領地の混乱と進む“移動訓練”
その頃――メイヤたちの領地では、臨時宿舎の建設が急ピッチで進んでいた。
材木を運ぶ荷車の音、指示を飛ばす大工の怒声、釘を打ち込む乾いた音。
すでに建設予定地はちょっとした戦場である。
そこへ、また例の早馬が砂煙を上げて駆け込んできた。
馬も、乗っている若い兵も、見るからに疲労困憊だった。
汗で顔はぐちゃぐちゃ、息はぜぇぜぇ。鞍にしがみつくのがやっとだ。
父と母、そしてガルドは思わず同じことを思った。
(……この地区、全部一人で担当してるのか?)
同情しかない。
兵が差し出した書面には、最新の正式人数が書き込まれていた。
――654名。
「……多いわね、予想より」
「ふ、増えてる……!」
「この人数をどう泊めろというのか……!」
三人の声が重なる。
そして兵は、さらに“口頭伝言”があると言った。
差し出されたメモの裏に、国王直筆の走り書き。
『バーカ! 学生の時みたいにトラブルに巻き込まれる板挟みヤロー! ざまー!!』
父は書面を握りつぶした。
母も拳を震わせながら、
「……久しぶりに殴りたくなりましたね、国王を」
と言った。ガルドは小さく咳払いし、そそくさと現場へ戻る。
「……臨時宿舎、増設してまいります」
誰も止めなかった。
⸻
一方その頃――商隊の道中
商隊はすっかり“移動・夜営・訓練”のルーティンが完成していた。
ゆっくりと進む商隊の横で、クラスメイト達は昨日の模擬戦に影響されて徒歩移動を選び始めていた。
世界商品登録機構の隊長は、手頃な木を削りながらぼそっと言う。
「刀は数が足らん。ほれ、棍棒だ。折れたら作り直せ」
無造作に渡される木製の棍棒。
だがクラスメイトたちは妙に嬉しそうだ。
夜営に着くと、隊長はその棍棒で握り方、重心の置き方、足の運びを手取り足取り教える。
「実戦じゃ形ばっかキレイでも意味ねぇぞ。まずは体で覚えろ」
その隣では近衛隊長が、一年未満の兵士同士で模擬戦を組み、機構側の一年兵とも試合させていた。
「では次、機構側一番隊の一年兵、前へ」
「おう、やってやる!」
若手同士のぶつかり合いに、自然と人が集まっていく。
不思議と、隊長二人は相性が良いらしい。
考え方は違うが、どちらも“本物の経験者”だ。
気づけば――学術系研究員まで引っ張り出されていた。
「そこの君、盗賊役!」
「えっ!? わ、私ですか!?」
「お前は村人暴動役な!」
「な、何をすれば……!?」
もちろん、どれだけ人数を増やしても、近衛と機構軍の二部隊には勝てるはずがない。
しかし――学術系の本領はここからだった。
次第に彼らは地形を使い始めた。
視界を遮る布、音を出す罠、誘導、偽装、分断。
「はい、こちら側の陣地を囮にして――」
「煙で視界を奪って、その間に!」
「地図上でここに誘い込めば……」
二部隊が気持ちよく突っ込むと、見事に罠が発動。
「……なんだこれは?」
「囲まれてる……!?」
学術陣の勝利だった。
近衛隊長も機構軍隊長も、驚いた後に声を上げて笑った。
「面白い! 頭を使う戦いも悪くないな!」
「次は対策を練らせてもらうぞ!」
戦闘訓練はすっかり“二部隊 vs 学術・学生連合軍”という構図になり、夜営地は毎晩ちょっとしたお祭り騒ぎになっていった。




