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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

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三月二十二日の出来事…  その1

三カ国共同作戦での勝利の後、港や基地の検分と防御の為に準備していた陸上兵力と第六水雷戦隊と協力をしてくれる共和国艦艇を残し、残りの艦隊は当初の予定どおりアルンカス王国に向った。

もう調停の話し合いをする必要はなかったが、調停を行って問題は解決したと世界にアピールする必要はあったためだ。

そして、その向っている間に、鍋島長官は以前から考えていた多国籍艦隊による海路警備についての提案をアッシュとアリシアにした。

もちろん、提案と同時に海路警備の安定と負担の軽減、そして今回のような対立を防ぐという利点を説明したが、やはり一番大きかったのは、今回の三カ国共同による作戦によって現場の軍人達の交流で、今まであった互いのわだかまりが少しとはいえ減少したことであった。

その予想外の提案に、最初こそ驚き考え込んだ二人であったが、同席した軍部の意見を受けてすぐに前向きに検討するということになる。

また、それにあわせ、今回の戦いで接収した港と基地は基本的にはフソウ連合領とするが、組織が安定したら特別地区として組織に譲渡する事が正式に決定した。

ただ難航したのは、組織名だった。

いろいろな意見が出たものの、結局は無難な『多国籍による国際海路警備機構(International Maritime Security Agency)』略して『IMSA(イムサ)』となった。

正式な発足はまだだが、アルンカス王国に着くまでの間、三カ国だけでなく他の国にも参加を呼びかけること、本部はアルンカス王国に置くこと、各地の無人島に組織専用の基地と港を準備する事などの基本的な部分から、組織の指揮系統や運営といった事細かな部分までがしっかりと三カ国間で話し合われた。

また、その間に、各国の艦艇に他国を招待しての交流の行われた。

特に、今回は艦艇の売込みを狙っているフソウ連合海軍のプロモーションはすごかった。

護衛や警護に向いているE型駆逐艦、O型駆逐艦だけでなく、重巡洋艦エクセター、戦艦キングジョージVの見学さえも行われたのである。

もっとも、電探を初めとする軍事機密に関しては伏せられたものの、それ以外の部分にはかなりオープンに行われた。

そして、それに当てられたというわけではないだろうが、王国、共和国も自国の艦艇の見学を実施した。

互いの実力は知っておいたほうが良い。

それが現場で戦った軍人達が今回の戦いで感じた事であったからだ。

また、軍人同志の交流も行われ、言葉の壁というものはあったものの、少しずつではあったがその壁は削られていく事になる。


「いやはや、実に有意義な二日間だったよ」

まとまった提案が書かれた書類の束を立ててトントンと整えながらアッシュが笑う。

もっとも、顔には疲労の色がある。

「ええ。こんなにしっかりと、それも他国の方と話し合いが出来るとは思いませんでしたわ」

そう言って笑うアリシアも少しぐったりとしている様に感じられた。

「そうですね。これで大体の骨組みは出来上がったと思います。後は、それぞれの国に戻って正式に承諾していただける事を願ってますよ。今回の苦労が無駄にならないようにね」

そう言って二人を交互に見た後屈託のない顔で笑う鍋島長官。

もっとも、彼もかなり疲れているのだろう。

言った後に首や肩を動かした。

「当たり前だよ、サダミチ。こんなにワクワクしながら決めた事が無駄になっちゃ、つまらないじゃないか」

「あら、王国では、つまらないだけですの?」

「なんだ?共和国では違うのか?」

アッシュが聞き返すと、アリシアはニコリと笑い答える。

「つまらないどころか、地団駄ふんで悔しがって、辺りに当たり散らかしますわ」

そのお茶目でからかうような物言いと済ました表情のミスマッチで一瞬シーンとなったものの、誰から笑い始めたのかわからないものの話し合いにいた人達はすっきりとした表情で笑っていた。

多分、この話し合いに参加した全員が、この話し合いに参加できた事を誇りに思い、そしてこの話し合いで決められた事を実施する為に力を注がなければならないと再度実感した笑いでもあった。

それを感じ、鍋島長官は満足そうな表情を浮かべている。

そしてひとしきり笑った後、アッシュが鍋島長官に言葉をかけた。

「それはそうと、サダミチに聞いておきたい事があるんだが…」

「なにかな?」

「なに…。アルンカス王国についてなんだが本当に独立させるのか?」

アッシュが探るように聞いてくる。

「ああ。独立させるよ。もちろん、中立国としてだ。イムサの本拠地を置く以上、それは決定事項だ」

鍋島長官の言葉に、アッシュは頷くとニヤリと笑った。

「なら、王国も一口噛ませて貰おうかな…」

「それはどういうことだ?」

「王国としても、新たな独立国となるアルンカス王国ときちんと国交を持ち、フソウ連合と同じように独立維持を擁護したいと考えている」

意外な言葉に、鍋島長官が驚く。

「いいのか?そりゃ、多国の擁護があればこっちとしてもアルンカス王国としても助かるが…」

「王国はフソウ連合と同盟を結んでいるんだ。そのフソウ連合が全面的にバックアップする独立国家だ。恩を売っておいても損はしないだろう?」

そう言ったアッシュの顔は、まるで悪戯を狙っている様な楽しげな表情になっている。

楽しくて仕方ないといった感じだ。

そして、それにあわせるかのように鍋島長官もニタリと笑いつつ、聞き返す。

「それだけじゃないだろう?」

「いや、何、植民地支配とは違う方法を学べないかなと思ってね。植民地支配ではなかなか上手くいかない地域なんかもあるしな。そういうところとの交流なんかに役に立たないかなと…」

そのアッシュの言葉に、べテルミア大尉が呆れ顔で突っ込む。

「殿下…。そういう本音は、他国の、それもあまり人がいないところでお願いします」

べテルミア大尉の突っ込みに、どっと会場が沸く。

そしてその中、笑いながらアリシアも楽しそうに口を開いた。

「元々うまく管理できなかった私達共和国としても、どうやってあの国をうまく丸め込んだのかその手腕を知りたいので、私達共和国からもアルンカス王国との国交と独立擁護を行いたいと思います。よろしいですわよね」

「そうか。我々フソウ連合だけでなく、王国、共和国の擁護が得られるとしたら、アルンカス王国としても大喜びだと思う」

鍋島長官は、そう言った後、ニタリと笑って言葉を続けた。

「しかしだ。皆が疑うような怪しい手法は機密なので簡単にお教えできないが、その分責任と苦労は間違いなくあると思うのでお二人にはしっかりその分だけは背負っていただければと思っている。なお、それでも気になる方は、後日個別にこっそりと聞きに来てくれ」

その言葉に、その部屋にいた者たちがどっと笑う。

実にいい雰囲気で三カ国による話し合いは終了したのだった。


そして…三月二十二日。

アルンカス王国の首都に隣接する湾内は、三カ国による数多くの艦艇が集結した。

その総数は、支援艦などを含めると実に五十隻近い。

そして、街中には、その艦艇を見ようと集まった観光客や地方の人々、それに今回の調停についての取材に集まった記者達でゴッタ返していた。

元々この地に住む人が言うには、毎年行われるどの行事よりも多い人達が集まったという。

そしてそういった人々とのトラブル防止や接岸する港が足りないのとまだフソウ連合がアルンカス王国から譲渡され開発している港は完成していないため、ほとんどの艦艇は湾内で停泊し、小型船やカッターやボートでの移動となった。

その為、大きなトラブルは起こらなかった。

そして、元々来るまでに話し合いで解決されていた調停の件は、大きな修正もなくアルンカス王国が用意した会場で各国の取材陣を集めてフソウ連合主導で午前十時過ぎには発表された。

発表された内容は、共和国、王国、両国ともに相手を襲撃しておらず、国際的な混乱を狙った反政府組織による妨害であり、またそれにより公海の安全と海賊に対しする対策、あと国際治安悪化を治める為に新たに組織を立ち上げることが決まったという事であった。

会場に集まった取材陣は世界大戦の幕開けとなりかねない共和国と王国の戦争という最悪の結果にならない事に安堵したが、それと同時にその新しい世界的組織に興味を持った。

次々と質問が行われ、答えられるものは、その場で答えていく。

その海外の取材陣を集めた記者会見は、実に熱く、有意義な時間となった。

その為、記者会見は最初の三十分の予定が、実に三十分延長の一時間となる。

そして、その後、アルンカス王国の独立に対する発表も行われた。

元々そういう噂はかなり広がっていたとは言え、正式に発表されたのは今回が初めてであり、その独立には、フソウ連合だけでなく、王国、共和国も擁護するという事になり、この件も大きな騒ぎとなった。

一カ国だけだとその国の国力が弱まった場合はアルンカス王国の独立は維持できない恐れがあったが、三ヶ国がそれぞれ擁護するとなれば話は別となる。

これにより、アルンカス王国は独立国としてより強固な基盤を手に入れ、国際的にもより独立国としての体裁を作る事ができるのである。

また、この三ヶ国によるアルンカス王国独立に対する支援は、事前にアルンカス王国に知らされていなかったのだろう。

会場提供国としてその場にいたアルンカス王国宰相バチャラ・トンローはその突然の発表を聞き、男泣きに泣き崩れ、三ヶ国代表である鍋島長官、アリシア、アッシュの手を強く握り深々と頭を下げてまわった。

その様子を各国の取材陣はこう語る。

「アルンカス王国は、三カ国の祝福と協力により強固な独立の立場を得た。これは彼らにとってみれば、まさに神の恵みであり祝福である」と…。

こうして、王国と共和国の調停と航路警備の国際的組織の設立、アルンカス王国の独立という華々しい希望となる事が発表された裏で、秘密裏にうごめく連中の暗躍が行われようとしていた。

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