第64話 救助依頼
午後の授業を終えた私は、帝都北部の砂浜に先に到着して、ハンゾーとミラが来るまでの間、基礎トレーニングとして砂浜ダッシュをして待っていた。
「体力は十分だな」
何十往復しても汗ひとつかかず、息も乱れていなかった私を見て、ハンゾーはそう判断したようだった。
「体力には自信あります!」
「そうか、ならばミラが来るまで筋トレするか」
ハンゾーの指導のもと、スクワットを繰り返していると、慌てた様子でミラが砂浜を駆けてきた。
「ハンゾー! 救援依頼!」
「地下都市か?」
「そう、60層のセーフティエリア! 錬金科の子と騎士科の子が一緒にいるみたい!」
ハンゾーとミラのやりとりを聞きながら、私はその内容を整理しようとする。
「救援依頼ってなに?」
『ダンジョン内で後にも先にも進めなくなったときに助けに来てほしいって依頼です』
「けが人が出ているって事かな?」
『ケガで済んでればええけどな』
「どういうこと?」
まさか……と嫌な予感がよぎる。
『そういうことだ。ダンジョン内は罠や思わぬ魔物なんかで、いつ死んでもおかしくないからな』
『せやな』
精霊たちのやりとりを耳にしながら、私はふたりのやり取りを見守っていた。
「ロックはキラベルに行ってたな。今からヒーラーを探すのか?」
「そうなるかな……」
ヒーラー……もしかして——。そのとき、ふたりの視線がこちらに向いた。
「ラミちゃん! ヒール系使える!?」
「えっと、アクアヒールとかなら……」
「冒険者ランクは!?」
「えっと……」
キラベルで冒険者カードをもらってから、鞄に放り込んだままだった。
すぐそばの鞄からカードを取り出して、ハンゾーに差し出す。
「Dです」
「ギリギリ行けるね!」
「そうだな。ミラ、クロエ先生か副学長に事情を説明して許可をもらってこい。自分は冒険者ギルドに申請してくる」
「わかった! 終わったらダンジョンの入り口で合流ね! はい、これ」
ミラはそう言って、自分の冒険者カードをハンゾーに渡した。
「ラミナの分も預かっていいか?」
「はい」
「すまない、借りていく」
そう言った次の瞬間、ハンゾーの姿がふっと消えた。
「私たちも行こう!」
ミラが駆け出し、私もすぐにその後を追って走り出す。
「先生に何を言うんですか?」
「許可だよ。最悪、明日の授業を休むことになるからね」
「はぁ、なるほど……」
とりあえず返事はしたけど、ダンジョンそのものが初めてなので、正直よく分かっていなかった。
『余裕やろ』
『だな。分担はリタの時と一緒で良いか?』
『私は問題ないですよ』
『うちもええで』
『なら決定だな』
……寝てるまん丸の意思確認は、やっぱりしないんだな。
精霊たちは私よりも、ずっとやる気満々みたいやけど……。
その後、ミラと一緒にクロエを探していると、基礎学級クラスの職員室近くでようやくクロエの姿を見つけた。
「クロエ先生!」
「ミラか。ラミナも一緒か。どうした?」
「地下都市ダンジョンの救援で、ヒーラーがいないので、ラミちゃんを連れて行きたいんですけど……いいですか!?」
「ふむ。ラミナはいいのか?」
クロエは少し考えるそぶりを見せながら、私を見て確認してくる。
「はい、力になれるなら」
「実力は申し分ないだろうし、本人が良いというなら構わない」
「ありがとうございます!」
ミラがぺこりと頭を下げてお礼を述べる。
「えっと、ありがとうございます?」
私はお礼を言う場面か分からず、疑問形で口にしてしまった。
「おまえに心配は無用だろうが、気をつけて行けよ」
「はい!」
「急ごう!」
「えっと……何か必要な物ってありますか?」
「大丈夫! 救援みたいな緊急クエストはギルドから支給されるから、ハンゾーが持ってきてくれるよ。私たちはすぐダンジョンの入り口に向かえばいいの!」
はぁ、そうなんだ……。と内心で思いながら、私はミラの後に続いた。
学園の敷地内にある地下へと続く階段を延々と降りていくと、地下とは思えないほど広い空間に出た。青白い照明が点々と灯されており、辺りをぼんやりと照らしている。
そこには、なんと地下であるにも関わらず、崩れた家々が立ち並ぶ町が広がっていた。
先ほどハンゾーが「地下都市か」と言っていた理由が、ようやく分かった。
「ここは……」
「スペルン王朝時代の遺跡だよ。こっち!」
『先住民達の拠点だった場所です』
「へぇ……。遺跡っていうより、かなりボロボロだね」
実際、以前見たスペルン遺跡と比べると、家屋も道路も崩れていて、管理されている様子がなかった。
『ここは誰も管理してませんし、あちらはまん丸達が手入れしていますからね』
『せやなぁ。家は住む人がおらんようになったら、あっという間に朽ちてまうからな』
「はぁ……」
青白い街灯に照らされる荒廃した町並みを横目に、私はミラの後を走った。
しばらくして、ハンゾーが大きな荷物を足元に置いて待っていた。
「ごめん、お待たせ」
「いや、いい。先生の許可は問題なかったか?」
「すんなり下りたよ」
「そうか」
「被害状況は分かった?」
「あぁ。Aランクが1人、B・C・Dランクが8人。うち1人死亡、Aランクの1人を含む2人が重傷だそうだ」
「結構ヘビーだねぇ~。ってか、そのランク構成で60層って無謀だね~」
『まぁ、そんなもんやろ。せやから進まれへんし、引き返すこともできへんのやろ』
3人が戦闘不能ってことは、残り5人だけ。……それで60層に挑んでたなんて、正気とは思えないレベルなのかな?。
「あっ、先輩。私が荷物、持ちます」
「ん? 重いぞ?」
「大丈夫です」
ハンゾーの横に置かれていた物資に触れて、それをマジックバッグに収納する。
「マジックバッグか」
「いいな~、うらやましい~」
「いつか自分で手に入れればいいだろう」
「だね~」
そんな会話を聞きながら、私はふたりの後をついて行った。
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