幕間3
その子供は死にかけていた。
少し前まではハアハアと荒い息を吐いていたが、今はそれもほとんど聞こえない。
クリスは少年の寝台の傍に置いた椅子に座っていた。
儀式に参加していなければ、少年を法術で癒せていたたことだろう。今のクリスは空っぽだった。力をほぼ全て魔術陣に吸い取られていた。それでもマシな方だ。命まで吸い取られた者が沢山出たのだから。
「そもそも儀式が無ければ君が召喚されることもなかったから、意味の無い話だな」
意識のない少年が聞いているはずもないのに、クリスは言葉を発した。
今頃グレンは筆頭宮廷魔術師に噛み付いていることだろう。グレンの横暴さには付いていけないが、今回ばかりは彼が正しい。
人身御供のような勇者召喚、それからその勇者すら犠牲にして力を得ようとする王族ども。
結局、力はその場にいた最もか弱き王族の少女を選んだ。
そしてその少女はエルフの賢者に連れ去られ、いや助けられた。
あのままあの場にいれば彼女は殺され、まだ生きている王族の誰かに力を奪われたことだろう。
城は大混乱になった。
ここは、王城近くの小さな教会の院長室だった。院長の仮眠用の寝床に彼は横たわっていた。塔から教会に繋がる隠された通路を通ってきた。院長は、自身は法術を使えないことを詫びながら、クリスと少年のために部屋を譲った。
クリスは少年を看取るためにここにいた。
それが何の償いにならないとわかっても。
彼のための最後の祈りを考える。
少年のことが何一つ分からないというのに。
いや、名前だけはわかる。でもそれだけだ。
クリスとてそのような看取りをしたことがないわけではなかった。
だが、彼は勇者として呼ばれたにも関わらず、力を奪われ、そうしてただ死んでいく。
あまりにも酷い。
いや、いま、この時代には酷くないことなどあるのだろうか。魔王が今しも世界を滅ぼそうとしている、いま。
扉が軽く叩かれる。
クリスは立ち上がると、扉に向かった。
いま、この少年を害する者はいないはずだが、誰かは確かめる必要があるとクリスは思った。
扉を薄く開くと、一人のもう若くはない修道女がいた。
それが誰かわかり、クリスは姿勢を正す。
「ダリナ様……! なぜこちらに」
「おしずかに。彼がいるのでしょう?」
「え、ええ……」
ダリナは優しく微笑んだ。
「彼を助けられるかもしれないの。入ってもいいかしら?」
「……っ! はい!」
聖女ダリナ。
四十年前、この国を救った女性。
彼女は異界から来たと囁かれてた。




