戦艦 大和改はもっと打っ放したい その3
一週間後、マシナガ本島の海軍司令部のある基地の湾内には、当初予定の数よりも多い十一隻の標的艦が用意された。
理由としては、簡単な塗装と偽装も大まかでいいために思ったよりも製作期間が短くてすんだのと、部品取りしたものや同じ艦艇でも各メーカーごとに買って比較して作らずに余ったままに放置していた艦体などが結構あったりしたからだ。
また、知り合いから部品取り用でも使ってくれと譲り受けた作りかけのアイオワ級などの海外艦が数隻あったので、それも急いで完成せて追加した。
(他の人の手が入っているため、付喪神は憑依しない)
その為、一部の艦には砲塔がなかったり、艦橋がなかったり、アンテナなどの部分がなかったりといったものも見受けられるが、艦体はしっかりと作ってあるので標的として使う分には問題はないと思われる。
また、各艦艇には、時間制限ではあるがタイマー式の無人移動装置が取り付けられた。
無人移動といっても、短時間低速で事前に決められた動きをするだけではあったが…。
それでも動かない標的に比べれば、命中させる難易度は高くなる。
せっかく実艦を使っての砲撃演習なのだから、より練度の上がる内容にしたい訓練になるように工夫をしておきたいと考えた結果の設置だ。
そして、その標的艦十一隻の内訳は、以下の通りである。
戦艦 金剛型 二隻
大和型 一隻
アイオワ型 一隻
キングジョージV型 一隻
クイーン・エリザベス型 一隻
空母 大鷹型 一隻
軽巡洋艦 大淀型 一隻
駆逐艦 秋月型 一隻
吹雪型 二隻
この中でも、特に注目されているのは、大和型、アイオワ型、キングジョージV型の三隻だ。
大和型、アイオワ型は、当時、日本、アメリカ最強の戦艦だ。
その防御力の高さについて確認するだけでなく、もし匹敵する強力な艦艇と戦う時にどういった方法を取ればいいかという確認にもなるだろう。
それと、キングジョージV型は、あの話の確認を行いたいと思っている。
あの話とは、キングジョージV型の艦橋は重装甲を廃して駆逐艦クラスの砲撃に耐えうる防御力のみであったというやつである。
まぁ、故障しやすい主砲に関しては、竣工してからの改良によってかなり良くなったらしいからいいとしても、艦の司令に関わる艦橋の装甲が薄いというのは問題だ。
ラッキーヒットなんて早々ないとは思うものの、やはり万全を尽くしたいと思うので、今回の結果をベースに装甲増加を検討する予定となっている。
あ、そうなると機関の出力もアップする必要があるか…。
ともかく大改造になる事は間違いないだろう。
その為、当面は外洋艦隊配備のキングジョージVは現状のままで、改造済みの二番艦のプリンスオブウェールズが実戦配備するようになったら、交代して改造する事になるだろう。
そういったことで、今回、この三隻に関しては、特に念入りに調査が行われる事となった。
「すげぇ…」
標的用の艦艇が並んでいるのを見てまず大和改が発した言葉がこれだった。
今回の砲撃訓練に参加予定の艦艇の付喪神達も皆、驚嘆の声を上げている。
まさかここまで用意されているとは思っていなかったのだろう。
もっとも、こんな感じで出来るならもっと頻度を上げてもらおうとか思ってしまったら大事になりそうだったので釘を刺しておくことにした。
「今回は、偶々我々の調査目的と艦艇の整理、それに大和改の要望が重なった結果だ。いつもこんなに簡単にできるとは思わないで欲しい。いいかな?」
「もちろんでさぁ…」
大和改が大きな声でそう言うと、他の艦艇の付喪神達も同意の声を上げたり頷いている。
その軽い感じの反応に本当に理解しわかっているのか聞き返したくなったが、余計な事になりそうだったので突っ込まない事にした。
もしまたいろいろい言い出しても、今回の事を出せば当面は文句を言わないだろう。
「さて、準備はあと二・三日のうちに完了する。よって、三日後の九時より演習海域で実施予定だ。まずよほどの事が起きない限り実施するつもりだが、緊急事態には延期もありえると思ってくれ。後、今回の演習は装甲や防御に関しての調査を行う必要性がある。砲撃を一旦停止したりする事もあるが、それは理解してくれ。それと各艦、それにあわせて十分に準備を行うように」
そこまで言った後、僕は笑って言葉を付け加える。
「こういう機会は、早々ない。皆、しっかりと楽しんでくれ」
その言葉には、本当なら艦隊同士の打ち合いを期待しながらも、その機会に恵まれない艦艇達に対して申し訳ないと言う気持ちと、彼らのそういったことに対してのストレスの発散になればという思いを込めている。
それが何人かはわかったのだろう。
ニヤリと笑う者、申し訳なさそうに頭を下げる者、反応は色々だ。
だが少しでもわかってくれている者がいるという事に少しほっとする。
「よっしゃーっ。やるぞぉーっ。燃えてきたーっ!!」
もっとも、そんな言葉を叫びつつ楽しそうに笑う言いだっぺの大和改はわかっていないようだったが…。
そして、演習当日、僕は水上機母艦秋津洲の艦橋にいた。
日頃の行いがいいのか、実にいい天気だ。
雲ひとつないほどで空も海も青々としている。
本当なら、少しぐらい曇っていたり、小雨があったりした方が実戦ぽいんだが、今回は調査も行わなければならないため、こういった天気がかえっていいかなと思ったりする。
そんな事を思っていると、側から声をかけられた。
「なんか久しぶりという感じですな、長官」
そう言って笑うのは、秋津洲だ。
二式大艇を運用できるという利便性から、以前から秋津洲に乗艦することが多かったが、ここ最近は司令部にいる事が多くて現場近くまで行くこともない為に軍艦に乗艦する事は久々と言っていい。
「ああ。久しぶりだね、秋津洲。今日はよろしく頼むよ」
僕の言葉に、秋津洲はうれしそうに笑う。
「いやはや、こちらこそよろしくお願いします。長官が乗られるというのは、実に光栄な事ですからな。食堂のコック長も今日は特に張り切らせていただきますといっておりましたから」
「それは、それは…。昼食は期待していると伝えておいて下さい」
僕の言葉に秋津洲は実に愉快といった感じて笑っている。
「了解しました。もし、他にも何か必要な事があったら言ってください」
「ああ。その時は頼む事にするよ」
僕はそう言って笑うと艦橋の窓から見える光景に興奮していた。
秋津洲の周りには、今回の演習に参加する艦艇が艦隊を組んで進んでいる。
その内容は、砲撃訓練を行う第一戦隊戦艦 金剛 比叡、第二戦隊戦艦 榛名 霧島、第六戦隊戦艦 大和改、第十戦隊重巡洋艦 妙高 羽黒、第一駆逐隊駆逐艦 白露 時雨 村雨の十隻とそれに追随する調査や補給のための第一支援隊の工作艦 明石、第一輸送隊の輸送艦 佐渡丸 崎戸丸、そして第四警戒隊の水上機母艦 秋津洲、つまり本艦を合わせて五隻、つまり合計十五隻となる。
また、調査や研究の為、普段なら前線に出ない研究や技術部門の人間がかなり現場に立ち会っている。
もっとも、前日の打ち合わせの時は、乗り込む先の艦艇の関係者とかなり密度の濃いいミーティングをやっていたから、よほどの事がない限りトラブルは起こらないと思う。
しかし、艦隊を見ながら思う。
数的にはこの世界の規模ではそれほど大艦隊といえる数ではないが、内容は間違いなく最強と言っていいのではないだろうか。
その勇姿を見つつなんとか落ち着こうとするが興奮が収まらない。
なんせ、自分の艦隊を指揮するのは夢だったのだ。
実際に指揮しているわけではないものの、その一部というか雰囲気でも味わえるというのはたまらないものがある。
「ああ、なんか、艦隊司令になったみたいだよ」
思わずぽろりとそんな事を口にしてしまう。
僕の言葉に、後ろに控えていた東郷大尉や秋津洲、それに艦橋にいた乗組員がくすくす笑う。
なんかおかしな事をいったかなと思っている僕に、東郷大尉が笑いつつ指摘する。
「長官、何を言っているんですか。あなたは海軍の最高司令長官ではありませんか…」
いや確かにそうなんだけど、実際にこういった感じでの艦隊司令みたいな雰囲気を味わう事はほとんどなかったからなぁ。
それに艦隊に便乗した時もない事はないけど、ここまですごい布陣ではなかったしね。
だが、彼らにしてみれば、長官になっているのに今更何を言われているんだろうという事なんだろう。
そんな彼らの考えもわかるので、僕は苦笑するしかない。
「まぁ、そうなんだけどね…」
その僕の言葉と恥ずかしそうに頭をかく様子がツボにはまったのだろうか。
笑いは収まるどころか、余計に大きくなった。
まいったなぁ…。
さて、どうやって治めようか…。
そんな事を思っていると見張りの兵からの報告が来る。
「まもなく演習海域に入ります」
その報告に、笑い声が収まって全員の顔に緊張が走る。
そして、すぐに先行していた標的艦を指揮している艦隊から連絡が入った。
「準備完了です。予定変更はありますでしょうか?」
「標的艦の方には、『今のところ大きな変更なし。予定通り始めてくれ』と伝えてくれ。それと各艦艇には『速やかに準備を始めて時間になったら訓練を開始せよ』と伝えるように」
通信士が機械に向き直り、命令を受けた伝令の兵が外に走り出す。
無線だけでなく、手旗信号と灯火による視覚信号を行う為だ。
無線連絡と信号を受けて、艦艇が打ち合わせの通りに動き始める。
僕は首にかけた双眼鏡を持ち呟いた。
「さて始めようか…」
おかげさまで連載一年突破となりました。
本当にありがとうございます。
つきましては、外伝で読みたいキャラクター(付喪神もOK)のリクエストを募集します。
詳しくは活動報告の『連載一周年企画』のところを読み、ご記入くださいませ。
参加お待ちしております。




