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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十九章 帝国崩壊の余波

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フソウ連合海軍の飛行機事情

「各機聞こえているか?今回は楽しみにしていた実弾訓練だ。しかも鍋島長官のおかげでだ。だがな、いいか、いつもより良いところを見せようとは思うな。いつも通りにやって、いつも通りに命中させろ!それだけだ!」

航空母艦翔鶴所属106攻撃隊の隊長である森川少尉は自分の率いる部隊の各機に檄を飛ばす。

それに答えるかのように二番機以降の九九艦爆が翼を振っている。

それを確認し、森川少尉は命令を下す。

「それじゃ順に攻撃を始めろ」

その命令にあわせるかのように二番機から順に降下を始める。

もっとも、最初は二十度程度の浅い降下(緩降下)だが、ある程度の高度まで下がるとダイブブレーキを開き、降下角を一気に六十から五十までにする。

俗に言う急降下爆撃である。

急降下爆撃の利点は、水平爆撃よりも命中率が極端に高いことが上げられる。

セイロン沖海戦では、日本海軍の急降下爆撃の平均命中率は80%超に達していたという。

しかし、その反面、デメリットもある。

水平爆撃に比べて貫徹力が低くダメージを与えにくい事であり、離脱の難しさや被害が大きくなりやすいという点であろう。

また、投弾方法も、単縦陣に連なって順次急降下・投弾する方法と全機が一斉に急降下する方法である。

これもそれぞれメリット・デメリットがある。

単縦陣に連なって順次急降下・投弾する方法のメリットは、後続になればなるほど命中率が上がるのだ。

要は、前の投下結果を見て修正していくわけだから、命中率が上がるのは当たり前である。

そして、デメリットは、まとめて撃墜されやすいという事である。

それはそうだろう。

なんせ一列で一直線に降下してくるのだから…。

次に全機が一斉に急降下する方法のメリットだが、これは被弾率が前者に比べて格段に低くなるという事だ。

一斉にいろんな方向から一気に攻撃された場合、防御する方としてはたまったものではないだろう。

そしてデメリットは、命中率が個人の技量に左右されてしまうという事になる点だろうか。

なお、前者の単縦陣に連なって順次急降下・投弾する方法は、日本海軍が太平洋戦争前半に多用した方法だが、被害がでかくなったため戦争後半は全機が一斉に急降下する方法に切り替わっている。

ちなみに、フソウ連合では敵の防空能力がほとんど皆無と言う事で、単縦陣に連なって順次急降下・投弾する方法をメインとして採用している。

もっとも、敵に航空戦力が現れたり、防空能力が向上された場合は、全機が一斉に急降下する方法に切り替える予定だ。

実際、今回の演習では、両方の方法で急降下爆撃が実施される。

より違いを明確にする為だ。

しかし、独特の甲高い音を立てながら九九艦爆が一気に降下する様は、攻撃される側、それも何も知らない人々から見たらから恐ろしいものだろう。

そして、そんな九九艦爆の目標は、前回の実弾訓練で使われたアイオア型と大和型各一隻だ。

前回の実弾訓練で破損した部分は修理してあり、防備だけなら実物とほぼ変わらないし、なにより動いている。

それにより難易度はかなり高いがより実践的だ。

また、少しはなれた海域では、雷撃隊が金剛型戦艦を標的に実弾訓練を行っており、こちらも動く目標に向っての攻撃である。

これは、将来的には航空戦力が勝敗を握るという鍋島長官の考えからより細かなデータ収集を行う為にと言う名目で行われている。

この世界に飛行機という存在がない為なのか、飛行機を有効活用しているはずのフソウ連合でさえ飛行機軽視の考えが大部分を占め、こんな飛行機の訓練に標的艦を使うなら、砲撃戦の訓練をすべきだという意見も多かったのだ。

しかし、鍋島長官はそれを押し切ってデータ収集の為と言う理由をつけて今回の航空機による実戦に近い実弾演習を実施するにいたっている。

それを、一航戦(第一航空戦隊の略)の面子はわかっており、だから、どうしても熱くなってしまうのだろう。

端から見ていても、各機の気合の入り方が違う。

「仕方ねぇなぁ…。本当によ…」

その様子を見て、そう森川少尉は呟く様に言った後に苦笑した。

「でもよ、そういうのは嫌いじゃねぇぜ」

要は、森川少尉も熱くなってしまっているだけなのだ。

彼は最後の部下の後に続くように機体を降下させていく。

極上の笑みを浮かべたまま…。


「なかなかやるじゃないか…」

報告書を見た鍋島長官が思わずといった感じで声を上げる。

彼の手には、航空機による攻撃に関する報告書が握られており、その驚くべき結果に驚愕してしまった。

急降下爆撃命中率は、単縦陣に連なって順次急降下・投弾する方法では実に60%以上、全機が一斉に急降下する方法でさえも40%を超えている。

また、雷撃の方も50%近い命中率だ。

これは訓練とは言えかなり優秀と言っていいだろう。

砲撃での命中率が5%前後であるという事を考えると、航空機による攻撃はかなり優秀となる。

結局、攻撃はいかに強力でも当たらなければ意味がないのだから…。

これで少しは航空戦力に対しての偏見がなくなればいいがと思ったものの、それは難しいのかもしれない。

やはり、一度、機動部隊での大戦果を示さなければならないのかもしれないな。

鍋島長官はそんな事を思いつつ、次の報告書に手を伸ばした。

マシナガ本島にある航空技術局からの報告である。

艦上戦闘機紫電改、艦上攻撃機天山、艦上爆撃機彗星の生産が始まったという内容で、週に五~六機ずつ製造になりそうだという事と、次期主力戦闘機烈風と攻撃機流星改の試作機が完成してテスト飛行を行う予定という内容だった。

模型で製作できるのに、なぜそんな事をしているのかと言うと、飛行機製造技術の維持と向上と言う意味合いもあるが、最も大きいのはさすがに数をそろえるのには手間と時間がかかりすぎるからだ。

もちろん、模型から製作した機体はある程度の数はある。

しかしだ…。

一隻の空母で五十から八十機。

さらに基地用や予備機なんかも考えればとてもじゃないが無理だ。

それに、修理やメンテナンスを考えれば、ある程度製造できるようにしておくほうがいいだろう。

現在、昔は模型で製作していた二式大艇や零式水上偵察機等はこちらで生産されており、生産ラインを形成して部品提供も順調だ。

これに一式陸攻などの爆撃機などの生産ラインもまもなく完成する。

「ふう…。やっとか…。これで機体の交換が出来る…」

報告の内容を確認し、鍋島長官は呟く。

現在、空母部隊に配属されている主力機体は、初期の日本軍機動部隊が使用していた零戦21型、九九艦爆、九七艦攻の三機種だ。

それに偵察機彩雲を運用している。

彩雲は生産ラインを用意したが、零戦21型、九九艦爆、九七艦攻は生産ラインを形成していない。

模型で製作したものだけであるため部品はある程度あるものの、破棄の後の追加はなく、現在はあくまで航空母艦導入時の機体として運用しているのみである。

また、ビスマルク等の同時期の戦艦などの艦艇があるという事は、飛行機を保有する連中がいてもおかしくない為、早めの機体交代を行う必要があるだろう。

なんせ、敵がF-6-Fとかコルセアなどの戦争後期の機体を投入してきたら、いくらこっちのパイロットが腕利きでも苦戦するだろうし、何より被害が大きくなる。

パイロットの育成はかなり力を入れているが、それでも時間と金がかかるし、なるべく戦死者はないほうがいい。

それに、多くの熟練パイロットを失っての、未熟なパイロットの大量投入、被害の拡大とかの負の連鎖だけは避けたい。

そうなったら末期症状と言っていいだろう。

ただ、航空兵力はこうしてなんとかなるが、最大の問題は指揮官不足と言う事だ。

この前の飲み会で話した感じでは、的場大佐が候補筆頭だが、それ以降が続いていない。

それに、的場大佐は今色々仕事を抱えて動けない有り様だし、できれば機動部隊を指揮できる人物があと三人、四人は欲しい。

さて…どうすべきか…。

頭をかきながら考えるものの、そうそういい案は浮かぶはずもないし、時間は有限である。

「しかたない。次だ次!」

そう独り言を言いつつ鍋島長官は次の書類を手に取る。

やる事は山積みなのだ。

少しずつやっていくしかない。

そう自分に言い聞かせて…。


「こいつか…。烈風っていうのは…」

真岸中尉は滑走路に待機している二機の機体を見て呟く。

彼の目の前には、深い緑と緑がかった灰色の二色を上下に塗り訳された実戦塗装された機体と、ジュラルミンの地のままに輝く機体が並んでいる。

「はい。こっちの塗装されている分は前期生産分で、隣の銀色のが生産ラインにのせるための後期生産型の試作機です」

そう答えたのは、機体のチェックをしていた整備士の一人で、にこやかに笑いつつ手を差し出した。

「生産ライン構築計画の主任を任せられている上月です」

「こっちに配属になった真岸だ。よろしく頼む」

「こちらこそ、ご迷惑をかけるかと思いますが…」

そう言って、機体の説明を始める。

前期生産分は鍋島長官が模型から製作した分のことで、後期生産型が生産ラインを使って生産された分として区別されている事や機体の簡単なスペックなど…。

それを一通り聞いた後、真岸中尉は銀色の機体の方に近づくと、機体に手を触れる。

「なるほどな…。そういうことなら…。要はここに派遣された俺の仕事は、乗り比べての機体検証をやれってことだな?」

「はい。その通りです。御理解が早くて助かります」

「そうか。わかった。ところで…」

機体に向いていた真岸中尉の視線が上月主任に向けられる。

「なんでしょう?」

「こいつはすぐにでも飛べるのか?」

「ええ。もちろんですが…」

真岸中尉の顔が実にうれしそうな笑顔になる。

「なら、早速飛んでみたい。準備してくれ」

「えっと…今からですか?」

「ああ。今からだ。我慢できそうにない」

「えっと…」

何か言いかけて上月主任は思い出す。

事前に渡された真岸中尉の履歴書の一番下に書かれていた事を…。

『飛ぶ事が三度のメシよりも好きな飛行馬鹿』と…。

こりゃ、かなり振り回されそうだな。

そんな事を思いつつ上月主任は頷いて口を開く。

「わかりました。すぐに用意いたします」

そう言った後、すぐに部下達に指示を出す。

「よっしゃっ。そうこなくちゃ…」

飛び乗るように烈風のコックピットに入り込む真岸中尉。

それを苦笑しつつ見る上月主任。

しかし、この二人の出会いによって、烈風と流星改の生産ライン構築は予想されていた時間よりもかなり早く構築する事に成功し、それだけに留まらず、フソウ連合の飛行機に関する技術構築の底上げにかなりの貢献をする事となるのであった。

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