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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

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三月二十二日の出来事…  その2

「第二三分隊は、向かいの建物の屋上に向います」

「次に第一六分隊は、先の通りにある周辺のチェックを急げ」

「第四二分隊、予定より遅いぞ。チェック急がせろ」

「こちら第一一分隊。現場に問題なし。これより警戒に入る」

「第七分隊、聞こえるか。そっちの現状を報告せよ」

何人もの声が周りに響く。

ここは、今回のアルンカス王国で行われる一連の会議や式典等の警備を担当する為にアルンカス王国軍司令部に急遽設置された作戦指令部だ。

建物はアルンカス王国から借りてはいるが、設備や機材はフソウ連合から今回の為に運び込んでいる。

もちろん、設備だけではない。

諜報部を中心に、陸戦隊や警備部隊から人員が今回の会議や式典等を円滑に済ませるべく借り出されている。

その人数は、実に千人近い。

また。それだけでは人手が足らず、アルンカス王国の兵士や警察官なども二千人近く動員されていた。

その為、その報告量は膨大となり、特に連絡や報告が集中する無線室は、何十台もの無線機と電話機が鳴り響き、人がせわしく行き来している。

まさに、戦場だ。

「すごいですな…」

驚いた表情でその無線室の様子を見るのはアルンカス王国首都防衛隊の指揮を任されているファーラング・トンロー大佐だ。

白髪の混じった陽気な親父といった感じで、私服だとまず軍人に見えないだろう。

そんなタイプだ。

年は今年で五十六歳で、軍の最年長である。

なぜ彼の年で最年長かというと、愛国心の特に高い年配の多くの軍人が共和国の元で働く事を嫌い、軍を離れてしまっていた為だ。

最初は彼も退役するつもりであった。

そんな中、彼が残ったのは、宰相のバチャラの親戚であり彼に頼まれたのだ。

『きっと独立させる。その為には、軍部の中にもしっかりした人が残っている必要がある。だから、残留をお願いしたい』

その必死なまでの願いと深々と下げる彼の姿にファーラング大佐は感動し、軍に残った。

その為、彼が最年長となったのである。

そんな彼の横には、二人の人物がいた。

一人は、フソウ連合海軍諜報部の長である川見大佐であり、もう一人は彼の副官である三島小百合だ。

中尉待遇の魔術師であった彼女だが、今や黄色一色の特別な階級章ではなく、きちんとした階級章を付けた軍服に身を包んでいる。

襟元に魔術師を示す黄色いラインがあるものの、階級章は普通のものと同じで示す階級は少佐だ。

前回の魔女の件の後処理やイタオウ事変での活躍などがあり、また本格的に軍の中に魔術師を取り入れていくため、彼女がモデルケースとなって階級が引き上げられたのである。

「しかし、本当に兵をお借りさせていただき助かりました」

川見大佐が頭を下げると、ファーラング大佐が慌てたように両手を振った。

「何を言うんですか。我々としてもフソウ連合海軍のお手並みを勉強させてもらえるいいチャンスですから」

そう言った後、念を押すように聞き返す。

「しかし、本当にいいのですか?」

「ええ。構いません。これは長官からの指示ですから」

川見大佐は苦笑してそう答える。

そう、今使われている設備や機材は、機密に触れる一部を除き、すべてアルンカス王国へ譲渡されるのだ。

また、設備や機材だけではない。

今回の警備の為という名目で、四一式山砲十門、一式機動四十七粍砲十門、九二式十糎加農砲五門など大型火器三十三門、車両も戦車こそないものの、九四式六輪自動貨車二十台、九五式小型乗用車二十五台など九三式側車付自動二輪車などのバイクを含めて合計で八十台近い車両が運び込まれ、そのほとんどは機材と一緒に引き渡される。

もちろん、ただ引き渡すだけでなく、使用方法や整備等の技術支援も行う事になっており、これによりアルンカス王国軍の火力と機動力は一気に上がる事となる。

「しかし、指導などを含めてとなると…」

そう言いかけるファーラング大佐に、川見大佐は笑いつつ言葉を重ねる。

「何、我々としてもアルンカス王国が弱いままでは困るのですよ。いつまでも足を引っ張られても困るし、せめて我々と肩を並べて戦える程度にはなってもらわなければね」

その言葉に、慌てて三島少佐が口を挟む。

「大佐っ、そんな言い方しなくても…」

だが、ファーラング大佐はカラカラと笑う。

「いやいや、気になさらないでお嬢さん。かえってはっきりそう言ってもらったほうが気持ちがいい。それに、実にわかりやすいではないか」

そう言うと右手を差し出す。

その右手をちらりと見た後、川見大佐も右手を差し出した。

「話が分かりそうな方がいてよかった」

そして二人はニタリと笑うとがっしりと握手する。

それを横で見つつ、三島少佐はため息を吐き出した。

「なんなのよ…もう…」



「こちら第三ポイント。駄目です。兵士が警戒しています」

「第一ポイント、兵士がいて近づけません」

「第八ポイント…。無理ですね」

次々と上がってくる報告は、全部が失敗の報告ばかりだ。

最初は落ち着いていた男も、最後のポイントも駄目だとわかり、我慢が出来なくなったのだろう。

その場にあった身近な椅子を蹴りつける。

蹴られた椅子はぐるりと回転し壁に叩きつけられた。

派手な破壊音と共に、椅子が崩壊し、その場でゴミと化す。

「くそったれっ。誰だっ、フソウ連合海軍の諜報部は無能のサルだって報告しやがったのはっ。そいつを八つ裂きにして釜の中に放り込んでやるっ」

そんな男の怒気に触れたくないのだろう。

部下達は少し男と距離をとる様に離れる。

しかし、それも男にはわからない。

ただただ思い通りにならないのを物に当たるしかない。

今度は、テーブルだ。

テーブルがひっくり返され、のっていた書類がまわりに飛び散るかのように散らかる。

「はーっ、はーっ、はーっ」

荒い息をしつつその場に仁王立ちで立つ男に、恐る恐る部下の一人が声をかけた。

「あ、あのぅ…」

「なんだっ!」

声をかけてきた部下の方に向き、噛み付くかのような勢いで男は口を開く。

「あ、あのっ…そのですね…」

「さっさと言えっ!!」

男の怒りの炎に油が注がれたかのような勢いだ。

それに恐怖するも部下はなんとか言葉を口にする。

「これからどうされるのですか?」

その言葉に、男の顔が歪む。

それは狂気に駆られたかのような歪な歪みだった。

「お前よぉ…秘密裏に殺れって言われたの忘れたのかよ?」

「い、いえ。忘れておりません。ですから、全ての襲撃ポイントを押さえられた以上、作戦は…」

部下の言葉はそこで途切れた。

いや、口は動いている。

ただ、言葉にならなかっただけだ。

ごとん…。

部下だったものの頭が床に転がる。

そしてまるで止められていた時計が動き出したかのように、部下だったものの首の切れ目から噴水のような血が噴出した。

「ひいいいいいいっ…」

周りにいた他の部下達が悲鳴に似た声を上げて、仲間だったものの近くから離れた。

天井が、床が、真っ赤に染まる。

それはまるで子供が赤い絵の具を塗りたくったように。

その血の噴水を見た為だろうか。

男を支配していたさっきまでの怒気が薄れていく。

「ちっ…しかたねぇ。作戦失敗だ。撤収を始めるぞ。今回は、ターゲットの顔を知る事が出来たという事でよしとするか…」

男がそう言うと、部下達が慌てて撤収作業を始めた。

その様子をぼんやりと見て、男は深々とため息を吐き出すと近くのソファに乱暴に身を預ける。

そして、ひっくり返したのとは別のテーブルに載っている幾つもの写真の中から一枚を取り出すと、それを吊るすかのように持ってじろりと見た。

「命令されちまったからな…。次の時は…その首、貰い受けるからな…」

男は呟く様にそう言うと、その写真から手を離す。

ひらひらと写真が床に落ちると、男の足が写真を踏みにじる。

「サダミチ・ナベシマ…。あんたは俺の獲物だ…」

男はそう呟くとニタリと笑うのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 場面や勢力が変わる時の行(空白)を広くした方が変わった事が分かりやすいと思います
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