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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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老獪なる警鐘

数日前――

王都でも、同じ匂いを嗅ぎ取っていた者が一人居た。


「……はぁ〜」


深く、心底うんざりした溜息。


「まったく、あの無能貴族共。ここに来て、さらに無能を曝け出す気なのね……」


机に広げられた帳簿と報告書を、苛立たしげに指で弾く。


「ちょいと、貴女。この文をフェルナード領支店へ。必ず、確実によ」


即座に返る返事を聞き流しながら、独り言が続く。


「全く……このクソ寒い中、馬鹿王に会いに行かなきゃならないなんて」


立ち上がり、外套を羽織る。


「エドランにも同席して貰わないとね。

……ほんと、余計な仕事ばかり増やしやがって」


――そして。


「待っていたぞ」


王城の一室。重々しい声が迎えた。


世界商品登録機構総責任者

アグライア=ホルンベルグ。


「ざわざわ……」


「はっ。ババアが来たくらいで、城中ざわつきやがって……」


周囲の視線を気にも留めず、アグライアは一歩踏み出す。


「……これは本当なのか?」


差し出された書類を、王は無言で受け取る。


「金は嘘をつかないわ」


淡々と、だが断定的に告げる。


「資産の大半を現金化してる。何か起こす気よ。間違いない」


王は眉をひそめる。


「解った……だが、信じられんな……」


「信じる信じないの話じゃないわ」


アグライアは鼻で笑った。


「それより――」


視線を横に流す。


「近衛隊長が、まさか戻って来ていたとはね」


「ああ。やっと武器を渡してくれてな。

今は再編成と練度の立て直しだ」


「なら、まだマシかしら」


一拍置いて、静かに。


「……やるわね。セリアは」


王都と領都。

距離はあれど、同じ結論に辿り着いている。


春は、ただ暖かさを運ぶだけではない。

火種もまた、雪解けと共に姿を現す。


老獪な者たちは、既に動き始めていた。


王はそのまま、短く、だが重い指示を出した。余計な言葉は無い。

戦う準備を整えろ――ただそれだけだ。


城内の空気が、目に見えず引き締まる。


エドランは持ち場へ戻ると、即座に動いた。

命令系統の再確認。

各部隊の連絡経路、伝達速度、代替指揮の有無。

そして何より――補給。


装備、糧食。

「足りているか」ではなく、「途切れないか」。

最悪を想定し、数字を叩き直す。


一方、近衛隊長は訓練場に立っていた。


掛け声が響く。

剣が打ち合い、盾がぶつかる。

緩みは一切許さない。


量より質。

一人一人の動き、反応、判断。

戦場で生き残れるかどうか――その一点だけを基準に、練度を引き上げていく。


王都は、まだ静かだ。

だがその静けさは、嵐の前のものだった。


誰も口には出さない。

それでも全員が理解している。


始まるかもしれない。


だからこそ――

各々が、各々の持ち場で、黙々と備えを進めた。


戦いに備えるという、ただ一つの目的のために。

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