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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十八章 帝国崩壊

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エスケープ・プラン  その3

エスケーププランが発動して二日目。

この日も十五時を過ぎ、誰もがこの日も問題なく終わるのではないかと思っていた。

しかしそう思った矢先に、気球に乗って警備していた連絡員から無線が入る。

「こちら、監視気球206です。南東の方角からこちらに向かう一団があります。こちらからみた感じ、恐らくですが敗北した味方のようです。数は…およそですが千から二千程度…。距離は…十キロ先といったところでしょうか…。今の進行速度なら二時間から三時間ほどでこちらに到着すると思われます」

その報告は、進行状況の確認の為のミーティング中だったアデリナや前線指揮を任せた三人、それに他の指揮官達にすぐに連絡される。

その連絡を聞き、前線指揮の三人以外の指揮官達がざわめく。

味方が敗走してこちらにたどり着こうとしているのだ。

助けなければ…。

その場にいたほとんどの者がそう思ったのだろう。

たが、そんな中、アデリナは興味なさそうな視線を報告者に向ける。

「それで?」

その言葉に、指揮官の一人が驚いたような顔をして声を上げた。

「アデリナ様、味方ですぞ」

「それが?」

報告者から声を上げた指揮官に視線移して、アデリナは呆れたような口調でそう言い返す。

「ですから…」

「昨日、私は皆に説明したわよね。今後の方針を…」

きつめの口調でそう言われてしまうと言葉を返せなくなったのか指揮官は口をパクパクさせている。

その様子を、呆れた表情を浮かべて見返しながらアデリナは口を開いた。

「皆わかっていると思ってましたが…」

「ですが…」

「それに地雷原も鉄条網も通り道なんて用意してませんよ」

そのアデリナの言葉に思い出したのだろう。

指揮官の顔が渋いものになった。

しかし、思いついたのだろう。

すぐに口を開いた。

「それなら、近くの海岸に誘導して船でこちらに…」

「あんた…馬鹿?」

アデリナの心底馬鹿にした口調でそう言われ、指揮官は目を白黒させた。

しかし、そんな状態の指揮官に構わず、アデリナは言葉を続けた。

「今動ける船には物資を出来る限り積む計画になっていますから、そんな事をさせる余裕の船なんてありませんよ。それに今でさえ計画の進行が一杯一杯なのにどうするというんですか?」

「なら…」

そう言いかける指揮官の言葉を遮るようにアデリナが強い口調で言葉をかぶせる。

「まさか積み終わった物資を一旦下ろして…とか言いませんよね…」

その言葉には今までにはなかった殺気が込められており、文句を言わせない迫力があった。

「い、いや…私は…そんな事は…」

しどろもどろになっていい訳をする指揮官。

その時点で、そう思っていた事が丸わかりだ。

ますます呆れた顔のアデリナだったが、何か思いついたのだろう。

すぐに微笑を浮かべた。

「物資は駄目ですから…。そうだ。今から提案する事を認めたら助けましょう」

そのアデリナの急激な変化に指揮官は驚いたものの、すぐに期待したような表情になった。

「それって…」

そう聞き返す指揮官に、極上の微笑を浮かべてアデリナははっきりと言った。

「決まっているじゃありませんか。彼らを助けて船に乗せる代わりに、助ける事を提案した人達はここに残ってもらいましょう。だって、自分の身を犠牲にしてまでも救済したいと言う事ですわよね。それほどの決心があるから私に逆らうのでしょう?」

確かに微笑んでいるが、その目は笑っていなかった。

それどころか冷たく殺気立っている。

その上、口調は実に嫌味ったらしい。

救援を提案した指揮官はアデリナの様子と口調に恐怖し、そして味方を求めた。

一人ではアデリナの前ではあまりにも心細かったのだ。

しかし、誰もが視線を逸らしていく。

要はアデリナに逆らう気なんて毛頭ないと言うことだ。

その結果、その視線は部屋の中を彷徨い、そしてやっと一人の男へと止まった。

「た、大佐っ。なんか言ってください」

それは助けを求める言葉だ。

この基地でのアデリナに次いでの階級を持ち、アデリナの副官という地位にされ不満を持っているに違いないと思っていたのだろう。

確かに今までのゴリツィン大佐ならば波風を立てるのを嫌い、お互いに「まぁまぁ」と言って間を取り持っただろうし、彼はそうやってうまく取り入って出世してきたのだ。

だから、波風を立てずにこの場を治めるという事を期待したのだろう。

しかし、その予想とは違ってゴリツィン大佐は少し眉をピクリとさせただけだった。

そしてため息を吐き出した後、淡々と言い返す。

「私はアデリナ様の方針を支援します。我々が生き残るにはアデリナ様の方針を徹底的に行う以外ないと思っています。それができないと言うのなら…」

そこで一旦、言葉を止めてゴリツィン大佐は息をすう。

そして大きめの声で、しかし感情を込めずに宣言した。

「指揮官としての地位を剥奪する。そして、今こそ力を合わせなければならない時に和を乱したとして営倉送りにしてやる」

唖然として固まる指揮官。

完全に予想外の言葉であり、何も言えなくなった。

これ以上は無理と思ったのか、或いはゴリツィン大佐の言葉に恐怖したのだろうか。

ともかく、その場にいた誰もが黙り込む。

「これでアデリナ様の方針に反対のものはいないようですな」

ゴリツィン大佐の言葉に、アデリナは苦笑しつつ答えた。

「そうみたいね」

アデリナもさすがにお前が黙らせたんだろうとは言えなかった。

なんせ、助けてもらったようなものなのだ。

彼らにとってゴリツィン大佐は頼れる上官で、その上官さえもがアデリナに従っているという事実が彼らを大人しくさせているとわかる。

普段は傍若無人のアデリナだがさすがに恩を仇で返すようなひねくれた精神は持ち合わせていないつもりだ。

だから、ゴリツィン大佐が重戦艦四隻に砲撃命令を下すのをただ頷いて承認するだけであった。


「いいかっ、野郎ども、俺達が国民義勇軍の連中に認められるためには、手柄が必要だ。わかっているだろうな」

その隊長の言葉に、部下達が肯定の意思を言葉やゼスチャーで示す。

彼らは元々は帝都防衛の部隊の一つだ。

他のいくつかの部隊と共に帝都の前の草原で国民義勇軍と戦うはずであった。

しかし、彼らは圧倒的な国民義勇軍の兵力に恐怖して戦わずして逃走した。

一緒に戦うべき味方を見捨てて…。

そういう行動をしてしまった以上、もう親衛隊には戻れない。

そこで彼らに残された道は、国民義勇軍に降伏し、彼ら側につくことだ。

しかし、今や圧倒的な戦力がある国民義勇軍が、彼らの部隊の降伏を受け入れてその上に味方として信用するだろうか?

答えは限りなく『NO』という事になるだろう。

親衛隊はあまりにもやりすぎたのだ。

だからそれでもなお、味方として彼ら側につくには手土産が必要となる。

つまり、軍港モッドーラとそこにある艦隊を手土産にと考えていたのだ。

なあに、敗走している味方を装えば、これなら絶対にうまくいく。

隊長はそう考えていたし、部下もそう思っていた。

軍港モッドーラの元味方の連中を同情はするものの、自分らの安泰が最優先だ。

だから、俺達の為に死んでくれ…。

そんな事を考えていたが、彼らはすぐにそんな事を考える事は出来なくなってしまった。

風切り音がしたかと思うと、圧倒的なまでの暴力によって蹂躙されてしまったからだ。

四隻の重戦艦の砲撃。

それによって吹き飛ぶかつては人だったもの。

それらは引き千切られ、あるものは原形をとどめないほどに四散し、その場に血と肉の雨を降らせる。

まさに地獄絵図のような場だが、それでもなんとか生き残ったもの達がいた。

しかし、誰もが目の前の光景に心が麻痺して恐怖ですくみ込んでしまい動けない。

そんな有り様であったが、それでもまだ足りないと言うかのごとく艦砲射撃という暴力が続けて振るわれていく。

地面が何度もえぐられ、ただの血肉が何度も何度も降り注ぐ。

それでやっと我に返ったのだろう。

運よく砲撃の範囲外だった兵達が慌てて逃げ出す。

武器を放り出し、身にまとっていた装備を打ち捨てて。

その移動スピードは、来るまでに比べると実に速い。

それはそうだろう。

まさに必死だ。

しかし、いくら速いとしても、その程度の速度では砲弾の方がはるかに速いのだ。

その結果、逃げる兵達を追いかけるように砲撃は続き、わずか三十分程度の砲撃で、元帝都守備隊の一部だった千百二十二名の戦力が完全にこの世界から姿を消したのだった。

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