世界商品登録の衝撃と、王都到着
エドラン領主への挨拶は、驚くほど順調に進んだ。
「これは……噂の“鉛筆”と“ゴアゴア紙”ですか!?巷で騒いでおったのは知ってましたが、実物を見るのは初めてでしてな!おお……書き味が滑らかだ……!」
領主は目を輝かせ、即座に追加購入を申し出てきた。
商人ロウガも得意満面で腕を組む。
「メイヤ様、評判は上々でっせ! 王都でも間違いなく売れまっせ!」
軽い立ち寄りのつもりが、気づけば歓迎宴まで開かれ、一行は和やかな空気のまま、王都へと向かった。
◆◆◆
一方そのころ――
メイヤたちを見送った領主館は、久しぶりに静かになっていた。
「……さて、この書類を見ながら水田開発を進めるか」
アルトリウスはメイヤが残した大量のメモや設計図を読みあげる。
肥料の最終発酵チェック、田の水流管理、
村ごとの作付け計画……。
それはどれも、これまで領地を苦しめてきた
“金の工面”ではなく――
未来の発展のための“予算配分”。
「ふ……良いものだな、こういう忙しさは」
「領主様、笑顔が増えましたね」
ガルドも思わず微笑む。
だが、その穏やかな空気は――
突然の悲鳴じみた声によって破られた。
「りっ、領主様ぁぁぁ!! 大変でっせぇぇぇ!!」
ロウガ……ではなく、ロウガ商会の代理人の男が真っ青な顔で飛び込んでくる。
「ど、どうした!?」
「しょ、商品登録されました!!鉛筆とゴアゴア紙……それとクロスボウ!!」
「……なに?」
ガルドの眉がぴくりと動く。
それ自体は驚くことではなかった。
申請したのだから当然だ。
問題は――
代理人が震えながら続けた言葉だった。
「で、ですが……注文が……!世界中から……殺到しておりまして……!!在庫は……! 生産は……!!」
「はぁ!?」
アルトリウスが椅子から滑り落ちた。
代理人の説明は続く。
*世界商品登録機構は、大都市ごとに支部を持つ
*“登録完了”の情報は、機構所属の早馬で一斉伝達
*その早馬は国境審査フリーパス・通行税無料なので距離による差はあるが比較的早く情報が広がる
*止められるのは道に立って居る妊婦ぐらいという冗談まである
*その早馬が登録完了を伝えた直後から商人たちが“買わせろ!”と問い合わせ殺到
「こ、このままでは……大商会どころか国規模で、買い付けが押し寄せます……!!」
アルトリウスの顔が紙のように白くなった。
「在庫は!? 生産は!? 我が領はまだ準備が――!」
「領主様、落ち着いてください」
ガルドが静かに一歩前に出る。
その手には――メイヤのメモ束。
「……ありました」
「な、何が!?」
「鉛筆大量生産、ゴアゴア紙大量生産の……“計画書”です」
「そ、そんなものまで用意していたのかあの子は……!」
ガルドは内容を読み上げる。
「水車を使った砕解作業の自動化。紙すき工程の分業化。流れ作業の組み立て場の建築計画……」
アルトリウスは天を仰ぎ、震えた声でつぶやいた。
「……メイヤ……お前は……どこまで先を……」
「領主様。至急、木工師、鍛冶師、職人たちを集めます。私が指揮いたしますので、ご安心を」
ガルドの心強い宣言に、アルトリウスは机に突っ伏した。
「……助かった……心臓が止まるかと思った……」
代理人も涙目でうなずく。
「メイヤ様……あのお方は本当に……救世主や……」
◆◆◆
その頃、当の本人であるメイヤは――
「わぁ! 大きい! これが王都!!?」
「すごい……人がいっぱい……!」
「お嬢様方、離れないでくださいね!」
王都の巨大な城壁を見上げ、無邪気に歓声をあげていた。
商隊の荷馬車が門をくぐる。
石畳に変わり、活気ある商人、行き交う馬車、露店の匂い。
世界が一気に広がった。
メイヤとリディアは目を輝かせる。
これから――
学園試験という、新しい舞台が始まるのだ。
その陰で領主家が大騒ぎしていることなど、
当の2人はまだ知る由もなかった。




