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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十九章 帝国崩壊の余波

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日誌 第二百八十五日目

六月二十八日。

実にいい天気に恵まれ、空を見上げる。

「ふう……。なんとかなったなぁ……」

思わずそんな言葉が漏れてしまった。

「何を言っているんですか。挙式が終わっただけですよ。まだ披露宴が残ってます」

僕の後ろでそう言って来たのは、東郷大尉だ。

もっとも、今日は軍服ではなく黒地の落ち着いた模様のついている和服を着ているのだから、東郷さんと言うべきかもしれない。

いやいや、ここは夏美さんと言うべきだろうか。

なんせ、二日前の夜、僕は彼女に告白して正式に付き合うことにしたんだから。

しかし……、今思い出してももう少しかっこいい言い方はなかったんだろうかと思ってしまう。

あまりにもストレートすぎる気がするんだよね。

ドラマとか恋愛小説みたいな、後から思い出したら、布団の上を転げ回るような言い回しはさすがに勘弁だけどさ……。

なんかこうね……

うーん…。

こんな事なら、的場大佐辺りにどう言って告白したのか聞いておけば良かったかも…。

一応、恋愛に関しては、彼の方が先輩だし……。

そんな事を思いつつ、後ろを振り返って答える。

「いや、緊張してたんだよ。本当に…」

僕がそう言うと、呆れたような顔をした後、「進行も全て他人任せでそこにいただけなのに…」なんてぶつぶつ言い始める。

「そんなに言わないでくれよ」

「仕方ないですね…本当にもう…」

そんな事を言いつつも、夏美さんは笑って僕の右手を取ると前に出て引っ張り始める。

「そんなに急がなくても時間は大丈夫だよ」

「何を言っているんですか。次こそが貞道さんの出番じゃないですか。さっさと行って心の準備をしておきましょう」

「まぁそうだよね。ああ……なんで引き受けちゃったんだろう……」

「もうしっかりしてください。ほらっ、ここ皺になっているっ」

白い軍服のすそを延ばしたりと甲斐甲斐しく世話を焼く夏美さんに僕は苦笑するしかない。

以前からその傾向はあったが、告白してからというものより世話を焼くようになった気がする。

まぁ、それは嬉しいんだけど、その変化は誰でもわかるらしく、会う人会う人から「ついにですか」とか「やっとですか」とか「ますます尻に敷かれてますな」とか言いたいように言われてしまっている。

夏美さん的には、そう言われて少し恥ずかしいもののうれしい気持ちの方が大きいらしく、照れ笑いをしたり含み笑いをしたりといった上機嫌な対応をしていたりする。

よっぽど待ってたのかな……、これは……。

ごめん。すぐに言えなくて……。

ヘタレな自分に自己嫌悪してしまうが、そんなことを思っている間に控え室にたどり着いた。

結構余裕を取ってあるのだろう。

時間はまだかなり余裕がある。

まぁ、トラブルがつきものではあるから、余裕がないとねぇ。

それはそうと挙式は神社で行う日本で言う神前式みたいな感じで、質素な感じだがそれでいて奥ゆかしさを感じられるいい式だった。

男性は、紋付袴みたいな格好か軍服で、女性は和服というか着物に似た服を着ている。

質素で穏やかなのは、特に最近の派手な結婚式ばかりを知っている僕としてはかなり新鮮で、こういうのも良いなぁと感じてしまう。

ちなみに、東郷さんが目をきらきらさせて興味津々といった感じだったのは中々可愛かったが、それを口にするのはなんか雰囲気的にどうなんだろうと思って、黙ってちらちらと見て楽しむ程度にしておいた。

ただ、それでもちょっとどうかなと思った問題があった。

その問題点は、披露宴と式場が遠い事だろうか。

もっとも、バスが用意されていたからそれほど時間かからないし、参加人数も親族と特に親しい友人や上司といった感じで人数制限がある為、バス一台でも十分だった。

だから、それほど気にする必要はないのかもしれない。

なお、披露宴が始まる前に、きちんと的場、杵島両家の家族にもお会いし話もした。

式場ではみんな緊張していたんだろう。

挨拶を交わすぐらいで、時間的にも心情的にも余裕もなかったので仕方ないといったところだろうか。

杵島中佐の方は、兄と母親の二人だけで普通に問題なかったのだが、的場大佐の家族、ご両親と祖母にかなり感謝されてしまった。

どうやら息子につきまとう噂をかなり気にしていたらしい。

自分達のせいで息子が肩身の狭い思いをしていないかと。

しかし、そんな噂に関係なく、僕が彼を信じて任命してくれたおかげでその噂も下火になっているということだった。

それどころか、帝国艦隊との一大決戦を映画化(映画、第二弾として公開。かなり脚色しているが、実際に戦いがあった事は情報公開されており、国民は皆知っている)したため、救国の英雄とまで言われているようだ。

だから、土下座する勢いで頭を下げられてしまい、なんとかそれらしい事を言わねばと思って言葉を選んだつもりだった。

「それは本人の努力の結果ですよ。僕は機会を与えただけです」

少し偉そうではあるが、上司としてはこう言った方がいいかなと言う事で発言したんだけど、それが火に油を注いだようだ。

的場大佐の両親はますます感動して泣き始めるは、祖母が大泣きして抱きつかれるわで大変な目にあった。

もちろん、そんな混乱の事態を収めたのは、僕の頼れる秘書官であり、自慢の彼女の夏美さんで、本当に感謝しています。

まぁ、そんな的場大佐の家族の反応に嬉しい反面、勘弁してくれと思ったのは秘密だ。

本当に、そんなに大した事はしてないんだって……。

もっとも、夏美さんにはばれていたようで、「貞道さん、すこしめんどくさいと思っていたでしょう?」と囁かれ、僕は苦笑するしかなかったのだが……。

そんな感じでいろいろあったものの、時間がきて無事披露宴がスタートした。

披露宴の方は、杵島中佐の希望もあったのだろう。

洋式の今の結婚披露宴に近いものであった。

花婿の的場大佐の軍服姿はそのままだが、花嫁の杵島中佐は、和服から、ドレスへと変わっている。

白い色をメインに、所々にアクセントとしてベージュの色があるが、間違いなくウェディングドレスでした。

どうやら、海外からの雑誌や本などから情報を仕入れたのだろう。

もしかしたら、僕の世界での結婚披露宴の情報もあったのかもしれない。

(僕の世界の常識や知識を知ってもらうために、夏美さんや一部の人達には、雑誌や本、映像などを提供していたりする)

だから、フソウ連合ではかなり斬新な、僕の世界から見たら当たり前の姿である。

披露宴に参加した女性陣の熱のこもった視線から、多分、これからこういった感じのが流行りそうだよなと思ってひょいと横を向くと、周りの女性に負けない、いやそれ以上の熱い視線を送っている僕の彼女の姿があったわけで……。

うん。

多分、僕もこんな披露宴やることになりそうだ。

間違いなく……。

覚悟が必要だ。覚悟が……。

心構えだけはしておこうと思う。

だって、結婚披露宴って、主役はやっぱり女性だからねぇ……。

そんな事を思っている間にも、披露宴は問題なく進行していく。

実に進行の手際がいい。

やっぱりプロは違うな。

その為だろうか。

緊張を押さえつけて心構えをする前に、上司からの言葉となってしまった。

嘘だろう?!

勘弁してくれと思ったものの、出ないわけにはいかず、名前を呼ばれて前に出る。

うわーっ……。

みんなの視線がすごく痛い。

どっと汗が出る。

なんかもうね、心境としてはこのまま帰りたいって感じ。

今まで似た様な事はあったけど、その時は軍人と言う仮面をかぶってやっていたから、緊張しなかったわけではないがここまで極端に緊張する事はなかった。

私人としての自分の肝っ玉の細さというか、度胸のなさを実感させられる。

ごくりっ。

口の中にたまった唾を間見込む。

全員かぼちゃだ。かぼちゃ……。

人と思うから緊張するんだ。

かぼちゃだ……。

そんな風になんとか自分を思い込ませ、なんとか懐にある原稿を取ろうとしたときだった。

視線の中でも特に強い視線を感じた。

思わずそちらに目をやる。

その視線は、夏美さんだった。

その目には、頑張ってという僕に対する思いがこもっていた。

そして後ろの方からも強い視線を感じて後ろを見ると、的場大佐と杵島中佐の視線があった。

他の好奇心丸出しの視線と違い、僕を信頼している視線だ。

まるで支えられているかのようだな……。

それですとんと心の中で何かが変わった。

取ろうとしていた原稿を戻す。

何を硬く考えているんだ。

思った事を口にすればいいじゃないか。

そう思考が動き、ふーっと息を吐き出し、僕は口を開いた。

「えっと……。こういうスピーチは苦手なので、所々聞き苦しいところがあるかもしれませんがその点は、聞かなかった事にして流してくれるとありがたいです」

そう言って笑って後ろの二人に視線を向ける。

「あ、心配しなくてもいいよ、お二人とも。ここにいる皆さんが期待するようなへんな失敗談や話はしないつもりだから。安心して泥舟に乗った気でいてください」

そう言うと、二人が苦笑し、会場から笑い声が漏れた。

会場の雰囲気が変わったような気がする。

こうして、僕はスピーチを始めた。

原稿に頼らない、自分の二人に対する思いを自分の言葉で……。


時間にして五分程度だろうか。

持って来た原稿を見ることもなく、スピーチと言うかトークが終わり、僕は最後に「この二人に幸があらん事を。お幸せに…」と言って話を締めた。

ふう……。

終わった。

肩の荷が下りた。

そう思った瞬間だった。

会場から拍手が沸き起こる。

いや、そんなすごい事は言ってないんだけどなぁ……。

そう思ったものの、拍手に軽く答える。

なんかそうしないといけないという感じだったからだが、それでますます拍手が大きくなったのは予想外であった。

いや、そんなに感動する話してないよ?

いい話と言うか、ざっくばらんに言うと冗談を混ぜながらの人物紹介しただけなんですけどね。

だが、こういった場合、堅苦しい話が相場らしく、あまりにも今までの披露宴とは場違いの僕のトークに度肝を抜かれるのと同時に杵島中佐の提案した新しいタイプの披露宴がマッチして自分達の時もこういう感じでやりたいとかなりの人達が思ってしまったらしい。

その結果、杵島中佐が提案した洋式の披露宴はこの披露宴会場のお勧め披露宴の方法として大人気になり、さらに僕のところにはしばらく仲人希望の話が幾つか舞い込む事になってしまうのであった。

なお、仲人の依頼は、仕事を理由に丁寧にお断りいたしました。

そう、何度もあんな緊張する事をしてたまるかっ。

本音はそういったところですが、建前は大事ですからね。

本音と建前はきちんと使い分けないとね。

ちなみに、二人の失敗談や大慌てする話は、友人代表として話した夏美さんや最上がばっちりやってくれたので、比較的冗談交じりに当たり障りのない事を言った僕は悪くないです、はい。

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