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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者: 稔


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静かな遮断と海へ向かう視線

「……いよいよ、来たって感じかな」


メイヤは執務室の机に広げた地図を見下ろし、小さく息を吐いた。


北側ルート――事実上、途絶。


こちらからも、向こうからも。

書類上は何も変わっていない。正式な通達も、敵意ある言葉もない。ただ、流れだけが止まった。


様子見、ね。


完全に閉じてはいない。だが、開いてもいない。圧をかけるでもなく、譲歩を示すでもなく、ただ“動かさない”。


「……嫌なやり方」


一方で、東側ルートはどうか。


こちらは、むしろ潤っていた。


交易量は増え、価格も安定。

商人同士の揉め事も少なく、通行に関する報告も概ね良好。


「お互いに、得をしてる関係……だからこそ、壊される可能性もある」


独り言のように呟く。


北側が直接来ないなら。

横から何かされる可能性は、ゼロじゃない。


嫌がらせ。事故。通行許可の遅延。

理由はいくらでも作れる。


……となると。

メイヤの指が、地図の西側へと移動した。


「西……つまり、海」


あの件以来――

メイヤは、内政の合間を縫って漁村に足を運んでいた。


最初は、ただの雑談だった。


「今日はどうだった?」


「まあまあだな」


「沖の方、出たんですか?」


「ん?ああ、あそこら辺まで」


何気ない会話の中で、聞いた話。


小さな木造船。決して大きくない。

それでも――


「天気が良けりゃ、王都領の方が、うっすら見える場所まで行くぞ」


その一言に、メイヤは内心で固まった。


……え?


不可能じゃない。ただし、“近づきすぎると捕まる可能性がある”。


つまりそれは――距離の問題ではなく、立場の問題だった。


「正式に話を通せば?」


「そりゃあ、問題ないだろうな」


「じゃあ……」


道は、最初からあった。

使っていなかっただけで。


「船を作ればいいのよね」


口にすると、簡単に聞こえる。

けれど、メイヤは自分でも分かっていた。


大型船はいきなり無理。

設備も、資材も、人材も足りない。


「……でも」


前の世界での記憶が、ふと蘇る。


ボトルシップ。

小さな瓶の中に、帆船を組み上げる趣味。


帆の構造。索具の取り回し。船体のバランス。


「模型だけど……船は、嫌いじゃない」


幸い、領民募集の影響で漁民は増えていた。

操船に慣れた人材は、いる。


「最初は、小型」


高速で、軽く。航路確認と連絡用。

すでに、建造は始まっている。


「もう時期……完成」


まずは、航路の確立。次に、中型船。そして、条件が整えば――大型船。


「そうなれば」


王都からの製品が、直接入る。

誰かの顔色を伺わずに。


北が閉じても。東が揺れても。


「……逃げ道じゃない」


メイヤは、地図の海を見つめた。


「これは、選択肢」


選べる、ということ。

それ自体が、力だ。


窓の外では、港に向かう道を、荷車が静かに進んでいた。


日常は、まだ続いている。


だからこそ――次の一手は、静かに、確実に打たれようとしていた。


海は、ずっと前から、そこにあったのだから。

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