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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

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日誌 第百八十六日目  その2 

アッシュが行ってから五分もしただろうか。

そろそろ戻るかと思ったら、別の来客があった。

「こんなところにおられたんですか…」

東郷大尉だ。

しかし、その表情はさえない。

どちらかというとうんざりした感じだ。

「どうした?何かあったのか?」

心配して優しくそう声をかけると東郷大尉の後ろの方に人影があることに気がついた。

「ふふふっ。二人の時は優しく声をかけるのですね…」

くすくす笑いつつそう言って現れたのはアリシアだった。

「アリシア様が、お話があるということなので探しておりました」

ちらりと後ろを見た後、うんざりした顔で東郷大尉が僕を見て苦笑している。

一応、賓客だから文句も言えずに流しているのだが、その表情からは複雑な感情が漏れ出ていた。

「ごくろうだったね」

僕はそう言って東郷大尉を心底ねぎらうとアリシアに視線を向けた。

「それで御用はなんでしょうか、アリシア殿」

無意識ではあったが少しきつめの言い方になる。

「ふふっ。あなたでも怒る事があるのですね」

アリシアはそう言った後、今度は東郷大尉に視線を向けた。

「ありがとう。もういいわ」

要は立ち去っていいという事らしい。

だが、東郷大尉はニコリと微笑み、口を開く。

「いえ。長官のお側にいるのは私の仕事ですから…」

「あらそう…。それは残念」

そう言いつつアリシアも微笑む。

しかし、二人の笑顔にはまるで殺気に似たようなオーラがにじみ出ている。

その上、なんか二人の間に火花が見えた気がした。

仲が悪いのか…この二人は…。

『混ぜるな危険』

なぜかその言葉が頭の中に浮かぶ。

「それでお話とは?」

二人のにらみ合うような微笑合戦を見ていられなくて僕がそう声をかけると、アリシアが東郷大尉に向けたものとは違う微笑を僕に向けた。

もちろん、殺気ではなく好意が溢れんばかりの笑顔だ。

その変化に、僕は心の中で苦笑するしかない。

「そうでした。そうでしたわ。あの商業船団襲撃の事がなぜわかったのか。それを聞きたかったんです」

その言葉に、僕は苦笑した。

「アッシュと話でもあわせてるんですか?」

「えっ、それはどういうことですの?」

どうやら違うようだ。

さっき、アッシュが来て商業船団の襲撃について聞いてきた事を話すと、アリシアは納得したような顔で頷く。

「どこも考える事は同じですわね」

アリシアはそう言った後、ため息を吐き出して言葉を続ける。

「祖国の恥ですもの。他国の前ではなかなか聞きづらい事ですからね」

そう言われ、納得する。

今回の件は、裏で大きく操っている人物がいるのは間違いないにしても、実際に事件を起したのは自国の人間なのだ。

それを恥だと感じる人は多いだろう。

特に、愛国心が強い国民性であれば…。

「なに、いろんな人がいますからね。その中には、目の前の利益しか目にいかず祖国をなんとも思わない人達も一定数いると言う事です。気になさらないで…」

そう答えつつ、僕は自分の国の事を思い出していた。

国民の事など二の次で、自分達の利益や政府の足ばかりとって邪魔をする政治家なんかは掃き捨てるほどいる。

そしてそんな政治家が堂々と政治家なんてやっているのは、それを支持する人々がいるという事だ。

つまり、どこも、それが世界が変わっても根本的な部分は一緒なのだという事なのだろう。

「そう言っていただけると、実にありがたいです」

しんみりとした感じてそう言うアリシア。

少ししんみりとした雰囲気になってしまったので、雰囲気を変えるために僕は口を開いた。

「えっと…なぜおかしいと思ったかですよね?」

「ええ…」

「まずおかしいと思ったのは、ほぼ同時に二つが起こったことです。これが少しでもずれていたりしたらそうは思わなかったでしょうね」

「どういう違いがあるんですか?」

「もしずれていたとしたら、それはされた事に対する報復だと誰もが思うからです」

そう僕が言うと、僕が言いたい事がわかったのだろう。

「ああ。なるほど…。そうなると互いが否定しても多くの者は嘘ではないかと思うわけですね。それに報復の連鎖となって争いが大きくなる可能性がより高くなる」

「そういうことです。今回みたいに同時に互いが襲撃されるといった事は、あまりにも偶然過ぎる。ある一定数の人は騙されたとしても、おかしいぞと思う人達も出てくるでしょうね」

「じゃあ、なぜ同時にしたんでしょう?」

そう聞いてくるアリシアに、僕は「あくまでも想像ですけど…」と付け加えて仮説を説明する。

「恐らくですが、襲撃する時期とか地域の問題ではないでしょうか…」

「というと?」

「今回の敵を見て思ったんですが、ただの海賊ではないようです。何かしらの組織という感じでした。そうなると勝手に海賊の縄張りでの活動は出来ません。彼らにしてみれば、反政府勢力としても結局は敵でしかありませんから。そういう理由でどこでもいつでもというわけにはいかなかったと見るべきでしょう。だから、こんなにも同時に近くの海域でという事になってしまった」

「えっと…襲撃してきたのは、軍部とつるんでいる海賊ではない?」

「ええ。恐らくですが、国家転覆とかを狙っている反政府組織ではないかと思っています。恐らく、今の政府に不満を持つ軍部や政治家の一部の連中が関係していると思っていましたが、どうでしたか?」

僕の言葉に、アリシアは暗い表情で告げる。

「国家転覆を狙う秘密結社の一員かどうかは今からの取調べではっきりすると思いますが、かなりの人数の軍部と政治家が今回の襲撃の件で拘束され取調べをうけています」

そしてふうと息を吐き出した後、言葉を続ける。

「それでわたしの手のものが少し探りを入れたら…お恥ずかしい話ですがどうも今回のような事を繰り返しているみたいです」

「ふむ。それを今回はうまく別の連中に利用されたという事ですかね…。或いは…」

僕はそう言って考え込む。

もしかしたら、利用されたのではなく、今回の件で対応できない政府を叩く、或いは軍事クーデターでも起すつもりだったのではないだろうか。

なら、王国の商業船団襲撃も連中が考えた策なのだろうか…。

それならある程度、つじつまが合う。

だが…それでも引っ掛かりを覚える。

政府を非難して叩く、或いはそれを理由に軍事クーデターを起すにしても、わざわざ王国商業船団を襲撃してみせる必要性はあるだろうか…。

自国の商業船団が襲撃されたそれだけでいいはずだ。

王国を刺激して、両国間の関係を一気に急変させるのは連中も望んでいないと思う。

実際、今回の件で一気に戦争への流れになりつつある。

もし、戦争が起こったとしたら、国民は戦争に対してのみ意識が向くだろう。

戦争を起した政府に対しての責任をとかいっても、そんな事をいうより、祖国が勝つ為に動けよといった流れになってしまう恐れが強い。

そうなったら…。

そこまで考えてじっと見つめる視線に気がついた。

アリシアがまるで何を言ってくれるのか楽しみといった感じでこっちを見ているのだ。

期待している眼差しと言っていいだろうか。

慌てて僕は口を開く。

「ああ、すいません。気にしないで…」

「何か考えていたのでしょう?何を考えていたのですか?」

ずいっという擬音がぴったりのように身体を寄せてくるアリシアに、すーっと割り込むように東郷大尉が入り込む。

「あまりにも近すぎると見られた方が誤解されてしまいますから…」

東郷大尉は済ました顔でそう言うと、アリシアを押し戻す。

ナイスだ。

なんかあんな表情で迫られたら、ドギマギして心臓によくなかったからね。

現に少し頬が熱い。

まぁ…一応、僕も男だから…。

「ちっ…」

なんか舌打ちする音が聞こえたが、気のせいかな…。

そんな風に思っていると、少し咳払いをしてアリシアが口を開いた。

「しかし、助かりました」

「何がでしょう?」

「あの報告書です」

そう言われて、やっとわかった。

被害を受けた艦艇の被害報告書の事だろう。

「いえいえ。死亡者はいるのに、負傷者が極端に少なかったですからね。だからおかしいなと思ったので調査しておきたかったんですよ。それで予想通りの結果だったのでほっとしております」

「しかし、あの調査で内部で爆発したのか、外からの砲撃で爆発したのかわかるのですね」

感心したようにアリシアが言う。

「私は詳しくはわかりませんが、わが国はいろいろ装甲や製鉄に関しての研究などを行っていますからね」

僕の言葉に少し考え込むアリシア。

そして、ニコリと微笑む。

実に見惚れるほどの……営業スマイルである。

「それはすばらしいですわ。それならそのうち技術提携なんかを出来ればと思ったんですけど…いかがなものでしょうか」

「まぁ、そういうのは、きちんと話し合いをしてからですね。ここで口約束って訳にもいかないでしょう?」

ピクリとアリシアの眉が動く。

「そ、そうですわね…」

伊達にブラック企業で営業していたわけじゃないぞ。

含みのある笑顔なんて死ぬほど見てきているからな。

もっとも彼女の微笑みは、好意がにじみ出ており、今までのなかで一番好感が持てる営業スマイルではあったが…。

そんな事を思っているとすーっとまた東郷大尉が間に入り込んでくる。

とうやらまた近づきすぎたようだ。

「ちっ…」

また舌打ちする音が小さく聞こえた。

あー、アリシアだよなぁ…。今の…。

思わず苦笑しそうになって慌てて何気ない風を装う。

「そろそろ戻りませんか?」

東郷大尉がにこやかに微笑んで言う。

「そ、そうだね。そろそろ戻ろうか…」

東郷大尉の提案に賛成すると、アリシアもしぶしぶといった感じで同意する。

「なんかやりづらいわね…」

そう呟くような言葉が聞こえたが、僕は聞こえなかった振りをしたのだった。

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