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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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木工爺さん近衛隊長の前に

野営予定地で、近衛隊長ラガルドは到着直後の書類確認に追われていた。

前線育ちの彼にとって、机仕事は戦場以上の敵である。眉間に皺を寄せたまま簡易テーブルで羽根ペンを走らせていると──


「フォフォ。隊長さんや、ちと良いかの?」


まるで影のように気配なく、木工師の老人が背後に立っていた。


「……ッ!? な、何故あなたがここに……」


「どこにおっても同じよ。足はまだまだ耄碌しておらんでな」


ラウフェンが警戒の視線を送る間も、老人は勝手に簡易椅子込み、机の端を軽く指で叩く。


「さてのう。お主らのクロスボウだが、まだ完成はしておらん。が、子供用の試作一号と二号は領主様が持っておる。使い勝手を確かめるには充分じゃろうて」


「……既にそんな物まで?」


「フォフォ。急ぐべきは国の方じゃからな。で、じゃ」


老人はピシッと隊長を指差した。


「手が空いた時で構わん。わしに声をかけて欲しい。弓の扱いが上手い奴数名と、下手くそな奴数名を連れてくるんじゃ」


「……上手いのは分かるが、下手くそを?何故?」


「下手な奴にも上手く扱えるようにするためじゃよ。お主ら近衛は腕が立つ。じゃが戦が始まったら、真っ先に前に立って死ぬのも上手い奴らじゃ」


ラウフェンは返す言葉を失った。老人はそれを楽しむ様にニヤリと笑った。


「隊長さん、落ち着いたら来ればよい。フォフォ……そうじゃ、先ほどの機構隊長と学術長にも同じ事を言ったが──」


突然、老人の表情が変わった。


さっきまでの飄々とした老人ではない。

鋭い、獲物を貫くタカのような眼光がラガルドを射抜く。


「お主も、本来の任務を忘れるな」


「……っ!」


「護衛とは、剣や盾を構えるだけの仕事ではない。守る相手の“未来”を読むのも任務のうちよ。国が動く時、お主らの『判断』ひとつが領地を救うそして国を。肝に銘じておけい」


その視線に、歴戦の隊長が思わず背筋を伸ばした。

老人は再び「フォフォ」とだけ笑い、まるで煙のようにその場を去っていった。


静寂だけが残る。

ラウフェンは茫然と立ちつくし、首筋から汗がつっと流れ落ちた。


「あの老人……一体何者なんだ……」


木工師の爺の言葉を受けたラウフェンが、ようやく我に返った。


「……あの老人……何者なのだ……?」


剣で語る彼が、ここまで圧倒されたのは人生で二度目だった。


一度目は──王だ。

そして二度目は、あの木工の老人。


ラウフェンの胸に、不思議な予感が生まれていた。


(この領地……変わる。とんでもない速度で……)


その中心にいるのは、老人か、それとも──あの少女達か。


答えはまだ誰にも分からなかった。


一方その頃──


リディアとメイヤは、クラスメイト20名を領内案内に連れ出していた。


「こ、ここが村の中心部、です……」


メイヤが言うと、村の子ども達が走り回り、農民が荷車を押し、遠方からは仮宿舎を建てる木槌の音が響く。


クラスメイト達は固まっていた。


「……え……ここ……本当に領都なの……?」


「想像してたのと……ちょっと違うわね……」


「違うなんてもんじゃ……」


リディアは頬を赤くし、メイヤは軽く涙目だ。


そんな中、ひとりの男子学生がぽつりと呟いた。


「でも……好きかも。こういうの」


その言葉に、メイヤの肩の力がふっと抜けた。


「み、皆……領主館で宿泊と食事の準備は万端です!だから大丈夫、です!」


するとクラスメイトの1人が少し笑った。


「……メイヤが言うなら、信じるよ」


―――――


一方、学生以外の本隊は既に野営予定地へ到着していた。


学術隊は到着するや否や、すでに散開して“未知の村”を観察し始めている。


「土壌の粒度、王都の報告と違うぞ!」


「ここ、湿地帯が近いのか!?植物相が変だ!」


「ちょ、ちょっと!標本勝手に採るなー!」


指揮もまとまらぬまま、学者達は野生動物のように散り散りへ。


近衛達はそれを見て、「毎度のことだ」と淡々と野営の準備を始めた。


大きな鍋が据えられ、火が点り、槍が突き立てられ、次々とテントが張られていく。

その姿は小さな軍隊の前線基地そのものだった。

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