王都郊外、想定外の“大規模実習隊”
王都を出て半日。
約束の集合地点──王都郊外の大きな草原に、メイヤたち三人は到着した。
「……え?ちょ、ちょっと……あれ全部?」
目の前に広がる光景に、メイヤの口がぽかんと開いた。
ずらりと並ぶ馬車、馬、装甲の厚い輸送車。
見たこともないほどの巨大な荷馬車列が、草原を埋め尽くさんばかりに隊列を組んでいる。
「え……多くない……?メイヤ、これ本当に“実習”だよね……?」
リディアも、剣の柄に置いた手が震えている。
ミュネも呆然として荷物を抱えたまま固まった。
「なんか……軍の遠征みたいなんだけど……?え、これ、私達のせい……?」
そのとき――
「おーい!こちらにおられましたか、メイヤ様、リディア様!」
低いが通る声が飛び、三人が振り向く。
近付いてきた男は、白金の鎧を身に着けていた。
「す、すみません……あの、その鎧……王室直轄……?」
「はい。王立近衛兵隊、派遣分隊長のラウフェンであります」
(近衛!? なんで近衛!? 護衛の最高峰じゃん!!)
メイヤが心の中で叫ぶ。
しかし驚く暇もなく、ラウフェンは次々と言った。
「今回の郊外実習の護衛として、我々近衛兵の他、世界商品登録機構より武装部隊並びに研究班、さらに学園所属の研究員や補助教員が同行しております」
「ちょっ……ちょっと待って!?なんでそんな大規模に!?」
さすがのリディアもツッコまずにいられない。
ラウフェンは困ったように微笑んだ。
「まあ……理由は“王家判断”ですので。詳細は伏せられております」
(絶対に騒動のせい……)
(うん。間違いなく私たちが起点のやつ……)
(領地に戻る原因、やっぱりそれ系……)
三人の胸のうちに同じ言葉が浮かんだ。
——————————
「ところで……同級生は?来てるんだよね?」
メイヤが恐る恐る聞くと、ラウフェンはうなずいた。
「はい。あなた方と同じクラスの生徒二十名。全員参加です」
「「全員!?」」
メイヤとリディアの声がハモる。
「え、だって……最後まで残ってた二十名って、みんな癖者というか……好奇心の塊というか……」
「無料で安全な旅付き、しかも実習扱い。学生なら絶対参加しますよねえ……」
ミュネの言葉に、ラウフェンは苦笑する。
「ただ……今はお会いさせるのは難しいかと」
「どうして?」
メイヤが首を傾げると、ラウフェンは周囲を一瞥しながら説明した。
「ご覧の通り、この規模です。王都から領地に向かう“初の編成”でもありますし、王様が近衛を中心に“商隊構成”を整えられました。つまり、軍事・商業・学術が混合した異例の大隊なのです」
「……初めての組み合わせってことは、まとめるの大変なんだ?」
「ええ。今この場でバラけられると、隊列の再編が不可能になります。規模的に、一人探すだけでも一時間はかかるでしょう」
三人は草原に広がる行列を見渡した。
見渡しても見渡しても終わりが見えない。
荷馬車だけでも二百近い。
護衛・研究員を合わせれば軽く五百を超える。
「これは……確かに“会いたい”とは言いにくい……」
そう呟いたメイヤに、ラウフェンは柔らかく笑った。
「安心を。道中で休憩を挟みますし、初日の宿営地で合流時間を設ける予定です」
「……よかったぁ」
三人が胸を撫でおろしたところで、別の近衛兵が駆け寄った。
「ラウフェン隊長!列の再編完了したとのことです!」
「了解。では、メイヤ様、リディア様、ミュネ様。あなた方は私の馬車へお乗りください。特別指定の“中央防護区”となっておりますので」
「中央防護区……そんなのまであるんだ……」
「ええ。王命で。──“絶対に守れ”とのことです」
王という権力の重みが、静かに三人へと降りかかる。
(やっぱり、ただの実習じゃない……)
(完全に“保護されてる”んだ……)
でも。
メイヤはぐっと拳を握った。
「……いいよ。守られるだけじゃなくて、ちゃんとやることやる。領地に帰るんだもん。準備だって、迎える覚悟だって必要だよね」
リディアとミュネも頷く。
「うん。私達も忙しくなるよ」
「ご飯もいっぱい作らなきゃね。なんせ、この人数だから……」
ラウフェンは三人の気概を感じ取り、誇らしげに頭を下げた。
「では──帰還隊、出発します!」
その瞬間。
号令が草原に響き渡り、巨大な隊列がゆっくりと動き始めた。
王都での“夢のような日々”に幕が下り、
新たな“領地大改革の現場”へ向けて、三人の旅が始まる。




