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39.鑑定結果

「それで、一度預かったわけだな?」


「はい、咄嗟に見るって言っちゃったからには……やっぱり無理ですとも言えないかな、と……」


 おじいちゃんが帰ってくるなり、商談部屋に直行した私たち。

 今しがた事の経緯を話し終えたところだ。ランスの魔石店に立つ時間は減っても、この店の主はおじいちゃんだ。まずは鑑定云々よりも私の行動の是非についてお伺い中である。


「まあいいんじゃないか?向こうも変な要求をしてることだし、一日預かりくらいが妥当だろう」

「えっ!やった。今回はお咎めなし?」

「今回は、だからな。何度言ったかわからんが、お前は魔石への興味を抑えることから始めなさい」

「はーい」


 何度言われても、どうしてか直らないこの衝動。魔石が関わってくると、どうするべきか考えている途中で、魔石が見たい、触りたい、削りたいの衝動が口や行動に出てしまうのだ。

 素直に生きることを大事にしてきた結果だと思おう。きっと衝動は気を付けても直らない。


「で、お前の見立てはどうなんだ?」


 私はショーケースに入った、黄色の魂石2つを見つめる。私にとってはじめて出会う魂石。


「魂石自体は美しいけれど、色味自体がレアでもなく、魔力含有量も低い。魂石の最低取引価格が1万ジェムだとして、5割上乗せが妥当。私だったら、1万5千ジェムで買う」


「気持ちはわかる。でも他所の魔石店なら1万3千ジェムだな」

「あんなに綺麗なのに……」


 正直自分の気持ちとしては、1万5千ジェムでも安いと思う。色味がレアだからとか、そんなの関係なしに鑑定したいくらいだ。だって、魂石はその人が生きていたという証じゃないか。


「まあ、あの透明度は、本当に心の綺麗な人間だったんだろうと思わざるを得ないな。俺もあんな綺麗な魂石は初めてだ」

「じゃあなんで、もっと付加価値をつけないのかな」

 心が汚くて、濁った魂石にも1万ジェムを払わなければならないのに、なんか不公平だ。


「透明度に対して付加価値を付け始めたら、赤子の魂石が出回るからだろう。世の中を知らない子供の魂石は綺麗らしいぞ」

「ああー。気持ち悪い話聞いちゃったな」


 自分の考えが浅はかだったか、とも思うが、そんなことを思いつく大人がちょっと嫌だ。私も成長していくにつれて、そんな考え方をするようになるのか。こういう考えが瞳を濁らせていくのかもしれない。

 でも透明度に付加価値をつけられないのだから、その程度の値段になるってことをこの魂石の持ち主に伝えなくてはならない。売る気はないとは言え、なんだか残酷な真実だ。


「でも、ツィエンは、魂石の価値を高める技術を持っている」

「……研磨か!!」

 なんと盲点だった!と思って勢いよく椅子から立ち上がるも、別にこの依頼主は売る気はないのだから、研磨なんか望むわけないことに気づいて項垂れる。


「依頼主売る気ないんだよ~……価値を聞きたいだけなんだって」

「何故鑑定結果だけを聞きたいのか。それを聞いたらいいじゃないか。魂石を手放すかどうか迷っているだけかもしれんぞ」


 まずは、顧客を知ること。こちらから質問して、答えたがらないような話は、大体裏がある話なんだから、そこも見極めなさい。お前はもう一人前も近いなあと思ったが、女性客以外への接客はからっきしだな。


 おじいちゃんにそう言われて迎えた本日。

 人のプライベートに立ち入るのはあまり好きじゃないので、質問するのは苦手だが、商売とあっては仕方がない。


 昨日の今日で、依頼主は来るだろうかと、いつもよりそわそわとして店番をしていると、ついに彼はやってきた。また、申し訳なさそうなベルを鳴らして。


「ツィエンさん~……いますか~……」

「あ!お待ちしておりました!鑑定結果、でていますよ」

「わあ!早い!ありがとうございます!」


 にこーっと笑った依頼主は、ズボンのポケットから、くしゃくしゃの預り証を取り出した。


「ところで、こちらの魂石、どうして売る気はないのですか?」


 そう質問すると、男は寂し気に笑って、預り証を渡そうと伸ばしていた腕を引っ込めた。


「ああ、えーと、大した話ではないのですが……。亡くなった妻は病気がちで、薬代もかかっていたから、うち、切羽詰まっているんです。子供も小さいし……生活費の足しに、と思って初めは魂石を売ろうと思っていたんです」


 今まで相当気持ちを抑え込んでいたのか、男はせき止めていた堤防を取っ払ったかのように次々に話し始める。


「村の近くの街で売ろうとしたら、この魂石には1万3千ジェムが妥当だと言われました。初めは妻の……妻がそんな安いわけないって信じたくなくて……。でも次に行った魔石店も同じことを言われたんです。その日は家に帰って一日泣きました。そうしたら、息子に言われたんです。ママのこと売らないで一緒にお家にいさせてあげようよって……」


 私は、男の涙に喉奥が苦しくなった。私の瞳には涙は流れていないけど、喉の奥からじわりと苦しい何かが漏れ出しているかと思うほどに、痛くて苦しい。


「生活は苦しいけど……息子もああ言っていますし、売るのはやめようかな、と思っているんです。でも生活がいぱいいっぱいなのは事実で……なかなか決められなないので、街の噂で聞いたこの店で鑑定してもらってからにしようと思って……へへへ、すみません女々しくて。だから、もう安いのは承知の上なんです。だから、こちらのことは気にせず、鑑定結果を教えてください」


 私は、真剣な表情で彼を勇気づけて、別の方法を提案するつもりだった。それなのに、もらい泣きを必死に食い止めようとしたせいで、うまく言葉にできず、ちょっとおかしなニュアンスになる言葉が出てきてくる。


「それ、しか出せないんですね。うちでは、もっと高く売ることができるのに……」

「ええっ!?それは、本当ですか!?」


「ええ、お任せください。この魂石のひとつはお返しします。そのままお持ち帰りを。こちらの魂石ひとつを自由に加工することを承諾してくださるのならば、ひとつ1万3千ジェムの魂石を倍値にしてみせましょう」



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