世界商品登録の衝撃と、王都到着
エドラン領主への挨拶は、驚くほど順調に進んだ。
「これは……噂の“鉛筆”と“ゴアゴア紙”ですか!?巷で騒いでおったのは知ってましたが、実物を見るのは初めてでしてな!おお……書き味が滑らかだ……!」
領主は目を輝かせ、即座に追加購入を申し出てきた。
商人ロウガも得意満面で腕を組む。
「メイヤ様、評判は上々でっせ! 王都でも間違いなく売れまっせ!」
軽い立ち寄りのつもりが、気づけば歓迎宴まで開かれ、一行は和やかな空気のまま、王都へと向かった。
一方そのころ――メイヤたちを見送った領主館は、久しぶりに静かになっていた。
「……さて、この書類を見ながら水田開発を進めるか」
アルトリウスはメイヤが残した大量のメモや設計図を読みあげる。
肥料の最終発酵チェック、田の水流管理、
村ごとの作付け計画……。
それはどれも、これまで領地を苦しめてきた
“金の工面”ではなく――未来の発展のための“予算配分”。
「ふ……良いものだな、こういう忙しさは」
「領主様、笑顔が増えましたね」
ガルドも思わず微笑む。
だが、その穏やかな空気は――
突然の悲鳴じみた声によって破られた。
「りっ、領主様ぁぁぁ!! 大変でっせぇぇぇ!!」
ロウガ……ではなく、ロウガ商会の代理人の男が真っ青な顔で飛び込んでくる。
「ど、どうした!?」
「しょ、商品登録されました!!鉛筆とゴアゴア紙……それとクロスボウ!!」
「……なに?」
ガルドの眉がぴくりと動く。
それ自体は驚くことではなかった。
申請したのだから当然だ。
問題は――代理人が震えながら続けた言葉だった。
「で、ですが……注文が……!世界中から……殺到しておりまして……!!在庫は……! 生産は……!!」
「はぁ!?」
アルトリウスが椅子から滑り落ちた。
代理人の説明は続く。
*世界商品登録機構は、大都市ごとに支部を持つ
*“登録完了”の情報は、機構所属の早馬で一斉伝達
*その早馬は国境審査フリーパス・通行税無料なので距離による差はあるが比較的早く情報が広がる
*止められるのは道に立って居る妊婦ぐらいという冗談まである
*その早馬が登録完了を伝えた直後から商人たちが“買わせろ!”と問い合わせ殺到
「こ、このままでは……大商会どころか国規模で、買い付けが押し寄せます……!!」
アルトリウスの顔が紙のように白くなった。
「在庫は!? 生産は!? 我が領はまだ準備が――!」
「領主様、落ち着いてください」
ガルドが静かに一歩前に出る。
その手には――メイヤのメモ束。
「……ありました」
「な、何が!?」
「鉛筆大量生産、ゴアゴア紙大量生産の……“計画書”です」
「そ、そんなものまで用意していたのかあの子は……!」
ガルドは内容を読み上げる。
「水車を使った砕解作業の自動化。紙すき工程の分業化。流れ作業の組み立て場の建築計画……」
アルトリウスは天を仰ぎ、震えた声でつぶやいた。
「……メイヤ……お前は……どこまで先を……」
「領主様。至急、木工師、鍛冶師、職人たちを集めます。私が指揮いたしますので、ご安心を」
ガルドの心強い宣言に、アルトリウスは机に突っ伏した。
「……助かった……心臓が止まるかと思った……」
代理人も涙目でうなずく。
「メイヤ様……あのお方は本当に……救世主や……」
その頃、当の本人であるメイヤは――
「わぁ! 大きい! これが王都!!?」
「すごい……人がいっぱい……!」
「お嬢様方、離れないでくださいね!」
王都の巨大な城壁を見上げ、無邪気に歓声をあげていた。
商隊の荷馬車が門をくぐる。
石畳に変わり、活気ある商人、行き交う馬車、露店の匂い。
世界が一気に広がった。
メイヤとリディアは目を輝かせる。
これから――
学園試験という、新しい舞台が始まるのだ。
その陰で領主家が大騒ぎしていることなど、
当の2人はまだ知る由もなかった。




