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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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二度目の訪問、そして“条件”

二度目は、早かった。


最初の訪問から、まだ五日も経っていない。


「……また、あの商人か?」


門番が小さく呟く。


前回と同じ男。

同じ荷車。

同じ、にこやかな笑み。


「ご無沙汰しております」


男――カイルは、慣れた様子で頭を下げた。


「今回は、少し正式な話がありまして」


その一言で、門番の背筋が伸びた。



領主館・応接室。


「商人が、面会を?」


「はい。“取引の相談”とのことです」


文官の報告に、ガルドは眉をわずかに寄せた。


「……通せ」


逃げも拒絶もしない。

それ自体が、この領地の答えだった。



応接室に入ったカイルは、深く一礼した。


「改めまして。北側、ガリオン領所属の商人、カイルと申します」


「前回も聞いた」


ガルドは静かに答える。


「今日は何用だ」


「単刀直入に申し上げます」


カイルは、間を置かなかった。


「この領地を通過する物資について――北側領への優先的供給をお願いしたい」


空気が、わずかに張り詰めた。


「具体的には?」


「鉛筆、紙、強化荷馬車の改修技術。それらを“通常価格”で、継続的に」


「……それは、要求か?」


「提案です」


カイルは笑った。


「我々は、貴領の発展を高く評価しています。

敵対する理由は、ありません」


ガルドは、視線を逸らさない。


「だが、見返りがない話ではあるまい」


「ええ、もちろん」


カイルは、そこで一拍置いた。


「通行税の優遇。そして――北側街道の“安全保障”」


その言葉に、同席していた近衛隊長の目が細くなる。


「脅しに聞こえるが?」


「いえいえ」


カイルは、肩をすくめた。


「北側は、通行税で成り立つ領地です。流れが変われば……色々と、起きやすくなる」


言外の意味は、明白だった。



沈黙。


その中で、領主はゆっくりと口を開いた。


「我が領地は、自由交易を基本としている」


「承知しております」


「特定の領だけを優遇するつもりはない」


「……そうですか」


カイルは、一瞬だけ表情を消した。


だが、すぐに元に戻る。


「では、条件を変えましょう」


「?」


「“技術そのもの”ではなく、完成品の一部。

 数量限定で構いません」


「……」


「貴領にとっては負担にならず、我々は“様子を見る”ことができる」


それは、譲歩の形をした“試金石”だった。



その時。


応接室の扉が、控えめにノックされた。


「失礼します」


入ってきたのは、メイヤだった。


「……話、聞こえちゃって」


領主が一瞬、目を見開く。


「メイヤ――」


「大丈夫。表には出ない話じゃないでしょ?」


彼女は、カイルを見た。


「商人さん。質問してもいい?」


「もちろん」


「“様子を見る”って、何を?」


カイルは、少し驚いた顔をした後、正直に答えた。


「この領地が、“どこまで本気か”です」


メイヤは、頷いた。


「なら、答えは簡単」


彼女は、静かに言った。


「私たちは、売るけど、縛られない」


カイルの眉が、僅かに動く。


「数量限定で、公開済みの商品だけ。登録済みで、誰でも正規ルートなら買えるもの」


「……つまり」


「特別扱いはしない。でも、拒否もしない」


一瞬の沈黙。


そして、カイルは――笑った。


「なるほど」


「それが、この領地の線引きです」


メイヤは言い切った。


「越えたら、分かる。越えなければ、問題ない」



応接室を出た後。


近衛隊長が低く言った。


「……踏み込んできましたな」


「ええ」


機構隊長も頷く。


「ですが、まだ“交渉”の範囲です」


メイヤは、窓の外を見た。


校庭で、子供たちが走っている。


「ここを守るためなら」


小さく、呟く。


「線は、私が引く」


その頃。


カイルは宿で、二通目の書状を書いていた。


一行目だけ、前回と違う。


『当該領地、交渉能力あり。指導者層に迷いなし。――正面からは、崩れない』


影は、さらに一歩、近づいた。


だが同時に――

この領地が、簡単には折れないことも、証明されたのだった。

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