領地が、生き残るか。
その答えは、もう少しで見えてくる。




