第77話 事件発生
お店を出て学園の寮に戻ろうと思ったものの、食べ過ぎてしまい、早く横になりたかった。
ここからだと、帝都の家の方が圧倒的に近い状態だった。
「今日は家に帰ろう……」
とにかく早く横になりたくて、私は早歩きで自宅へと向かった。
自宅のある通りまで来ると、通りの奥に黒い塊が横たわっているのが目に入った。
「あれ? なに?」
『亡くなられていますね』
「ぇ……」
『ドワーフの死体や』
『勉強会の時にクロエから話があっただろ、あれの被害者じゃないか?』
亡くなっているのなら、もうできることはないけれど……。どうすればいいんだろう?
「どうすればいいかな?」
『大声出して大人の人を呼びましょう』
「うん、わかった」
私は大きく息を吸って叫んだ。
「わ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
『ちゃうやろ! こないなときは“キャーーー”やろ!』
ミントから鋭いツッコミが入る。
「あ、そうなの?」
私は再び大きく息を吸って叫んだ。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
『言い直さんくてもええやろうに……』
『ックックック、とりあえず叫びました感が半端ないな』
『ッフッフ、ですね、何の感情もこもってない悲鳴でしたね』
グレンとアクアは笑っていた。
……どうしろと。
そんなことを思っていると、私の叫びを聞いた大人たちが駆け寄ってきた。
「嬢ちゃん、どうした!?」
「あれ……」
私は通りに横たわる黒い塊を指さした。
「ありゃ……」
「またか……」
その後、大人の人たちは衛兵を呼びに行ったりと、素早く動いてくれた。
「あれって、例の通り魔事件なの?」
『えぇ、目撃していた子の話では、いきなり背後に現れてメッタ刺しだったそうです』
ああ、辺りを漂っていた水の子が目撃していたのか。
“いきなり背後に”って、どういうことだろうか?
そんなことを思っていると、近くに光の球を浮かせた女性衛兵が、私の方へと寄ってきた。
彼女は私の目の前で腰を落とし、目線を合わせて話しかけてきた。
「あなたが第1発見者?」
「はい」
「制服を見ると、アカデミーの生徒さんよね?」
「はい、1年S組のラミナです」
「へぇ~、1年生なんだ。ここには何できたの?」
「あそこが私の家なんです」
私は自宅を指さして答えた。
「ああ、なるほど。週末だし、自宅に帰るところだったのね。一応、学生証見せてもらってもいいかな?」
「はい」
カバンから学生証を取り出して渡した。
早く横になりたかったけど、こんなことに巻き込まれて、それどころじゃなくなってしまった。
「うん、間違いないね。ありがとう。犯行現場って見てないよね~?」
私は学生証を受け取り、鞄にしまった。
これはどう答えればいいのだろうか?
水の子が目撃しているけれど……。
「アクア、どう答えればいい?」
『人相書きなら出来ますよ』
「アクア? 誰と話しているの?」
女性衛兵が不思議そうに尋ねてくる。
「精霊さんです。水の精霊さんが目撃してて、人相書きならできるって言っています」
「へ?」
「紙とインクがあれば描けます」
「紙とインクがあればできるのね。ちょっと待っててね」
女性衛兵は仲間のところへ駆けていった。
そのとき、鞄の中に紙とインクが入っていることを思い出して、私はそれを取り出した。
「アクア」
『えぇ、いつものように紙を撫でてください』
アクアの指示に従い、紙の表面を撫でると、一人の男の顔が浮かび上がった。
ちょうどその時、女性衛兵が紙とインクを持って戻ってきた。
「あれ? 持ってたの?」
「すみません、鞄の中にあったのを忘れていました」
「そっか」
私は描き終えた紙を彼女に手渡した。
「あ~……影渡りのジャックか~」
どうやら心当たりがあるようだった。
「知ってるんですか?」
「うん、メレス王国の方で騒がれていた殺人鬼なんだけどね。そっか、向こうでの話を聞かなくなったと思ったら、こっちに来てたのか~」
「そうなんだ……」
精霊たちなら、なんとかできないのかな?
「とりあえず、ありがとうね。あなたはもう帰っていいよ」
「あっ、はい」
私は、死体を検分している衛兵たちの横を抜け、自宅へと戻っていった。
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