大人の会議と衝撃的すぎる“領地戦力”
応接室。
隊長クラスが集まり、空気がひどく張り詰めていた。
近衛隊長が口を開く直前――
彼の視線がすっとメイヤとリディアへ向いた。
それを見逃す父ではない。
「……すまないが、リディア、メイヤ。この話は“大人だけ”で行う。クラスメイトたちに館内を案内してきなさい」
「分かりました、お父様」
「はーい。分かったよ」
二人が部屋を出ると、扉は静かに閉まった。
――途端に、室内の空気が変わる。
◇◆◇
近衛隊長が姿勢を正し、深く頭を下げた。
「領主殿。王より正式に言付かっております。
今回の滞在、学生二名――特にメイヤ嬢とリディア嬢の安全確保を最優先とするように、とのことです」
父と母は思わず顔を見合わせる。
「……わ、我が娘が?」
「ど、どういう意味ですか?」
機構軍隊長が腕を組み、ふっと鼻を鳴らした。
「うちの“ババア”……婆さんだがな。あいつが『特にメイヤをよく見ておけ』ってうるせぇんだよ」
母は驚いて声を上げた。
「メイヤを!? な、なぜ……?」
「知らねぇよ。だが文官共はもっと意味分からん。『メイヤの指揮下に入る準備を』とか抜かしやがった」
「……指、揮……!? メイヤが!?」
父母の声がぴたりと揃う。
近衛隊長が苦笑している。
「学術研究院長からも同じことを言われました。リディア学園長から“メイヤに協力せよ”との命を預かっております。加えて我々学術陣は、本来の研究活動に全力を尽くせ、と」
ガルドまで目を丸くした。
(……王都で、メイヤ様は何をなさったのだ……?)
父はゆっくりと息を吐き、頷いた。
「……分かりました。すべて協力いたしましょう」
「助かります」
隊長クラスが深々と頭を下げる。
◇◆◇
父は気を取り直し、領内の案内へ連れ出した。
しかし――
案内を始めてすぐ、近衛隊長と機構軍隊長は、ある一点を質問した。
「領地の防衛戦力を教えていただきたい」
その瞬間、父の顔が青くなる。
(……来た……)
逃げ場はない。
父は震える声で答えた。
「我が領地の戦力は……」
ごくりと唾を飲み込み、指を折りながら言う。
「私が……剣・槍・弓、まぁ……平均」
母が気恥ずかしそうに続く。
「私は剣はダメですが、槍は得意です。あと、右ストレートには自信があります」
機構軍隊長が「右ストレート?」と眉をひそめる。
次にガルドが口を開く。
「私は剣と弓が得意です」
ミュネがぴょこっと手を上げた。
「わ、私は短剣なら!」
最後に父が申し訳なさそうに。
「……時々村人に剣を教えているので、剣が使える者が二人ほど……」
静寂が落ちた。
そして――
機構軍隊長と近衛隊長が同時に固まる。
「…………」
「……………………ん?」
学術長まで目を丸くしている。
沈黙を破ったのは機構軍隊長だった。
「……合計、六名か?」
「……はい」
「兵じゃなくて、“戦える人間”全部で?」
「……はい」
次に近衛隊長が思わず声を上げた。
「領主殿!? この領は……軍が六名なのですか!?」
「は、はい……」
父の答えに、機構軍隊長が頭を抱えた。
「おいおいおい!六名って……そこらの盗賊団より少ねぇじゃねぇか!!」
近衛隊長も珍しく焦った声を出す。
「これは……正直に申し上げて、防衛としては危険域ですぞ!?」
父は深く肩を落とした。
(……言われなくても分かっている……)
だが次の瞬間。
機構軍隊長が、ぱんと手を叩いた。
「まあ、領地入口は丁度丘の上だろ?五名程度配置すりゃ、初動としては悪くねぇ。その後ろに数十名配置すりゃ時間稼ぎくらいにはなる」
「数十名……?」
「安心しろ。近衛から兵を出すし、機構からも出してもらえれば」
近衛隊長が力強く頷いた。
「当然です。貴族領の安全は、我々にも責任があります」
父と母は、言葉もなくただ頭を下げた。
(……六名しかいない我が領を、ここまで助けてくれるとは……)
ガルドも胸に手を置き、深く感謝の意を示す。
◇◆◇
こうして――
滞在中の指揮権は領主へ移され、領地の防衛計画は近衛隊と機構軍の全面協力で立てられることとなった。
その裏で、父母は思う。
(……それにしても、王都でメイヤは一体何を……?)
(……我々が知らぬところで、何を……?)
娘への疑問と誇りを胸に、嵐のような“滞在期間”が、静かに幕を開けようとしていた。




