旅立ちの前準備と王都への道
試験日が近づくにつれ、メイヤとリディアの生活はますます規則正しく、密度を増していった。
朝は日が昇りきる前、軽いマラソンから始まる。基礎体力をつけるための腕立て、スクワット。
その後は剣術・棒術・新型弓具――クロスボウの基礎訓練。
午前の学科授業では、2人の苦手分野を徹底的に潰す反復学習。
昼食後の休憩を挟み、午後はお互いの得意分野を教え合う。
そして夜は、その日の反省点のチェック。
忙しい日々の中でも、メイヤの“農業改革”は止まらなかった。
「ひよこたちは元気ね。そろそろ餌に混ぜる量を増やしてもいいわ」
メイヤは手際よく餌を混ぜながら、リディアに説明する。
集めていた鶏糞は、発酵を進めて肥料づくりが順調。
毎日の温度管理も、今やリディアが一人でできるようになっていた。
八十八穀の初収穫も終え、籾殻・糠・藁の再利用方法も村人たちへ指導済みだ。
「糠は撒けば肥料に。藁は敷き藁、堆肥、家畜の寝床にも使えるからね」
メイヤは小さな身体に似合わぬ、大人の農家顔負けの知識量で、丁寧に教えていく。
収穫した八十八穀は、炊飯、粥、餅、薄焼きなど、様々な料理に調理して村人たちに試食させた。
「うまいなこれ! 今までの穀物よりずっと食べやすい!」
「腹持ちもいいですな! 子供にも喜ばれますぞ!」
高評価の声が続々と上がった。
領主家や使用人たちからも大好評。
その結果――
「……水田開発、本格的に始めるぞ」
父アルトリウスの鶴の一声で、大規模な湿地の開拓が正式決定した。
さらに追い風となったのは、ホクホク芋の収穫だ。
「掘るの簡単だし、放っといても育ってくれるんだなこの芋!」
「煮ても焼いても美味しいぞこれ!」
村人たちも笑顔が絶えない。
掘りたての芋を寝かせることで甘味が増すこと、茎の調理法、芋を使った保存食――
メイヤは惜しみなく知識を伝えていった。
「これなら、畑がなくても育てられるだろ? 裏庭とかでもできるはず!」
「すごい……! これならもしもの時に食料に困らないわ!」
農家だけでなく、町の住民も栽培を始めるほどの大人気となった。
田畑はそのまま活かされ、新たにできた肥料をすき込むことで土壌改善も進む。
こうして、領地全体が確実に“豊かさ”へと向かい始めていた。
そして――試験のための王都行きの日が近づいた。
「――私は一足先に王都へ向かうわ。あなたたちの到着……楽しみにしているわね」
セレステは、いつもの微笑みを浮かべながら意味深に言う。
メイヤとリディアは首をかしげたが、詳しい説明はない。
「……なんかセレステ様、楽しそうだったね」
「学園の先生たちにも何か言ってるのかも……?」
何かを企んでいるような、楽しみにしているような……。
2人は少しだけ胸がざわついた。
王都へ向かうのは、メイヤ、リディア、そして侍女ミュネの3名。
そして同行するのは、商人ロウガの商隊だ。
「今回も任せてくださいよ、メイヤ様。荷馬車も護衛も、万全でっせ!」
ロウガは胸を叩きながら笑った。
一行はエドラン領を経由して王都へ向かう予定で、アルトリウスからはエドラン領主へ挨拶文が預けられている。
「メイヤ様、領主からのお手紙はこちらです。大切にお持ちくださいませ」
ミュネが丁寧に封筒を差し出し、メイヤは大事そうに胸に抱えた。
父の名代として他領へ挨拶に行く――
これは、領主の娘としての重大な責務。




