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第74話 グレンの失敗?私の失敗

 放課後


 帝都北の砂浜で、ハンゾーとミラを待ちながら準備運動をしていると、


『ラミナ』


「うん?」


 グレンが話しかけてきた。


『感覚共有するが良いか?』


「うん、いいけど?」


 今まで確認をしなかったのに、なぜ今回は確認をとったのだろうか。


『俺の走る感覚を再現するように走ってみてくれ』


「うん」


 味覚の共有はよくあるが、走る感覚を共有するのは初めてだった。


 そもそも精霊たちでも走れるのだろうか?


 グレンが宙を走るような動きを見せた瞬間、その感覚が伝わってきた。


 地面に足がついている感覚はないが、腕の振りや蹴る感触などはしっかり伝わる。


 その感覚を頼りに砂浜を走ってみると、微妙にズレを感じた。


 何度か往復しながら修正していくと、


『だいぶまともになったな』


『そうですね』


『走り方の基本はその感覚でいい。次はだ』


「次?」


『あぁ、身体強化だ』


「身体強化?」


『先日ハンゾーが見せていた動きを思い出してくれ』


 印象に残っているのは、ジョーイを吹っ飛ばしたあの動き。


「あ、ダッシュって言ってたやつ?」


『そうだ。今の走りと身体強化を組み合わせれば、あの動きに近づける』


 あのとき言っていた「強化」は、これのことか。


「誰でも使えるの?」


『あぁ、獣人たちは属性魔法を使う者が少ないが、ほぼ全員が身体強化を使ってくる』


 ジョーイも使っていたのだろうか?


「ジョーイも使ってた?」


『上手くは使えてなかったように見えたな。弓を引く時だけ使っていたようだった』


「そうなんだ」


 使いどころってものがあるのかもしれない。


「それで、どうやればいいの?」


『簡単だ。走ったとき、どうすればもっと速く走れると思った?』


「地面を蹴る力?」


『そうだ。その部分が強くなれば、一歩が大きくなる』


「あぁ、なるほど」


 今までの経験からすると、イメージが重要なのかもしれない。


「イメージすれば使えるの?」


『イメージは大事だが、どこをどう強化するかを考えるんだ』


 まずは軽く走ってみる。地面を蹴る際には、太ももやふくらはぎの筋肉が働いている気がする。


 次にその場でジャンプして確認。太ももやふくらはぎ、足の筋肉も使われている。


 この動きを強化すればいいのかな。


「どこをどうすればいいかはイメージできたけど、この後どうすればいいの?」


『そのイメージを持ったまま走ってみろ。魔素が必要な箇所をアシストしてくれるはずだ』


 そんなもので強化できるの?と思いながら走ろうとした瞬間、


『あかん!』


 ミントの叫びが聞こえた。次の瞬間、左足で地面を蹴っていた。


 視界が一気に地面から離れ、木々が猛烈なスピードで後ろへ流れていく。右足を着くはずが、空を蹴ってしまう。


「うわぁぁぁぁぁぁ~~~~~」


『まん丸!』


 アクアの叫びと同時に、前方に薄い砂の壁が数枚現れ、私はそれにぶつかりながら地面に落下した。


 砂の壁にぶつかった痛みは大したことなかったが、着地は顔から砂へダイブする形となった。


「いたたた……」


 痛む場所をさすっていると、目の前にグレンが現れる。


『すまん、ラミナの魔素量を考慮していなかった』


『グレン、リタのときにも同じミスをしていたでしょう?』


『わりぃ……』


『ラミナ~大丈夫~?』


 先祖も同じ目に遭っていたのかと思うと、思わず笑ってしまった。


「あはは」


『なんや、頭打ったんか?』


『顔から突っ込んでいましたからね……』


『いや、リタの失敗を想像したみたいだ』


 感覚共有したままだったグレンには、私の想像が伝わっていたのだろう。


『あぁ、なるほど』


『想像できたわ』


 しばらく笑った後、立ち上がって服についた砂を払い落とす。


「ラミちゃん大丈夫~?」


 気づけば、ミラとハンゾーが近くに来ていた。


「あっ、ミラ先輩」


「顔から砂浜に突っ込んでいたが、何をしていたんだ?」


「身体強化を試してみたら、ちょっと転んじゃって」


 言葉にしてから思った。


 転んだ? 正確には“飛んじゃった”が正しい気もするけれど。


「ラミちゃん、もう身体強化使えるんだ~」


「もう?」


 ミラの言葉に少し引っかかる。


「身体強化は一年の終わり頃に実技で習うんだよ」


「あ、そうなんだ。グレンから今教わったばかりで……」


「“今”ってことは、強化しすぎて失敗した感じかな?」


 強化しすぎの失敗、あるあるなんだろうか。


「よくあることなんですか?」


「まあ、魔素が多いやつはだいたい何かしらやらかしてるな」


「だね~。私も最初は一歩が思ったより大きくて転んだし~」


 ミラも経験者だったようだ。


 あんな高速で吹っ飛ぶほどではなかったみたいだけど、同じような失敗談に安心した。


「そうなんですね」


「身体ほぐしが終わってるなら、早速始めようか」


「はい、お願いします」


 その後、ハンゾーがやられ役として、ミラと共に技の手本を見せてくれた。


 グレンもミラの動きを真似しながら、感覚的な動きを共有してくれ、それをもとに2時間ほどミラ相手に練習した。


「かなり筋が良いな。数回で技を覚えるとは」


「ハンゾー先輩の教え方がうまいからです!ありがとうございます!」


 グレンの感覚共有も大きかったと思う。


『リタもそうやって剣術を覚えてましたしね』


『あいつは負けず嫌いだから、成長も異常だったな』


『せやなぁ』


 先祖の成長速度は、なんとなく想像できる。


「日も落ちてきたし、今日はここまでにしよう。週末はどうする?」


 キラベルでの実験も考慮すると、週明けまでの3日間は確保しておきたい。


「火の日からでもいいですか?」


「ん、光の日は?」


「キラベルでオーク退治しておきたいので」


 退治というより、実験だ。


「構わない。時間があったら身体を動かすのは忘れるなよ」


「はい!」


「んじゃ、ラミちゃんまた来週だね~」


「ハンゾー先輩、ミラ先輩、ありがとうございました!」


 2人に向かって頭を下げる。


「あぁ、またな。良い週末を」


「じゃ~またね~」


 ミラが手を振り、ハンゾーとともに帝都へと戻っていった。


「じゃあ、私たちも戻ろっか」


『せやな、ラミナお疲れさん』


『よく頑張りましたね』


「うん、みんなありがとうね」


 私もポーションの納品のため、帝都へ向かった。


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